第3話 ブラック様に6年ぶりに会いました

立派な学院に着くと、ゆっくりと馬車を降りた。ここが今日からお世話になる学院なのね。なんだかワクワクしてきたわ。


ただ…


皆が私の事をチラチラ見ている。私、どこか変かしら?よく考えたらこの6年、全く社交界に顔を出していなかったから、皆私の姿を見てびっくりしているのだろう。そう思う事にしておいた。


周りをキョロキョロ見渡しながら、入学式が行われるホールを目指す。しばらく進むと、令嬢たちに囲まれている1人の男性に目が留まる。


燃える様な真っ赤な髪に美しいグリーンの瞳、周りを取り囲む令嬢たちを迷惑そうに睨んでいる。間違いない、彼は6年前、私を助けてくれたブラック・サンディオ様だわ。


あの頃より随分と背が伸びたような気がする。でも、見た目はほとんど変わっていないわね。6年ぶりにブラック様の姿を見つめ、つい興奮してしまう。


既に走る事が出来ない私は、それでも急ぎ足で令嬢たちに囲まれているブラック様の元へと急いだ。私が近づくと、なぜか周りの令嬢たちがスッと一歩下がった。あら?皆さん、私に気を使ってくれているのかしら?


一瞬気になったものの、わざわざ私の為にあけて頂いたのだ。ここはしっかりあの時のお礼を言わないと!


「お久しぶりですわ、ブラック様。あの…私、6年前にあなた様に助けて頂いた、ユリア・パラスティと申します。池に落ちた私の大切なブローチを一緒に探していただき、ありがとうございました。もしよろしければ、これから私と仲良くしてくださると嬉しいですわ」


満面の笑みで、ブラック様に挨拶をした。すると、ジッと私を睨みつけているブラック様。そして


「悪いが俺は、ばあさんみたいな令嬢と関わった記憶はないのだが…」


そう言い放ったのだ。ばあさん?私の事かしら?よくわからず、首をコテンとかしげる。すると…


「ブラック様ったら。確かに髪が真っ白でおばあ様みたいですけれど、本人に向かってそんなはっきりとおっしゃるだなんて」


「カルディア様が“ユリアは病気で見た目がびっくりする程醜い”とおっしゃっていたけれど、本当におばあ様みたいね」


皆が私の事を見てケラケラと笑っている。この白い髪が、おばあ様みたいに見えるのか…確かに私の髪、おばあ様みたいね。こんな風に容姿をからかわれるだなんて…


一瞬涙が込みあげてきたが、ぐっとこらえて笑顔を作った。


「皆様、驚かせてしまってごめんなさい。確かに私の髪、おばあ様みたいですわね」


そう言って笑顔を作った。


「やだ…あの子、おばあ様と言われて笑っているわ。変な子ね。行きましょう」


なぜか皆が、私の元から足早に去っていく。私、何かおかしなことを言ったかしら?よくわからずに、首をかしげる。ただ、思いがけずにブラック様と2人気になれた。


「あの、ブラック様、見た目はおばあ様みたいですが、これでも15歳です。どうか仲良くしてください。せっかくなので、私と一緒にホールに行ってくださいますか?」


笑顔で彼に話しかけた。その時だった。


「ちょっとユリア。あなた何をしているの?申し訳ございません、ブラック様。この子、少し頭がおかしくて!ユリア、あなたみたいな醜い女に絡まれて、ブラック様が迷惑をしているじゃない!本当に相変わらず頭が悪い女ね!さあ、ブラック様。こんな女放っておいて、私と一緒にホールに行きましょう」


私を怒鳴りつけるカルディア。彼女の言う事は絶対なのだ。もちろん逆らう事なんて出来ない。仕方なく私は、その場を立ち去ろうとしたのだが…


「俺に気安く触るな!それから今、6年前の事を思い出した。君がそこにいるばあさん…じゃなくて令嬢のブローチを池に投げ捨てたのだったな。そんな意地悪な女、俺は嫌いだ!今すぐ俺の前から立ち去れ」


鋭い目つきと冷たい声でそう言い放ったブラック様。


「な…酷い、私よりこの女の方がいいとおっしゃるのですか?私の方が美しいのに…」


「そもそも俺は、令嬢が嫌いなんだ。これ以上俺を怒らせたくなかったら、さっさと消えろ!」


「酷い…」


さらに怖い顔でブラック様がカルディアに冷たく言い放っている。さすがのカルディアも悔しそうに唇を噛んで、その場を去っていく。いつも私の事を罵り、嫌がらせをして来るカルディアの悔しそうな姿を見て、少しだけ心が晴れた気がした。


「ブラック様、1度ならず2度までもお助けいただき、ありがとうございます」


「俺は別に、君を助けた覚えはない。言いたい事を言っただけだ。君は…」


「まあ、もうこんな時間ですわ。急いでホールに向かわないと。さあ、参りましょう」

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