第6話

 ミーンミーンミーン

 蝉がなる夏の夕と、3人並ぶ下校の帰り道。

 なんだこれ?この話は純粋青春ラブストーリーじゃないでしょ。もしかして少女雑誌に移籍したのか?

 「ねえねえ」

 ごめん、してないですね。こんなうざい声は、少年雑誌特有のウザさですわ。

 「前園くんと、広大くんって、何か共通点とかないの?」

 「だから、それは誰と誰を比べてんだよ。」

 「あっ、そっかそっか。君は紫苑くんだったね。失敬失敬。」

 微塵も失敬と思ってない態度に少しイライラし、空想の中で海のビーチを堪能して、心を落ち着かせる。

 あ~、いいね。さざ波の音、波の高なり、砂浜の白さ。すべてがいい。

 「君はいっそのこと広大にしたら?名前。」

 失敬な言葉に、僕は現実に引き戻される。

 「月陰広大...う~ん、名字と親和性が合ってないね」

 「僕の代々の先祖を馬鹿にしやがったな、この馬鹿め。」

 「む、誰が馬鹿だ!誰が馬と鹿じゃ!」

 そうやってわき散らかす馬鹿を抑えてくれないか頼もうとしようと、前園の方を見る。

 「俺とつきかげくんの共通点か...共通点、共通点...」

 ズゴッ おいおい、何でそこで悩むんだよ...

 しっかり姿勢をリカバリーし、前園の方を見る。

 もしかして、こいつも馬鹿なんじゃね...?

 「ごめん、あのさ、つきかげくんの好きな食べ物は、何?」

 「え?」いきなり前園に質問されて、少しきょどる。しかし、ここできょどると、陽キャと話せない陰キャと思われガチなので、3秒でいつもの通りに直して、答える。

 「お寿司、かな...」

 あたりさわりのないけど、結構好きな食べ物を頑張って答える。煮っ転がしとか言えねえよな、普通。

 「なるほど、和食か...俺は洋食好きなんだけど...」

 あっ、そうですか

 「じゃあさ、じゃあさ、好きな色は?」

 陽ノ日が、僕と前園の間に割り込んできて、耳をつんざくような声で質問してくる。

 「赤だよ」前園がシュパッと答える。僕のツイッター魂が目を覚まし、「青だよ...」と、負けじと答える。

 「じゃあ、好きな歌手!」

 「back number!」「Creepy Nuts...」

 「好きな芸能人!」

 「山崎賢人!」「堺雅人...」

 「好きなゲーム!」

 「マリオパーティ!」「FF...」

 「告られた数!」

 「じゅっ...って、あれ?」「言うわけねえだろ」

 「茂内くんは、単にないだけでしょ?」

 「うるさい」

 告られたことくらいあるわ!よく、親とか婆ちゃんに...

 好きよ。すくすく育ちなさいよって。

 ...はっ~

 思わず心の中で溜息をついた。

 「うーん、ここまで違うとは、まさか私も思ってなかったけど...」

 「俺も...」

 ん?ん?ちょっと、前園くん?その言い方は少し僕を馬鹿にしているような気がしなくもないんですけど?一ミリも前園は悪くないけど。

 「やっぱり、私と君じゃなくて、前園くんと君が正反対なのかもね!」

 「せい、はん、たい...?」

 前園が正反対という言葉に、意外に過剰に反応して、考える人みたいなポーズをとる。

 「確かに...」

 「おい、そこは納得しないでくれよ...」

 「アハッ」「アハッ」

 前園と、陽ノ日が、全く同じタイミングで、同じように笑った。なんと最低な奴らだ、と思ったけど、僕はそこで確信した。

 きっとこいつらは似ている。僕と陽ノ日よりももっと。もし、僕らが正反対なのなら、君たち2人は共同体みたいなもんで、きっとその中に、僕という影はいちゃいけない。このままいたら、太陽に溶かされてしまう。だから、僕は...

 歩きを止めて、行き先方向とは違う、信号の白い線に足を入れて、そのまま白いところを伝って行くように僕は走り出した。

 「え?ちょっと、紫苑くん!」

 陽ノ日の呼ぶ声が聞こえたので、少し後ろを振り返る。反射する光を手の影で遮りながら、僕は平然と言ってのけた。

 「僕は、今日ちょっとこっちに用事があるんだ。悪いが君は、前園くんと一緒に帰ってくれないか?」

 この言葉を僕の得意な表情、卑屈そうな笑みで言ってやった。

 「ちょ、いきなりすぎじゃない?!君!」

 陽ノ日の返事が聞こえる前に、僕は素早くその場を立ち去る。これも僕の得意分野で、1度どっかへ行ったら、警察に捜索願いを出されるまで見つかることはないだろう。


 ...さて、あそこから走ってきて、ただぶらぶらと、僕は商店街を歩いている。しかし、今の時間に商店街が活発に動いてるわけもなく、シャッターは下ろされ、何とも殺風景な場所になっていた。こんなところで用事とは、果たしてなんだろうか?きっと君がいたら、迷わず言ってくるだろうが、用事なんてものは存在しない。サハラ砂漠を探しても見つけることができない。いわゆる、嘘ってやつだ。でも、これでいい。

 前々から思ってたんだよ、あのアホと釣り合うのは、同じく、馬鹿でアホで、僕が嫌いなやつで、“僕と正反対なやつ”。

 やっと見つけた!ってあのときは思って嬉しくなった。これで僕はやっと、この呪縛から解放され、未来永劫、自由なんだって。きっと陽ノ日も、前園をみて、『私、あんな陰厨くんじゃなくて、こっちの広大くんの方がいいなあ』って。もしあいつがそんなこと思っていなくても、結果的にペアは僕じゃない方がいい。今日宮藤の反応をみて、僕がクラスでどんな奴だと思われているのか分かった。友達なんて、一人も作れやしないってことも。

 よし、代役は前園に決定したと言うことだが、大事なのはどうやって代役に立てるかだ。

分かった。僕が転校しよう。転校したら、きっと代役が立てられる。僕の予想だと、あのクラスで一番の好感度が高いと思われる前園が推薦されるはずだ!なんと僕らしい完璧な作戦。よし、じゃあまずは下準備から始めよう...って、僕は何を言ってるんだ...?あーっ、もう、クソ!結局は山之内が僕を委員に勝手に選んだのが悪いんだ!何で僕を選んだ!僕は自分で言いたきゃないけど、一般客観的にみたら陰キャだ!そんなやつがクラスの中心に立って、高校生の一大イベントである、文化祭実行委員をやるだあ?ふざけんな、いい加減にしろって僕でも思うぞ。僕が陽キャだったらよかったけどなあ。僕は陰キャなんだ!スクールカースト最底辺だけど、プライドは謎に高く、誰とも釣り合おうとしない、卑屈で面倒くさいゴミ陰キャなんだ、

 「よーーーーー!」誰もいない商店街に、気持ち悪い声が轟く。

 はっーはっーはっー。

 ...こんな自分に悔しくなって、思いっきり道ばたの小石を蹴った。結局僕は、小石しか蹴ることができない、小心者なんだ。そう思うと、もっと自分が厭になる。

 トントン その時、誰かが肩を叩いた。

 「え、だれ」

 ムニュ ほっぺたが人差し指に押し込まれる感触があった。

 「フヒヒっ。引っかかった。ね?ドキドキした?」

 僕の視線には、イタズラな目をした陽ノ日はられの姿が映った。

 僕は何故か、泣きそうになった。

 

 

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