第4話

 今さら後悔しても、口から出た言葉はもう二度と戻すことは出来ない。

 ─ 君と僕は月と太陽のように正反対。

 何て稚拙で、拙い言葉何だろうと。自分からして、何とキャラに似合っていない言葉を発したのだろうと。自分が発信した言葉だと、気づかれてないにしろ、今さらながらに溜息をつく。

 「正反対。これって、私が前にも言った言葉だよね。...私さ、もいっかい正反対って何だろうなあ~。私と君の関係は正反対なのかなあって、考えてみたんだけどさ...」

 「きっと、私たちは、正反対の方向に向かっているように見えて、一本道の延長線上にいるんじゃないかな...」

 「え?」

 陽ノ日はそう言って、フフっと笑った。

 「やっぱり君は、よく分からない...」

 いつもの馬鹿発言とは違う、真剣アホ発言に、いつものごとく僕は呆れる。

 「分からないのは君だよ!いきなりそんな嘘をつくなんて」

 「え?バレてたの?」

 「当たり前でーす。とっくにバレてまーす。君、嘘つくとき、私の顔をいつも以上に見ないんだもん!」

 そう言って、陽ノ日はプクっーと頬を膨らませた。

 何だ、バレてたのか。嘘をつくときの癖も、早く直さないとな。いつも人の顔を見ないようにしないと...

 そんなことを思いながら、僕はいつものように、机の横フックに掛かっているバックを肩に担いだ。もうそろそろ、目覚めの時間だ。

 「あっ、待って!何早く帰ろうとしてんの!まだ、何であんな嘘ついたのかとか、桜先生に何言われたかとか、解決してないんですけど~」

 あっ、やべ、そうだった。

 小刻みに震えながら、後ろを振り返って、唇を震わせようとする。

 バッ 

 僕が後ろを振り返った瞬間、君と僕の距離が1距離くらいになった。あっ、もちろん単位はメートルだよ?

 「まっ、なんでもいっか!」

 陽ノ日の元気な声が、耳につんざくように聞こえて震える。陽ノ日が僕の横へ、定位置みたいにやって来て、床の古びた樹木のタイルが、ぶるっと震える。なんか、震えてばかりだな。

 僕はこいつが好きじゃない。馬鹿だしアホだしうるさいし。でも、今は、この能天気で、馬鹿な性格に助けられたような気がする。僕から出た、さっきの言葉は、ほんとに、ほんとにほんとうに、特に意味を持ち合わしていないのだから...

 

 夏の風が、僕にとって痛風であるように、人のトラウマは、自分の心に残って、寄生虫みたいに張り付いてしまう。

 朝、夢を見て、さっき思い出して、今考えちゃってる僕の頭は崩壊寸前に思える。

 横に陽ノ日が歩いているのに、僕は光をはばからず、右手で頭を押さえた。

 「どうしたの?どこか痛いの?」

 そう言って、陽ノ日は僕を心配したような声で鳴く。その声に僕は反応して、陽ノ日の方を少し見る。

 ...もしかしたら、こいつのせいかもしれない。

 だって、そうだろ。馬鹿みたいに光を放っている君みたいな“陽”が、“陰”である僕の真横を歩いて、一緒に下校してるんだから。

 痛ッ。頭に針がまた刺さったような感覚がした。よし、とりあえず落ち着け。まずは深呼吸だ。ふっ~、はっ~。ふっ~、はっ~。

 「.........何してんの、深呼吸くん。もしかして、馬鹿なの?」

 「馬鹿にされるとは侵害だ。君も、僕が頭を抱えて痛がっているのに、『どこが痛いの?』って、馬鹿じゃないのか?」

 「ムキッ~。こっちは、君のこと心配してあげてるのに!酷いよ、城之内君!」

 「僕が城ノ内なら、きっと死亡予告を通告されてしまうんだけど」

 「アハッ」

 そう笑って、陽ノ日はまたツボゾーンに入った。もう、これには見慣れてきたところだ。

 「っーふふ、ヒヒ、はっ~、やっぱ楽しい。君といると、やっぱ楽しいね!」

 陽ノ日は顔に小悪魔が住んだみたいな、イタズラな顔で、僕に微笑んだ。

 そこだよ、そういうところだよ、君は...

