第9話 彼女との出会い~ブラック視点~

俺の名前はブラック・サンディオ。両親と俺の事を可愛がってくれる弟大好きな姉に囲まれて何不自由のない生活を送って来た。


ただ…


「ブラックに剣の稽古だなんて、万が一怪我をしたらどうするの?お母様がずっと守ってあげるわ!」


「ブラックは何もしなくてもいいのよ。お姉様が守ってあげるからね」


と、なぜか母上や姉上は俺を心配するあまり、あれこれ口を出して来るのだ。元々非常に気の強い母上と姉上は、よく怖い顔をして俺の事で言い争いをしていた。


また、俺が少しでも他の令息にちょっかいを出されると、鬼の形相で文句を言うのだ。そんな母上と姉上に圧倒され、空気の様な存在の父上。そう、我が家は異常なまでに女性たちが強い家系だったのだ。


そんな家族を幼い頃から見ていたせいか、俺は女性が苦手になっていた。母上も姉上も俺の事を大切に思ってくれているのは分かる。でも、口を出しすぎだ。それに毎日毎日、怖い顔をして!俺はもっと母上と姉上に笑顔でいて欲しいのだ。


2人があんな性格なのもあってか、皆俺に一線を引いて接する。それがなんだか悲しかった。


さらに


”ブラック殿はいつも母上と姉上に守られて、恥ずかしくないのかな?俺なら恥ずかしくてたまらないけれどな”


”女に守られるだなんて、カッコ悪い奴”


と、陰口を叩かれる事も。俺は別に母上と姉上に守ってもらわなくても、1人で大丈夫なのに…悔しくて悲しくてたまらなかった。


そんな中、姉上が王太子殿下に見初められ、婚約する事になった。あんな気の強い姉上と結婚したいだなんて、王太子殿下も物好きだな…


ただ、王太子殿下と婚約した姉上は、ほんの少しだけしおらしくなった。と言っても、相変わらず俺への愛情表現はすごかった。そのせいで俺は、王太子殿下から嫉妬されて、大変だったが…


これ以上俺と姉上を一つ屋根の下で暮らさせるのは心配だという事もあり、姉上が12歳、俺が7歳の時に、姉上は王宮で生活する事になった。これでうるさいのが1人いなくなった、そう思ってホッとしたのも束の間。まだ母上が残っていた。


相変わらず俺に干渉してくる母上。俺にも婚約者をと言って、何人もの令嬢を連れて来ては、俺に会わせた。でも…どの令嬢にも全くと言っていいほど、興味を持てなかった。


幼い頃から強烈な2人の女性を見て来たせいか、俺は完全に女嫌いになっていた。正直結婚なんて考えたくない。俺は1人静かに暮らしたいが、それを母上が許してくれない。


つもりに積もっていた思いが、ついに爆発した。


「母上、いい加減にしてくれ!俺は母上のおもちゃじゃない!感情を持った人間なんだ。もう俺の事は放っておいてくれ」


あまりにも過干渉な母親に向かって怒鳴りつけた。それから1週間、部屋に引きこもり、誰とも会わずに過ごした。もう限界だ、俺はもう自分の思うままに生きたいんだ!


俺の思いが通じたのか、母上が泣きながら謝ってきた。どうやら父上にも怒られた様で、これからは俺の事には口を出さない、令嬢も紹介しないと約束してくれた。


ただ、元々出しゃばりな性格なせいか、たびたび俺に意見をしてくることはあるが、無視しておいた。そんな中、俺はある女の子に出会った。


それは俺が9歳の時だった。侯爵家のお茶会に招待されたときの事、相変わらず人間、特に令嬢が苦手な俺は、1人中庭の奥で時間を潰した。本当はお茶会なんかに参加したくなかったが、どうしてもと相手方に言われ、仕方なく参加した。


やっぱりお茶会なんかに来なければよかった。退屈だな…そろそろ帰ろうかな?そう思っていた時だった。


「お願い、そのブローチはお母様の大切な形見なの。返して!」


令嬢の叫び声が聞こえたのだ。一体何の騒ぎだ?


声の方に行ってみると、桃色の髪をした令嬢が、金色の髪をした令嬢に必死に訴え変えていた。確かあの金色の髪の女は、バラスティ伯爵家のカルディア嬢だ。あの桃色の髪は…そうだ、1年ほど前に亡くなった、元バラスティ伯爵家の、ユリア嬢だ。確かあの2人は従姉妹だった様な…


「そんなに返して欲しいのなら、返してあげるわ。ほら」


カルディア嬢が何かを池に向かって放り投げたのだ。


「なんて酷い事を…」


そう呟き、ドレス姿にもかかわらず池に入り、必死に何かを探している。


「やだ、ドレスのまま池に入るだなんて。本当にはしたない女」


そう言うと、笑いながらどこかに行ってしまったカルディア嬢。なんて性格の悪い女なんだ!


ふと池の方に目をやると、必死に何かを探しているユリア嬢。そう言えばさっき、母親の形見だと言っていたな…可哀そうに、両親を一気に亡くしたうえ、従姉妹には虐められているのか…


目に涙を浮かべて必死に探す彼女を見ていたら、居てもらってもいられなくった。


「君、大丈夫かい?何か探しているのかい?」


俺が声を掛けると


「はい…実はブローチを探しておりまして…青い宝石の付いたブローチです…」


青い宝石の付いたブローチか…


「俺も一緒に探すよ」


そう言うと、そのまま池に入った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る