危険な男 後編

 自分の耳にピアスを着け、ひとしきりはしゃいだ後、私はふと我に返った。

「そういえば、ユーリスが迅速に仕事を進めてくれた、って言ったわよね。これピアス、ユーリスが作ったの?」

 スイレイは、目を細めた笑顔のまま、左右に首を振った。

「いいえ。彼がやったのは、デザインの一部とピアス作成の請求です。形状や色は吸血鬼全員で考えましたが、請求や細かい指示はユーリスが、そして資料や実物の運搬は、エリエに懐いている蝙蝠こうもりにさせましたよ。」

 え……、このピアス一個に、吸血鬼が全員関わってるの?っていうか、エリエは蝙蝠なんて飼ってるの?なんで?

「随分と大掛かりね……?」

「それが俺たちの仕事ですからね。」

 スイレイは、ずっとニコニコ笑ったままだ。楽しそうに話してくれるので、私も嬉しくなってくる。

「全員ってことは、A班からE班の皆も?レイネルも参加しているのね!」

 皆、私のことを考えてくれていたことがうれしい。例え、それが『餌だから』であっても、喜んでほしいと少しでも思ってくれたことがうれしい。

「スイレイ、皆にもお礼を伝えて。ありがとう……って……。」

 自然に上がっていた口角が、スッと下がった。声も、次第にしぼんでしまった。

「スイレイ……?」

 そっと、彼に声を掛ける。

 なぜかは分からないけれど、スイレイの目が笑っていない。頬にも笑みを湛えたままなのに、歪められた桃色の目に、笑いは一切入っていなかった。

 スイレイは、傷一つない綺麗な左手で、自分の唇に触れた。そして、そのまま一言、口にする。

「白マントは、これには関わっていませんよ。彼らは仲間ではない。」

 スイレイの小指に嵌められていたリングが、キラリと黄色く光った。前に見たときは分からなかったけれど、スイレイの指輪は『蛇』だ。尾を咥えた蛇。蛇の目が黄色の石になっていて、ずっとこちらを睨んでいるみたいだ。

 スイレイの、笑っていないのに歪められている目が怖い。「仲間じゃない」と口にして、悪びれる様子もない彼が、怖い。

 スイレイは、私の耳元で揺れるピアスをちらりと一瞥してから、そっとドアノブに手を掛けた。

「では、俺はユーリスの元へ戻ります。……あ、今の言葉は聞かなかったことにしてください。『正直に気持ちを話すのは良いことだ』と言っておきながら、『それはいけない』と口にする輩が非常に多いものですから。」

 音を立てないようにドアを閉めたのに、鍵に引っかかって苛立ったのか、最終的には音を鳴らして、スイレイはドアを閉めた。

 スイレイが居なくなった部屋で、ピアスの効果で明るくなった部屋で、私はただひたすらに呆然と立ち尽くしていた。

「白……マント……。」

 差別用語と捉えられるような、その言葉。

 白マントを背負う彼が聞いたら、一体、どう思うのだろう。

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