 また僕は頭を右手で押さえた。

 「あら、また痛くなっちゃった?!もー、君は朝から痛そうだよね。なんか悪い夢でも見たの?」

 悪い夢は絶賛進行中なのだが、確かにあれは、日々一般的から見たら、悪い夢と言える。

 「...うん、ちょっとね...」

 「やっぱり!君は厨二病くんとかじゃなかったんだ!」

 確かに、頭を抱えて、『いにしえの記憶があああ』とか言いそうですけど

 「ねえねえ、どんな夢見たの?サキュパスくん」

 ...サキュパスは、どちらかと言うと、夢を見させる方だろうよ...。まあ、どうでもいいけど。

 陽ノ日がおねだって来て、僕が嫌いなうざい目で僕を見てくる。ねえねえ、おねが~い。私の分の掃除当番もしておいて~。そんなやつの目に似ている。そんなやつは、環境保護破っちゃったよ罪で、捕まればいいのに。

 「ねえねえ、ねえねえ。どんな夢見たの?」

 どんどん陽ノ日のうざ目が、強度を増してくる。...これ以上、おねだられると厄介だ。

 「...分かったよ。君の望み通り話してあげるけど...」

 「怖いよ?まじ怖いよ?夜トイレ行けなくなって、友達の家に借りに行くくらい怖いよ?」

 「結局、行っちゃうんだ。」

 陽ノ日は、ニヤッと笑って、僕は咄嗟に目をそらした。

 「まあまあ、とりあえず話してご覧なさいよ。怖いか怖くないかは、私が聞いてから決めてあげる!」

 そう言って、陽ノ日は、公園にあるベンチを指さして、一緒に座って話すように促した。

 「さあ、どんと来い!」

 そう言って、陽ノ日は、自分の胸をボンと叩いた。手がクッションに当たったように跳ね返る。...危ない。次からは、足を見よう。

 そうして僕らは、読み聞かせする園長先生と園児みたいに、2人座って、真剣に話を始めた。

 

 

 ───

  はい。これで、終了。どうだった?

                ───

 えっと~、これはどういった反応をすればいいんだろう。確かに怖いね。確かに怖いよ。でも、でもね、これは何というか、反応に困ってしまう...

 覚悟を決めて、明るく接する。

 「壮絶だねえ。結構、いや、結構どころじゃない、かなあ...」

 月陰君の顔を、下目で見てみる。

 ズーン

 えっ?めっちゃ、落ち込んでるじゃん!ズーンとしてるじゃん!私の答えが悪かったかな...

 こういったときのマニュアルって、初めてなんだよね...

 脳を探しても、かける言葉が見つからない。当たり障りのないことを言えるのが取り柄だったこの私が、かける言葉が見つからないなんて、ちょっと落ち込んじゃう...

 

 ───

  ───

 …と、きっと、陽ノ日も困っている。こんな暗い話を聞かされて、必死に脳内を、かける言葉を探して、巡回しまわっているだろう。

 僕ももう、こんなムードはいやだ。腹痛も催しそうだ。

 こんな雰囲気を断ち切るように、僕はベンチの席を立った。答えが分かっていないのに、黒板に答えを書くときみたいだ。

 「あっ、えっと、あの、壮絶くん...」

 ...人に声をかけるときは、そのあだ名はやめた方が良いと思うけど。

 「どうした...」

 声を発して、“どうした”が疑問形になっていないのに気づく。

 僕の変な言葉に、陽ノ日の肩が、一瞬ぶるっと震えたように見えたが、なぜか彼女は、少しニヤけて、話し始めた。

 「...って、ことはさ。もしかして、君って、高校に入ってから、友達作ってない感じ?」

 「うん、まあ...。壊れる関係を、わざわざ作る必要がないからね。」

 「ふぅ~ん」

 陽ノ日は、不穏に、イタズラな目を復活させ、彼女の頬が緩んで、緩んで、緩みまくっていく。

 何か、いやな予感がする...

 次の陽ノ日の一言で、僕の嫌な予感は的中した。

 「じゃあ私は、君の高校友達第一号だ!そして、私はここで宣言します!」

 嫌な予感しかしない

 「私が、君の友達を作ってあげる手助けをしてあげる!友達100人目指して頑張るから、人気者くんも覚悟しておいてね!」

 え?は?え?今、こいつなんて...

 僕が陽ノ日に問い詰める前に、陽ノ日は、ピューンと光の速さで、遠くへ向かっていった。

 陽ノ日が奥で大きく、僕に見えるように手を振っている。今日は全然振り返す気が起きない。

 ── 覚悟しておいてね!

 陽ノ日の言葉通り、明日から僕は、学校に行くか行かないか、覚悟の決意をしないといけない。

 普通に言って、ふざけんな。

 「もう、何でだよ...何で、こんなことに」

 ギュルルルルギュルルルル

 あっ、やばい。おなか痛い。頭痛い。

 痛い痛い痛い痛いきつい。

 とりあえず僕は、痛みを抑えるために、下から攻めるつもりにした。

 文化祭まで、あと5月と22日。

 陽ノ日と出会ってから、たった3日の出来事であった。

 

 


 

 

 

 

  

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