第2話 自分に嫉妬するー4日目

 次の日、私は優茉ゆまの家を出た。

 このまま優茉ゆまにお世話になってはいられないから歩きながら、どうしたらいいか考えた。


 ―絶賛、アルバイト募集中!!

 のちょっと肉体労働だけど、今なら家具付き住む場所提供!!


 優茉ゆまの家の最寄りのコンビニの前に貼られた募集要項。

 あ、これは最高。


 すぐにコンビニに入って面接。

 じろじろ見られたけど、質問1つされただけだった。

「言われたら、すぐに対応してもらえるかな?」


 何も考えずにOKし、即バイト開始。

 ここなら優茉との接点を持ちながらバイトできるかな、なんて下心付き。


 いや、そんな良い話…あるわけない。

 その日から3日間、働きづくめで一切、外に出られず…。


 住む場所の提供って…屋根裏のベットと横にサイドテーブルぽいものがある寝るだけの部屋だった。


 発狂するわ。


 そう思ってその日もコンビニでレジを打ち続けて15時間目の23時すぎ。


「お願いします」


「はい、いらっしゃいませ、袋は必要でしょうか?」

 必死に笑顔を浮かべて、レジを打つ。


「えみ、さん?」


 顔を上げると、優茉ゆまがいた。


「はい、あっ…、どうも。先日は、ありがとうございました」

 レジ打ちしながら私はお礼を混ぜる。


「ここでバイトしているんですね」


「はい」


 疲れ切った身体を見られて、ちょっと恥ずかしい。

 優茉ゆまもこんな時間まで仕事しているんだ。


 10年前、優茉ゆまと私は同じ年だけど、専門学校を卒業して就職した彼女とまだ大学に通っていた自分。


 そういえば、優茉ゆまが就職してやりとりが急に減って、それを機に私が怒りだしたのがケンカのきっかけだったなと私は思い出す。


 全然、気が付かなった。いや、あの時、私は学生で連絡ぐらいすぐにできるでしょ?と思ってた。仕事がどれくらい疲れるのか、その間に連絡が取れないこと…全部、社会人になり、働くようになってから気がついた。


 目の前の優茉ゆまも私と同じく疲れてるように思えた。


 ちょうどそこに店長がやってきて、「休憩、朝まで」と声をかけられた。


 優茉ゆまがあっちとコンビニの入口を指して、そのまま私は外に出た。


「お疲れ様です。元気そうで安心しました」

「はい、お疲れ様です。こちらこそ…。これからご飯ですか?」


 優茉ゆまがさっき購入したお弁当を見て私は言った。


「そうなんです、忙しくて」


「部屋、激狭ですけど、ここで一緒に食べませんか?」


 どうにか優茉と接点を持たなければ…と私は意を決して誘った。

 優茉ゆまは頷いて、部屋に来た。


 部屋の狭さに若干、驚いていたが、ベッド横のサイドテーブルをベッド前に寄せて、そこに二人並んで座り、お弁当を乗せて優茉ゆまも私もそれぞれご飯を食べる。


 横の優茉ゆまを見ながら、見惚みとれてしまった。

 長いストレートの髪に白い肌、可愛い、こんなに優茉ゆま可愛かったかな。

 止まらない鼓動を抑えて、平静を装う自分。


「仕事、忙しいんですか?」

「そう、なんですよね…はぁ」


 大きくため息をついたから私は聞いた。

「それはお疲れ様です。…ため息は仕事?」


「いえ、恋人とうまくいってなくて…」


 …その頃ちょうど付き合いが長くなって私たち、倦怠期の真っ最中。

 何度も小さなケンカをして、徐々に距離が離れて、お互いを見失ってた。

 私は思い出して、心の中で自分もため息をついた。


「あ…、あの…どんな人か聞いていいですか?」


「…恥ずかしいのですが…えみさんに面影が似てる、というかそっくりです。だから話したいなって」


「へぇ…」


「今…あんまり会えてないから…体調と精神面を心配してます。いつも会えないと荒れてしまって…でもきっと後悔してるはず…」


 そうだったんだ。優茉ゆまはあんなに私とケンカしていて、あんまり連絡も取らないようになっていたのに、私を気にかけていたんだ…。


「恋人は一言で言うと何か始めるとそれしか見えないぐらい一生懸命で、私の言うことを真面目に受け取って、人一倍、人に気遣う人で、自滅しちゃうぐらい自虐してちょっとめんどくさい人、私はそんな恋人が大好きで…えみさん? 何で赤くなるんですか」


 急な告白に顔が火照ほてる。


 しょうがないじゃん。

 優茉すきなひとから目の前で自分の好きな所を聞くなんて、ね。


 私は動揺を隠して、「惚気のろけ‥ですからね」とそっと呟いた。

 それを聞いて、優茉ゆまは少し寂しそうな顔をした。


惚気のろけかな……最近、かみ合ってないから。私が就職してから、忙しくて余裕なくて…いつも不機嫌にさせてるから連絡はほとんどしてない」


 思い出す苦々しい記憶。


『最近、優茉ゆま、付き合いわるーい。』

『そんなことないよ!!』

『はい、どうせ、私のことなんて飽きたんでしょ?』

『…絵麻がそう思うなら…そうなのかもね』

『あっそう、じゃあ、わかった、バイバイ』


 売り言葉に買い言葉のくだらないケンカ。

 あれから何回もリピートして何度も何度も後悔をした内容。


 私は隣にいた優茉ゆまを抱きしめようと手を広げた。

 ハッと優茉が気が付いて、私の手を止めた。


「そんな状態でも、私…まだ相手が好きでどうしたらいいのか、わからなくて…」


 どんなに似ていても、私はじゃない、私じゃだめなんだ。


 ここに私は…絵麻えまはいるんだよ!

 私は叫びたくなった。


 こんなに愛されてるのに過去のじぶん、馬鹿なの?

 今、優茉ゆまを大事にできたはず。

 未来いまの私は優茉ゆまを抱きしめることすらできないのに…。


 激しい嫉妬の炎が胸の中に広がっていく。


 心の声は涙になって、目から落ちた。


 優茉ゆま、ごめんね…。

 あの時、私、自分のことしか考えてなかった。

 だからあんな天罰起きたんだね。


「ううん、私こそ、ごめん。…私でよければ話を聞くよ」


 どうしても、このまま優茉ゆまと接点を持ち続けなければ……。

 そう、私は決意した。

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