第36話望まれたら売らなければならない(カグラ)
昼間におかしな男児に会った。
年頃はカグラよりも少しばかり上だろうか。最近流行っている酷い臭いのタバコを売り歩いていた男児だ。
アリアという名前以外の詳しい身の上は知らないが、元々は屋敷で働いていたらしい。話が本当ならば、頭は良い方だろう。
使用人なんて主人に振り回されるのが仕事のようなもので、忍耐と我がままに答えるだけの機転が必要になる。桜妓楼に付き添いでやってくる使用人の様子を見ていれば、その仕事の様子は簡単に想像がついた。
しかし、高位の人間に振り回されるのは自分たちだって同じかもしれない。親代わりの主人と共に、客が待っている部屋まで歩く理由がそうだ。
今夜、カグラは初めて客の相手をする。
カグラは七歳で、女であっても本当ならば客を取らせてはいけない年齢である。しかし、カグラを欲したのは伯爵家の人間で、地位にものを言わせて店に圧力までかけてきたらしい。
男娼には初めて客を相手にする年齢の取り決めはなく、この件では互助会は頼れない。それに、これでも桜妓楼の主人は粘ったのだ。
客がカグラを最初に欲したのは一年前のことで、カグラは六歳だった。仕込みなどいらないから差し出せと言ってきたらしいので、横暴ここに極まれりである。
桜妓楼の主人は必死に客を説得して、一年間の仕込みを行ってからと約束を取り付けた。それでもカグラは幼すぎるぐらいだが、それ以上は伸ばしようがなかった。
カグラの仕込みは、通常よりも時間をかけて行われた。人肌を厭うことがないように甘やかし、徐々に痛みをともなう作業に入った。
大人の分別がない子供に痛みを与え続ければ、他人の体温に嫌悪感を持つようになってしまうかもしれない。それは、男娼としては致命的である。
だからこそ、仕込みの際には桜妓楼の主人が常に付き添った。自分にカグラをしがみつかせて、仕込みを行う男娼に後ろから木の棒で躰を貫かせる。
カグラは痛みで桜妓楼の主人の腕を引っ掻き、時には血が出るほどに噛み付いた。それでも、主人はカグラを叱ったりはしない。
大人に痛めつけられるのならば、大人にすがれるようにしなければならない。そうでなければカグラは、人間そのものに恐怖心と嫌悪感を持つようになってしまう。ひいては、人肌すらも嫌うであろう。
それを防ぐためだった。
幼い躰を棒で貫き、掻き混ぜる作業は余りにも痛々しい。ましてや相手は身近で成長を見守ってきた子供である。
仕込みを担当する男娼も方も痛がるカグラの姿に罪悪感を覚えて、手が止まることすらあった。
肉体が少しでも慣れたら、仕込みは次の段階にはいる。客を喜ばせる術を学ぶのである。
「やだぁ……やだぁ……」
カグラがそうやって泣けば、客の前では泣いてはいけないと教える。
客に悦楽を与えるために、木の棒で掻き混ぜられながも躰に力を入れたり抜いたり出来るようにする。
「ほら、笑ってごらん」
一番辛かったのは、痛みのなかで笑えと言われたときだ。
客が自分との行為を男娼も楽しんでいるのだと騙すために、瞳を潤ませ、頬を染めて、時には情けなく涎を垂らしてまで快感を偽れと言われた。
子供のカグラは肉体の悦楽など知るわけもなく、どのように振る舞えばいいのか分からない。痛みをいなす事が出来るようになって、求められた演技に近いことがようやく出来るようになった。
それでも仕込みは終わらない。
客のものを口で味わうやり方。何を飲まされても嘔吐しないようにする訓練。腰を揺らめかせて客の目を楽しませる練習。
何も知らない子供に客を喜ばせる手練手管を身に着けさせて、カグラの仕込みは終わった。
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