第5話

「う~ん、2番目の友達は誰にしよっか~。やっぱり男子だよねー。」

 「僕は友達を作りたいとは思っていないんだけど...」

 「うるさいなあ。卑屈ぼっち君」

 卑屈ぼっち?!そんなの良いところが一つもないじゃないか!

 そんなことを話ながら、僕と陽ノ日は、放課後、文化祭委員会(出席2人)を使って、友達計画(?)を立てていた。

 「やっぱり最初は、とっつきやすい子から。あっ!広大くんは?!前園広大(まえぞのこうだい)!あの子すんごい良い子で~...えっと、スポーツ万能で、頭もよくて、あれ?君と正反対?

...広大くん、君と合わないかも」

 「じゃあ、僕と君も正反対じゃないか」

 「正反対じゃない!もー、これ昨日解決したよね?」

 陽ノ日が変に僕に落胆したので、強く言い返す

 「それじゃあ僕とそいつも全然正反対じゃないぞ。僕は、まあまあ頭良い。少なくとも君よりかは。あと、スポーツ万能でもある。“eスポーツ”万能だ。」

 結構自信満々に答えることが出来た。さすが南の引きこもりゲーマーと言われていただけある僕だ。一切のぬかりがない。

 陽ノ日がどんな尊敬の眼差しをしているか気になった僕は、陽ノ日の方をチラリと見る。

 何とも言えない表情をしていた。

 「う、うん...」

 お?!その声は、僕に尊敬しすぎて、声がでなくなった奴だな?!そうだよな?!決して、『こいつ可愛そう』とか、思ってないよな?!

 「まあ、君と広大くんは合わないと分かったところで、次誰にしよっか。」

 華麗にスルーされて、僕の心に剣先が突き刺さる

 「あっ、じゃあ花梨は?新名花り..」

 「却下」

 新という言葉が聞こえた時点で、僕は即答する。あんなやつ、視界にも入れたくないのに。

 「じゃあ、君は誰が良いんだよ!もう、自分で選んで!」

 そう言って、陽ノ日は、2年1組の座席表を僕の方へなげやりみたく、滑らせた。

 元はといえば、君が言いだしたことだろう。何で僕が直々に選ばなくちゃいけないんだ。

 そう思いながらも、渋々座席表に目を落とす。

 「ねえねえ、君は誰と話してみたい?」

 「僕、この座席表に目を落としてまだ3秒しかたってないんだけど...」

 「お、そ、い~!」

 陽ノ日は分かりやすく、手と足をぶら~んとさせた。

 「...君は何であの人たちと話しているの?」

 「え?」

 前々から思っていた疑問を、口に出してみた。

 「だから、高校デビュー(笑) (剛堂)とか、陽キャのパシり(村上)(本井)とか、出来すぎ進化前(前園)とか、クール陰キャ(宮藤)とか、三つ編みしか取り柄のないやつ(前山)とか、クソでゴミで、礼儀のなってなくて、授業中他の奴らの妨害ばかりして、ただの出しゃばりの目だちたがりやの」

 「はいはい、そこまでそこまで」

 むっ、むむ

 言いたいことが山ほどあったのに、陽ノ日に両手で強制的に口を塞がれて、これ以上発散することが出来なくなってしまった。

 「ん、んむ!」

 口呼吸が出来なくなったので、陽ノ日の手を急いで振りほどいて、大きく深呼吸をする。

 そんな僕が深呼吸をしている間に、陽ノ日は話し始めた。

 「何で話しているかって?それは、私とあの子たちが仲良しだからだよ!」

 そう言って陽ノ日は、笑顔を見せる。この笑顔は知っている。この笑顔は...

 「君、それ、本心で言ってないだろ」

 「え?何言ってんの。めちゃめちゃ本心だよ!心からの叫び!うわああ~って。うわああああって!」

 「おい、誤魔化すなよ。あと、君うるさ」

 ガラガラガラ

 その時、誰かが教室のドアを開けた。陽ノ日は、これが目的だったのかもしれない。大声を急に出したのは、この話題を逸らすため。

 意外に策士で、頭の回転が良い奴だな。敵ながらにあっぱれだ。

 「は、られ?」

 「おまえら、この教室で何、してんだ...?」

 教室のドアを開けた主は2人組で、かなりイライラする声で、朝よく聞く声だった。

 「良いところに来たね!詩音と、広大くん!」

 陽ノ日が僕の後ろへ名前を呼んで、僕はびっくりして後ろをばっと振り返る。

 おいおい、ふざけんなよ...

