第8話 ブラック様と話をしました
学院に入学してから1ヶ月が過ぎた。今日も馬車に乗って学院へ向かう。昨日は治癒魔法の依頼があったため、朝から頭がクラクラする。
それでもみんなに会いたい一心で、必死に動かない体を起こして馬車に乗り込んだのだ。
「着きましたよ。早く降りて下さい」
御者が冷たく言い放つ。いけない、ついボーっとしてしまったわ。
「ありがとう、行ってきます」
笑顔を必死に作り、御者に伝え急いで馬車から降りた…ものの、頭がフラフラするうえ、動くと気持ち悪い。この状況ではさすがに教室には行けない。そんな思いで、フラフラと校舎裏にやって来た。きっとこんなにも体調の悪い姿を友人たちが見たら、心配して医務室に連れて行こうとしてくれるだろう。
前も一度医務室に連れて行かれそうになったことがあるのだ。必死にごまかして事なきを得たが…
とにかく、体調が回復するまで、誰もいないこの場所で休もう。そう思い、木陰に腰を下ろした。今日もいい天気ね。日差しが心地いいわ。でも、やっぱり体がだるいし痛いし、起きているのも辛い。そっと木陰に横になった。
地面ってこんなに気持ちいいのね。このまま眠ってしまいそう。
「おい、大丈夫か?」
ん?この声は!
声と同時に私を抱き起す人物、やはりブラック様だ。
「ブラック様、おはようございます」
「おはようございます、じゃないだろう?大丈夫か?君、今にも死にそうだぞ!すぐに医務室に…」
「いいえ、大丈夫です。それにもう私は助かりません。せめて残り少ない人生を、友人やブラック様と過ごせたら…そう考えているのです」
そう言って笑顔を作る。
「どう見ても辛そうなのに、こんな時まで君は笑っているのだね…どうしてそんなに笑っていられるのだい?君はどうしてそんなに、強くいられる?」
強くいられる?私は強くなんてない。
「亡くなった母との約束なのです。いつも笑顔でいて欲しいと言う、母の。だから私はこの命が尽きるまで、笑顔でいたいのです。それにどんなに辛い事があっても、笑顔でいると少しだけ心が晴れるのですよ」
そう、笑顔は私の元気の源なのだ。私から笑顔が消えるときは、この命が尽きるとき…
「ブラック様、そろそろ授業が始まりますわ。私は少し木陰で休んで、体調が戻り次第教室に向かいます。ですので、どうかブラック様は教室に」
「いいや…君を残して教室には行けないよ。その…君の病気は一体何なんだい?あっ、別に言いたくないのなら言わなくてもいいよ」
「その…ごめんなさい…」
さすがに魔力の使い過ぎだなんて、言えない。それにしてもブラック様は本当に優しいのね。もしかしたら私が余命後わずかと話したから、気にして一緒にいて下さるのかしら?それだったら悪い事をしてしまったわ。
「ブラック様、先ほどは余命の話をしてしまいごめんなさい。私の命は既に決まっていたのです。ですからどうか、気にしないで下さい。私は…ゴホゴホ…」
しまった!吐血してしまった。
「大丈夫か?血を吐いたのか?やはり医務室へ…」
「大丈夫ですわ。少し話過ぎた様です…ごめんなさい…」
よかった、ハンカチですぐに抑えたから、制服に血は付いていない。血って中々取れないのよね。とにかく今日はもう学院は無理かもしんれない。家に帰ろう。
「ごめんなさい、ブラック様。今日はもう帰りますわ…」
「そうだな、その方がいい」
そう言うと私を抱きかかえ、歩き始めたブラック様。
「あの…自分で…」
「君は今自分の状況を分かっているのかい?先生には俺から話しをしておくから、今日はゆっくり休むといい」
「ありがとうございます」
やっぱりブラック様は優しい。きっとこの人、情に厚い人なのだろう。今にも死にそうな私を放っておくことが出来ずに、この様に世話を焼いてくれる。たとえ同情だったとても、それが嬉しくてたまらない。
門のところまで来ると、そのまま馬車に乗せてくれた。
「ブラック様、本当にありがとうございます。なんとお礼を言ったらいいか…」
ブラック様には、いつも助けてもらいっぱなしだ。
「俺の事は気にしなくてもいい。大きなお世話かもしれないが、帰ったらすぐに医者に診てもらってくれ。今日の君はいつも以上に顔色が悪い。それから…どうか生きる事を諦めないでくれ。きっと生きながらえる方法があるはずだ」
生きながらえる方法か…
「ありがとうございます。それでは失礼いたします」
馬車が走り出した後も、ずっとこちらを見ているブラック様。きっと心配してくださっているのだろう。同情だとわかっている、でも…
ブラック様の優しさが、身に染みる。もし生きながらえる方法があるなら、て、そんな物ある訳がない。それでも少しでもブラック様と一緒にいたい。
ブラック様と過ごすうちに、増々彼の事が好きになっていく自分がいる。神様、もう少しだけ彼の傍に居させてください。どうかお願いします。
ついそんな事を願ってしまうのだった。
※次回、ブラック視点です。
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