第2話 待ちに待った貴族学院の入学式を迎えました
翌日、相変わらず体調が悪く、体中あちこちが痛い。それでも朝早く起きて、洗濯や掃除を済ませる。そして厨房に行き、食料を頂く。料理人たちも私の事を嫌っている為、極力短時間の滞在で済ませている。
少し多めの食料を頂き、具沢山のスープを作った。栄養満点なスープだ。両親が生きていた時は、伯爵令嬢として何不自由ない暮らしをしていた為、最初は着替えも出来ずに苦労したが、今では何でも自分で出来る様になった。
私ってやればできる子なのだ。
基本的に用事がない限り部屋から出る事は禁止されている為、最低限の家事を済ませると部屋で過ごす。というよりも、私の場合長年魔力を提供しすぎて、常に魔力不足。あまり激しく動く事が出来ない。
それでも本を読んだり、お勉強をして過ごす。私はこれでもお勉強をする事が好きなのだ。貴族学院では、沢山お勉強をしたいと考えている。さすがの叔父様も、あまりにも見すぼらしい格好だと伯爵家が恥をかくと考えたのか、制服やカバン、靴、教科書など、貴族学院で必要な物は一通りそろえてくれた。
“疫病神でしかないお前にこんな金を使うのは勿体ないが、致し方ない!”
そう言って怒ってはいたが…
あぁ、早く貴族学院の入学式にならないかしら?でも、この制服も、どれくらい袖を通せるかしら?私の命の灯は、すでに消えかかっているのだ。それでも私は、残された時間を目いっぱい楽しもうと思っている。もちろん、笑顔で。
そんな事を考えながら、指折り貴族学院の入学式の日を待つ。そしてついに、待ちに待った入学式の日を迎えた。
真新しい制服に袖を通し、真っ白になってしまった髪を丁寧にとく。髪が白くなってしまった以外は、見た目は普通…よね?よし、大丈夫だ。
部屋から出ると、鋭い目つきで私を睨みつけている従姉妹のカルディアが目に入った。彼女は私と同い年。一緒に入学する予定になっているのだ。
「相変わらずみすぼらしい女ね。いい、私とあなたは赤の他人なの!絶対に私に話し掛けないで頂戴よ。あなたみたいなのと従姉妹だなんて、本当に恥ずかしいわ!」
そう吐き捨て、さっさと歩いて行ってしまった。カルディアは私を毛嫌いしている。私もカルディアには随分と意地悪をされている為、頼まれても絡むつもりはない。
おっと、無駄な事を考えている時間はない。私も早く学院に行かないと!急いで門に向かうと、どうやら私の為に馬車が準備されている様だ。
「ユリア、お前は一応伯爵令嬢だ。本来ならお前なんかの為に馬車なんか出したくないところだが、致し方ない!いいか、絶対に貴族学院では要らぬことを言うなよ。貴族学院に入る前にくたばってしまえばよかったのに…」
「本当よね。でもこんな女でも、使い道があるのですから、いいではありませんか?ギリギリまでこき使いましょう」
私を虫けらでも見るような目で言葉を吐き捨てる、叔父様と叔母様。この家の人たちは、皆私の事を嫌っているのだ。それがやっぱり悲しくて、つい俯きそうになる。
ダメよ、笑顔でいないと。
「申し訳ございません。貴族学院に通わせていただけること、とても感謝しておりますわ。それでは行って参ります」
彼らに笑顔を作り、そのまま馬車に乗り込んだ。
「何なの、あの女!私の事をバカにして!」
なぜか顔を真っ赤にして怒っている叔母様。私は別にバカにしてはいないのだが…屋敷から帰ったら、また殴られるかしら?でも、もう殴られるのも慣れているし、問題ないわ。それよりも今日は、ブラック様に6年ぶりに会える日。楽しみだわ。
そもそも馬車なんて乗ったのは何年ぶりかしら?両親が亡くなってから1年くらいはお茶会などに参加させてもらっていたが、残りの6年はほとんど外に出してもらえなかったのだ。
その為久しぶりに見た王都の街並みが新鮮でたまらない。あら?あんなお店が出来たのね。あぁ、あのお店、お母様とよく通っていたわね。懐かしいわ。
つい昔の事を思い出してしまう。あの頃は本当に幸せだったな…
気が付くと涙が溢れそうになっていた。ダメよ!泣いては!必死に涙をぬぐい、笑顔を作る。どんな時でも笑顔で。それがお母様との約束なのだ。それになぜだか笑顔でいると、お母様が天国で喜んでくれている様な気がして、心が温かくなるのだ。
しばらく進むと、立派な学院が見えて来た。あそこが貴族学院なのね。
我が国では15歳からの2年間、貴族学院に通う事が、全貴族や王族に義務付けられている。ただ、家庭の事情(特にお金や結婚)などの理由で入学はしたが通わないという貴族もいる。私もきっと半年くらい通ったら、もう通わせてもらえなくなるだろう。あの人たちの性格上、いつも最初だけなのだ。
でもきっと後半年も生きられないだろうけれど。
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