 そこにいたのは、宮藤詩音と、前園広大。

 陽ノ日の友達計画に少しだけ関わってしまったことに、重い肩をガクッと下げた。


 前園と宮藤は、太陽と月、光と影が交わっていることに驚いているのか、声を失ったニワトリみたいに、役割を無くしていた。

 陽ノ日の発言から四小節たったころ、詩音が満を持して口を開いた。

 「えっと、その、君はどこのクラス?」

 あ~、はいはい、これは僕がきれてもいいやつね。さっきの間って、『ねえねえ、あいつ誰?』『私も知らない』『同じクラスじゃないよね』『多分』っていうテレパシーの時間だったのね。まあ、僕は忘れられていることは2回目だからそんなに怒ってないけど。ほんとに、本当に。...ほんと泣くよ?

 「この人は月陰紫苑くん。一応、私たちと同じクラスメイトだよ。だよね?透明くん?」

 そう言って陽ノ日は僕をイタズラそうな目で見てきた。ニヤニヤする顔に苛立ちがたってくる。一応ってなんだ。一応って。

 「うん、まあ、“一応”。」

 焦って返そうとして、発言と思考がごっちゃになって、嫌みな奴みたいになったことに後悔した。

 「ご、ごめん、つきかげくん!」

 前園は頭を下げて謝罪の言葉を出して謝ったが、宮藤は反省していないみたいな顔で、作りかけのぺこりをし、

 「で?結局どういう関係なの?君たち2人は」と、訊ねてきた。

 何、こいつ。クールぶってんの?やっぱこいつ僕と同じ系統のクール陰キャだわ。気は合うけど、友達になれそうな気がしない。

 そんなことを思いながら、僕は陽ノ日の方を困った目で見る。

 どう説明すんの。今ならまだ、忘れ物を取りに来てたら、ついバッタリ会っちゃいましたで済むけど。

 そう、陽ノ日にテレパシーを送る。

 陽ノ日にテレパシーは送受信されたのだろうか。不安に思っていると、陽ノ日が僕の視線に気づいてにっこり笑う。これは... どっちだ?

 もう一度強くテレパシーを送ってみる。

 でも、ダメだった。陽ノ日が僕らの関係について話し始めたのだった。

 「私たちはね、文化祭実行委員なの!だからね、“毎日”放課後、文化祭実行委員カッコ2人をやっているんだ!」

 「まい、にち...?」

 宮藤がいきなり、バタンと後ろに倒れた。

 そこかよ、驚くとこ。

 陽ノ日はそれがいつも通りであるかのように笑った。

 その笑顔の中で、陽ノ日は僕を見て、こう囁く。

 ─どうせ、いつかバレるでしょ?─

 そう囁いて、陽ノ日はまたニヤニヤした。

 テレパシー、届いてたのかよ。

 でも、この結果は最悪だ。確かに、文化祭が近づいて来たら、僕らの関係は分かる。でも、僕には秘策があったんだ。それは文化祭実行委員決めの時に、学校を休むこと。さすがに師匠も、委員決めの時休んでる奴に、文化祭実行委員を押しつけることはないだろう。こういうのはどっかの陽キャがやればいい。

 例えば君みたいな、前園広大くん。君がまさに適任だ。スポーツも出来て、頭もよくて、誰にでも優しく、信頼も厚い。君に、アホで馬鹿な陽ノ日は合わないと思うが、まあ頑張ってくれ。

 そう思って、僕は、前園を褒めていたのに、鋭い憎しみがこもった目で、前園を見た。

 これは、愛の鞭ってやつだ。嫉妬なんかじゃない。ほんとだよ?

 そう思っていても、前園には伝わってないようで、アホらしくなって席を立つ。

 「じゃあ、僕は帰るから。君は僕たちの“何にもない”関係を正しておいてくれ」

 「あっ、ちょっと待ってよ!」

 陽ノ日が呼び止める声が聞こえたが、そんなのは無視する。

 待てるかい。今僕の足はぷるぷる震えてんですから。もいっかい、前園を見たときちらっと見えた宮藤の顔を見てみる。

 ギロッ 鬼という言葉がよく似合っていた。

 ひー、怖い怖い。食われそうだ。僕は草食系なんだよ、食物連鎖には勝てないんだよ。

 てか、何でそんな怒ってんの?僕、そんなわるいことした?

