パシャッ


僕は、写真を撮る。夜の空はいい感じに撮れる。

春休み、学校まで後1日というところでなんとなくやることがなかったためよく写真を撮っていたために学校の屋上に来ている。

学校の屋上から眺める景色、星が輝く空。空を見る度、あんなふうになりたいと思うけど、そんな出来事は僕にはない。 

今は19時。桜が咲き夜灯りに照らされながら落ちていく。

夜に舞う桜とそれを照らす灯りはとてもいい塩梅を醸し出し、綺麗な風景を焼き付けてくれる。

そうして今日も何かと写真を撮る。

そろそろ帰ろうかと思った時、ガチャっと扉が開く音がする。

「こんな時間に屋上に?珍しい」

と、僕は独り言をこぼす。扉の方を向くとそこにはポニーテールの同学年らしき女の子がいた。

「ねえねえそこのカメラ持ってる男の子」

「こんな時間に屋上で何してるの?」

という。彼女の視線はじっとこちらを見つめ、僕の存在をくっきりと浮き彫りにさせる。

「ただ、写真を撮ってるだけだよ」

ふーん。という顔で彼女は歩き始める。そこらを回ったり左右にうろうろしたりと何かと落ち着きがない

「君、何年何組何番だい?」

初対面なはずなのに何かと笑いを取ろうとしているのか変な口調だ。

「もう明日でクラス変わるのにそれはいう必要あるの?」

「いいから」

月明かりが二人を照らし、舞台のエンドロールのよう。彼女の視線はまっすぐとこちらを突き刺してくる。逃がさないぞというちょっとした悪戯のような目つきをこちらに向ける

「1年4組32番」

「1年4組32番ね…覚えた!」

と独り言かどうかわからない声の大きさが耳に届く。声が透き通るといいように捉えるかただただ声が大きいと悪いように捉えるか…

考えてるうちに流石に自分の分だけ聞かれて終わるのはモヤっと、何かが心にのしかかる感覚がてできた、僕はそれに釣られるかのように声を発する。

「じゃあ、そっちは?」

「秘密です」

彼女は次の攻撃は予測していたぞというかのように会話をサラッと回避させる。

ぽかんとしている僕を見る彼女は笑う。

「じゃあ、私はこれで失礼するよ〜」

そんな僕に声をかけ、彼女は後ろを振り向き扉へ向かう。その行動は早く僕が声をかける前に扉の前まで歩いていた。

「じゃあ、またね」

月明かりに照らされた彼女は闇の中に消えていった。僕は追いかけることもせず、ただただそこに立っていた。

僕の頭の中はぐるぐると何かが回っている。突然来てクラスと番号だけ聞いて帰るだなんて見たこともなければ聞いたこともない。まるで小説の中みたいだ。

そうしたうちに月が雲に隠れ、少し暗くなった時意識が戻った感じがした。

そろそろ帰ろうと思っていた頃に彼女が来て彼女に釣られていってしまったため、何をしようとしていたか忘れていた。が、僕は帰るという目的を思い出す。

僕は扉をあけて階段を降りる。彼女とはそこまで話すことはないだろうと思っていた。

僕は明日からくる目の前の教室で起こることは予測できなかった--。


翌日、桜が舞う通りを抜け、校門に入る。流石に春は朝でも夜でもそこらへんに散るピンクは空に混ざるから綺麗だ。

僕はクラス表を見て自分のクラスへと向かう。たまたま昨日目に入ったそのクラスに自分は入れられていた。

クラスでは、はじめましての人たちはもちろん多く、自己紹介や挨拶が入り混じっている。

そんな中一つだけはっきりと声が聞こえる。

「月夜君、おはよう!」

おいおい、と流石に思ってしまった。目の前にはあの屋上で出会った彼女がいた。

本当に小説みたいな出会いだと心で思う。クラスが変わるのに名前や出席番号を聞いたり、軽く受け流したりとかそんな会話は小説でしか見ない。それでクラスも一緒とか…

「えっと…名前」

「そうだね!あの時は聞いただけだったし!ということで改めて私は時雨 彩葉!1年間よろしく!」

「よろしく…。てか名前は…」

「あ、あの時出席番号とクラス聞いたでしょ?あの後ちょっと調べたんだよね!」

彼女は元気よくそういう。初対面で関わるかもわからない人を調べるのか?と疑問が浮かぶ

「でもせっかくなら名前名乗らないとさ。こっちも改めて僕は神崎 月夜よろしく」

彼女はうん!と頷く。

「出席番号順の席になってるよ!なんと君とは隣です」

ふふん、と彼女は席まで歩いている。

「でさー、君写真撮るの好きなんだよね?」

「あー…た、ぶん」

彼女は脈絡もなく話しを持ちかける。

「じゃあお願いがあるんだけどさ!写真ではないんだけど動画を撮って欲しいなって!」

「え?」

脈絡のない話から出てきた彼女のお願いは動画を撮って欲しいらしい。動画?何の?それとも誰の?と考える。

「今、何を撮るんだって思ってるでしょ」

図星だ。彼女はよく何を考えてるかを当ててくる。…いや、それとも僕がわかりやすいのか?

「それはねー!私のーー」

彼女は一息吸い、間を開ける。その直後に想像していなかった一言が耳に届く。

「私の、動画を取ってほしいの!」



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君と撮る明日はきっと綺麗 海野 深月 @huramyi

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