第4話大事な初恋



「つまり……ティア嬢は、サーリス様の初恋の相手なんですね」


 王子の誕生日パーティーに行くための馬車に揺られながら、マリアはサーリスのプロポーズの許し宣言の詳しい理由を聞いていた。


 色々とサーリス自身の思い出話も含まれていたので長くなったが、初恋の相手の危機を救いたいというのが主人の考えらしい。他人と結婚してしまったユリハスの甥っ子だけあって、サーリスも純愛を貫こうとするタイプだったようだ。


 しかも、サーリスには今まで真剣に付き合った令嬢はいなかった。もしかしたら、その頃から王子の婚約者になったティアの事を忘れられなかったのだろうか。アリアは、そんなことをぼんやりと考えていた。


 レオハードの一方的な婚約破棄が認められたら、事情はどうあれティアは傷物と見なされる。未婚の女性は純潔であることが強く求められる貴族社会においては、ティアは辛い思いをするだろう。サーリスは自分との結婚で、それを防ごうとしている側面もあるようだ。


「サリエル様に許可を頂けて良かったですね」


 いきなりの発言に驚いてはいたが、サリエルはプロポーズの許可を一応は出してくれた。レオハードが勝手におこなった婚約破棄など無効になるだろうし、万が一にでも婚約が破棄されたとしてもアセニシア伯爵家側の了承は得られないだろうと考えたのかもしれない。


 それとも、思い人と一緒になれなかった過去から甥っ子の初恋ぐらいは叶えてやりたいと考えたのか。真意は、許可を出したユリハスのみぞ知る。


「俺は、王子が新たに婚約者にした令嬢……リシエ嬢の実家であるハーレン男爵家を調べます。今日のパーティーは、本当にお一人で大丈夫ですか?今なら別の使用人を呼べますけど」


 身分の高い人間が、使用人を連れないで外出することは基本的にない。だが、サーリスはティアのことは一刻を争うと判断した。


 だからこそ、レイハード王子が新たな婚約者として指名したリシエ嬢を探れとアリアに命令したのである。


「女性ならばともかく、私は男だからね。護身術ぐらいは心得ているし、なにより王族主催のパーティーでは危険なことは起きないよ」


 サーリスのいう事は、もっともである。なにより、アリアは主人の命令を無下にするわけにもいかない。


「分かりました。くれぐれも無茶はなさらないでくださいね」


 アリアの小言に、サーリスは「はいはい」と気のない返事を返した。表では見せない気の抜けたサーリスの返答は、アリアを信頼しているが故だ。


 伯爵家の嫡男として育てられたサーリスが隙を見せる相手は、限られた人間だけである。主の優秀さを信じたアリアは、サーリスとの別行動を改めて決心する。


 アリアは御者に馬車を止めてもらって、夜の街に飛び出していった。



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