第7話 学院生活は想像以上に楽しいです

「ユリア、今日あなた、遅刻ギリギリだったでしょう?もしかして体調でも崩したの?今日も顔色があまり良くないし…」


休み時間、友人たちが心配そうに私の周りに集まってきてくれた。


「心配かけてごめんね。ちょっと色々とあって。見た目はこんなんだけれど、皆が思っている以上に元気なのよ」


「何言っているの?ちょっと歩いただけで、息が切れるのでしょう?それに走る事だって出来ないくらい、体力がないくせに。とにかく、無理をしないでね。私達に何か出来ることがあれば、何でも言って」


「皆、ありがとう。私ね、ずっと独りぼっちだと思っていたの。でも、そうじゃなかったのね。最後に皆に再会できて、幸せだわ」


「もう、最後とか言わないでよ…ねえ、助かる方法はないの?そもそも何の病気なの?」


「えっと…」


魔力の使い過ぎで命を削ったなんて、言えない。どうしよう…


「ごめん、嫌な事を聞いて。そうだわ、今日は天気がいいから、中庭で昼食を食べましょう。お日様の光を浴びるのは、病気にもいいのですって。昨日お父様が言っていたわ」


「ありがとう。外で食事、素敵ね。なんだか楽しみになって来たわ。早くお昼にならないかしら?」


「ユリアったら。そんな嬉しそうな顔をして」


そう言って友人たちが笑っていた。こんな風に誰かと笑いあえたのって、何年ぶりかしら?学院生活は、私が想像していた以上に楽しい。あぁ、早くお昼にならないかしら?


そして待ちに待ったお昼休み。友人たちが気を使って手を引いて中庭まで連れてきてくれた。


「さあ、お昼にしましょう」


待ちに待ったお昼だ。伯爵家の料理人が作ってくれたお弁当箱を広げる。すると、ステーキにサラダ、フワフワのサンドウィッチ、デザートまで付いていた。なんて豪華な食事なのかしら?こんな豪華な料理、私が食べてもいいものなの?


つい目を輝かせてしまった。すると友人たちが


「もう、ユリアったら。”こんな豪華な食事、見た事がないわ”みたいな目で見ないでよ。普通のお弁当じゃない」


「ごめんなさい。最近調子が良くなくて、それであまりこういった食事をしていなくて…」


まさかいつもは自分で作った固いパンにスープを飲んでいるだなんて、言えないわよね。


「さあ、早速食べましょう。そうだわ、お弁当を交換して食べましょうよ。ほら、ユリア。あなたサーモンが好きだったでしょう?」


「ありがとう、それじゃあ私は、このステーキをあげるわ。実は私、お肉があまり食べられないの」


昔は好きだったお肉も、衰弱していくにつれ、ほとんど受け付けなくなったのだ。正直こんな豪華なご馳走を作ってもらっても、ほとんど食べられない。


「まあ、そうなの…それじゃあ、食べられそうなものはある?これなんてどう?」


「ありがとう、さっぱりしていて美味しそうね」


友人たちとお弁当を交換しながら、話しに花を咲かせる。どうやら友人たちは、この6年で婚約した子もいた。皆令嬢として楽しい時間を過ごしているのだろう。


少しだけ…そう、ほんの少しだけ羨ましいと思った。もし両親が生きていれば…て、今更そんな事を考えても仕方がない。私は残された人生を、目いっぱい生きようと決めたのだ。


友人たちと楽しいランチタイムを終えたあと、皆で教室へと戻ってきた。教室でも話に花を咲かせる。なぜだろう、話しても話しても話し足りないくらい、いくらでも話が出来るのだ。


学院生活を楽しみにしていたが、まさかここまで楽しいだなんて。学院に入るまでは、死ぬことに対し何も思っていなかった。むしろ早く両親に会いたいと思っていた。


でも今は…もう少しだけ長く生きたい、そんな風に思っている自分がいる。


でもこれ以上贅沢を言ってはいけないわよね。最後に神様がくれた楽しい時間、その時間を大切にしていきたい。友人たちの笑顔を見ながら、強くそう思ったのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る