あたしにはない魅力

 白く透き通った肌。ほんのりバラ色の頬。吸い込まれるような大きな瞳と、それをふちどる長いまつげ。誰もが認めそうな美少女が、真剣に鏡に向かっている。

 ――そのままでも可愛いのに。

 メイクの特訓に励む明日菜を、星花は羨望の入り混じった目で見つめる。化粧品の使い方を教えるから、と自宅に呼んだのは星花だが、なんだかモヤモヤする。

「あっ……」

 ペンシルタイプのアイライナーを動かす手が止まり、顔を星花の方に向けた。アイラインが少しズレてしまっている。

「綿棒で拭き取ってから引き直せば大丈夫。あと、ひじと小指で固定するといいよ」

 ササッと直してあげようと、星花は明日菜の頬に触れた。下地とフェイスパウダーで整えただけなのに、その質感はマシュマロのようにふんわりしている。

 ――ホント、可愛い。

 スキンケアらしいことはしていないと言っていたが、それなのにこれだけ綺麗な肌でいられるなんて。羨ましいを通り越してため息が出てくる。

 すらっとした手足に愛くるしい顔立ちといい、少女漫画のヒロインのようだと思っていたが、本当にその通りだ。なにもせずにこのルックス。飾らなくても輝く、ナチュラルな魅力。まさに少女漫画の主人公だ。

 ――そんな子でも、メイクに興味があるんだ。

 コンプレックスを解消して可愛くなりたいと化粧を覚えた星花に、明日菜の純粋さはとても眩しく見えた。

「せーちゃん、どうしたんですか?」

「あたし?」

 頬に手を伸ばしたまま、ボーッとしていたようだ。明日菜が小首をかしげて星花を見る。

「ううん、なんでもない。アスはホントに可愛いな~って」

 慌ててアイラインを修正してほほ笑みかけると、明日菜もぱあっと笑顔になった。

「可愛いだなんて……なんだかちょっと照れますね。でも、嬉しい! きっと、せーちゃんのおかげです」

「お化粧を教えてくれたのはせーちゃんでしょ。わたしってこんなに可愛くなれるんだって、すごく感動したんです」

 薄々わかってはいたが、彼女は自分の素材の良さを自覚していないのだ。

「……そう言われると、教えがいがあるよ」

 きっと、彼女はもっと可愛くなる。そんな確信を得て、星花はメイクブラシを持つ手に力が入った。

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