 「前園くん、あのね」

 恨みをもたれる覚えないんですけど、いつも学校では隅っこの方にいるし...

 「月陰くんとさ」

 ひいいいい、また目つき強くなった?!目つき強い奴は嫌われるよ。止めときなって

 「友達になってほしいんだ!」

 バッ、バッ

 紫苑と詩音は、同時に陽ノ日を見た。

 「お、おい...」

 「そうだ、詩音も月陰君と友達になったら...」

 バン!

 僕が何かを言おうとしたとき、陽ノ日が防いで、陽ノ日が話し始めたとき、宮藤が大きく机を叩いた。そして、宮藤は少し苛立ちながら言った。 

 「はられ、つまらない冗談止めて」

 寝起きの猫科ライオンみたいに、鋭い目つきで陽ノ日を睨む。

 「誰が、誰がこんな陰キャと友達になんの?」

 グサッ 陰キャという言葉を人に真っ正面から使われて、魚の小骨が喉に詰まったように心が痛くなる。お前、さっきまで僕のこと知らなかったのに、よく言えるな。

 「べ、別に僕はいいけど....」

 前園がか細い声で、勇気を出して言う。

 前園くん!何て君は優しいんだ!心が弱った僕には、どんなやつでも、聖人に見えた。

 しかし、宮藤は虎の威を借る狐を狩るトラのように、前園をギロッと睨む。

 「じゃ、あんたは友達ごっこやっとけば?はられ、帰ろ」

 そう言って、ドアの前に立って、ドアノブに手をかける。でも、陽ノ日はその横にやって来ない。

 「ん?どうしたの、はられ?」

 宮藤は、横にやって来ない陽ノ日に疑問を呈して振り向く。

 僕も陽ノ日の方を一緒に見る。

 俯いていた。下を向いていた。暗い影が差していた。

 その姿は何とも『太陽』と呼ぶにはふさわしくなく、月とも言えなかった。

 「詩音、よくないよ、その考え。」

 いつもよりトーンが低かった。

 一呼吸入れて、溜めた言葉を吐き出すように話す

 「陰キャとか、陽キャとか、関係ないじゃん。友達にさ。」

 バックを手に持って、よいしょと肩に担ぐ。

 「友達に、定義なんてないんだよ。」

 ヒヒッ そう笑って、陽ノ日はいつものようになった。

 「...じゃあ、私とは友達?」

 少し静かな声で、押し殺したような声で、宮藤が訊ねる。え?そこ?

 「うん、詩音と私は友達。」

 陽ノ日は笑顔を崩さずに言った。

 「...ずっと、じゃないんだ...」

 宮藤がそうボソッと呟いたのが聞こえた。

 なんだこいつ。ちょっとヤンデレなのか?

 宮藤の顔がパッと変わって、また目つきが悪いデフォルメな顔に戻る。

 「...ふん、じゃあもういいよ。今日のところは、3人で帰って、友達にでも何にでもなれば?じゃ、私は帰るから!バイバイ、じゃあね!」

 ギッーガン!

 さびた鉄が壁にぶつかって、少し飛び散る。

 そんなに、バンっ!てやったら、ドアの子が可愛そうでしょうがああ!...はっ~、もう。なんだ、あいつ。こいつも、なんだ?

 「なあ、あのクール陰キャ怒って行っちまったぞ。まったく、ツンデレなのか何なのか、挨拶はちゃんとして行きやがって...、追いかけなくて良いのか?」

 僕がそう訊ねても、陽ノ日は全く聞いてない様子で、窓の外を眺めていた。

 「何で私、あんなこと言っちゃったんだろう...」

 そう、外の空気に呟くのが聞こえた。

 こいつにしては、辛気くさい、真剣な表情をしている。全く似合わないな。そう思った。

 「あっ、」

 こっちを振り向いて、ようやく僕ら2人の存在に気付いたみたいな顔をする。

 あわあわあわあわ焦って、やっと声を搾り取る。

 「前園くん、広大くん。今日は三人で帰ろっか!」

 「ちょっと、それは2人しかいないんですけど...」

 「アハハっ、そっか!」

 そっかじゃねえよ、そっかじゃ。

 前園の顔を横で見る。僕の視線に気付いたのか、こちらを振り向いて苦笑いをする。

 僕の友達が増えたというより、陽ノ日の犠牲者が増えた。そう言った方が、合ってるような気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

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