過去の自分に嫉妬しながら彼女と過ごす10日間

MERO

第1話 彼女との出逢いー1日目

 目を覚ますと公園のベンチにバックを枕に寝ていた。

 起き上がろうとすると頭がズキっと痛んで私はベンチにまた寝ころんだ。


 何?

 ここ、どこ?


 痛みがまだ若干残る頭を手で押さえて、目を動かして周りをぐるっと見渡すと、そこはよく見た公園だった。


 え?

 まさか…ここは彼女―優茉ゆまのマンション前の公園?


 その時、手を抑えた頭上の方から声がした。

「あの…?大丈夫ですか?」


 ええぇ?この声は…


 私は恐る恐る頭上に置いた手の間から声の主を見た。

 …そこには懐かしい顔がある。高校生から彼女だった優茉ゆまがいた。


 どういうこと!?

 優茉ゆまは全く変わらず、会社帰りの様子で少し屈んで私を見ていた。


 私は慌てて、起き上がり、ベンチに座った。


「見たところ、酔っ払ってるわけではなさそうですけど、大丈夫ですか?」

 もう一回、優茉ゆまが私に聞いた。


 頭はまだズキズキと痛んでる。

 私は頭を押さえながら「あっ…だ、だい、じょぶ」と緊張しすぎて言葉がうまく出てこない。そんな私をみて、優茉ゆまは少し考え込んだ。


「…熱中症かもしれない」

 ぽつりと一人呟いた。


「とにかくまだ起き上がれるなら、涼しい所で休憩しませんか?」

 そう言って、彼女は私の両肩を持って起き上がるように促した。

 触れた手のぬくもりは温かった。


 これは夢?

 優茉ゆまは…生きてる?

 ここはどこ?


「私のマンション、すぐそこなのでそこに移動しましょう」


 テキパキと指示して、私の肩を持って優茉ゆまの家に移動した。


「はい、お水をどうぞ」


 優茉ゆまの部屋のソファーでぐだっと横になった私に優茉がコップに入った水を手渡してきた。


 周りをぐるっと見ると優茉ゆまの部屋は全く変わりのない様子だった。

 そして時計の下にかかっているカレンダーが、ふと目に入った。


 そこには私は年月に驚いた。


 まさか。

 まさか、まさか、まさか。

 ここは過去なの!?


 そう、私は10年前の過去に戻っていたのだ。


 ガシャン


 私は驚きすぎてコップを落としてしまった。


 キッチンに戻ろうとした優茉ゆまが振り返った。


「大丈夫ですか?」

 そう言いながら、タオルを探し、ソファー近くに寄って、コップを拾い、床を拭く。


 私は両手で頭を抱えた。

 息をしている、温かい身体、夢ではない感覚。


 そうか、ここは10年前の世界なんだ。

 10年前の優茉ゆまなんだ。


「は、い。だい、じょうぶ、です」

 片言の日本語で私が答える。


 優茉ゆまは心配した顔で言った。

「大丈夫じゃないですよね? とりあえず、休んでください」


 優茉ゆまは仕事で疲れているだろうに、私を家で休ませてくれた。


 お風呂から出てきた優茉ゆまに、声をかけられた。

「もうそろそろ大丈夫ですか?」


 私は状況を把握して、少しずつ気持ちが落ち着いてきた。


 十分休ませてもらったし、もうそろそろ家から出ないと…。

 ここにずっといてはいけないが、1つ優茉ゆまには聞きたいことがあった。


「はい、おかげさまでありがとうございます。ところで、なぜあなたは私を助けてくれたんですか?」


 優茉ゆまは私の質問に一瞬、驚いたような顔をしたが、すぐにニコッと笑った。


「実は…それは…最初、私の知っている人かと思って、話かけようとしたんです。よく似ているので。それで調子悪そうなのが気になって…」


 そういうことか。

 その、知っている人って、それは…もしかして、私のこと?

 優茉ゆまは今の私を過去の私と勘違いしたのか。

 まぁ、10年も経ってるから容姿やら髪型変わってるしね。


「あ、そうだったんですね…あ、はい、えーともう大丈夫なので」

「お家は近いのですか?」


 優茉ゆまからそう言われて私は愕然とした。


 家なんか、ないな…

 どうしたらいい?


 私の顔色を窺って、優茉ゆまは言った。

「何か事情があるんですか?」

「あ。えっと…はい」


「ふふっ、その「はい」と何度もいう所、何だかほんとに同じ人と話してるみたいな気分になります。そのソファーでよければ今日は休んでもらってかまいませんよ」


 優茉ゆまが前かがみになって長い髪が前に垂れる。

 お風呂上がりの良い香りが部屋に充満する。


 その髪に触ろうと、ふと手を伸ばしそうになって、手をぎゅっと握る。


 ダメだ。

 私は恐らく似ている人であって、私じゃない。


「あの、お名前は?」

 優茉ゆまがふわっとした表情で優しく聞いた。


 私の本当の名前は、佐々木絵麻ささきえま

 同じ高校のクラスメイトで名前が似ているから仲良くなった。


 あー名前変えないと。

 未来からきた私とか、あきらかにやばい人だ。


 苗字が浮かばない…が、やけくそになって言う。

「…さきえみデス、よろしくお願いします」


 優茉ゆまは「あっ」と声を上げたが、すぐに何でもないフリをした。

 私と2文字違い名前1文字ズレだから気になったんだろう。


 そして私は次の日の朝まで、優茉ゆまの家にお世話になった。

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