第8話紅茶で一呼吸ついたら
「それは……お疲れ様です」
本来ならば上品なパーティーになるはずが、中々の修羅場になってしまったらしい。そんな会場に一人で挑んだサーリスが、アリアは不憫に思えてならなかった。
一人でパーティーに参加したせいで、ただでさえサーリスの仕事は増えてしまっていたはずだ。自らが望んだ事とはいえ、今回のパーティーは予想外のことが起きすぎた。
アリアは、そんな主人を紅茶で労った。
外国から運ばれてくる紅茶は贅沢品で、手際よくカップに注げば微かに花の甘い香りがした。その香りに、サーリスの顔が僅かにほころぶ。
花の種類には詳しくないサーリスだが、花の香りは嫌いではないのだ。むしろ、好んでさえいる。
ソリシナ伯爵家では、決まった茶葉専門店を贔屓にしている。そこの店主が、紅茶に乾燥させたフルーツや花弁を混ぜたブレンドティーを作っているのだ。数種類の茶葉を混ぜ合わせることもしており、季節ごと変わる紅茶には飽きがこない。
しかしながら普通の茶葉は店主のこだわりで扱っておらず、そちらだけは別の店のものを使用していた。保守的な味覚の客人には、季節ごとに変わる紅茶は好まれないからだ。
「俺は、これからベリツナ歓楽街の方に行ってきます。若い女を連れて行って不審がられないのは、あそこぐらいですからね。もしかしたら、ハウリエルが運営している商会の話も聞けるかもしれませんし」
ベリツナ歓楽街は、娼館の類が集まった男の甘い聖地だ。商売女たちはベリツナ歓楽街で己の美を磨いて、王都に住まう男たちの理性を溶かす。
「ベリツナ歓楽街か……。三回ほど連れられて行ってきたけど、あまり良い思い出はないかな。言い寄ってくる女性ばかりで興が削がれたよ」
サーリスは追われるより追う恋が好みらしく、垂れかかるような娼婦たちはお眼鏡に適わなかったようだ。そこは、案内人の不手際である。うんと気位の高い娼婦をあてがえば、サーリスも楽しめたかもしれなかったというのに。
「そういえば、アリアの友人もベリツナ歓楽街にいるらしいね。どんな人なんだい?」
サーリスの問いかけに、アリアは返答に迷った。子供の頃から付き合いのある人間で、サーリスとの出会いのきっかけにもなった人物なのだが、どうにも言い表すのが難しい人物である。
「しいて言えば、自分の二面性をしっかりと使い分けている人間ですかね。……生まれも育ちもベリツナ歓楽街らしいので」
そう言うしか他になく、サーリスは「ふぅん」と興味を失ったような反応を示した。大抵の男が娼婦に抱くイメージ通りの人物像だったからなのかもしれない。もっとも、アリアの友人は娼婦ではなかったが。
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