もう長くは生きられないので好きに行動したら、大好きな公爵令息に溺愛されました
@karamimi
第1話 もう長くは生きられません
「はぁ…はぁ…治療は完了しましたよ…」
「おお、本当だ。痛みがすっかりなくなった!ありがとうございます、魔術師様」
「どういたしまして」
今日も私は黒いフードをすっぽり被り、魔力が欠乏してしまった貴族や大富豪の平民たちに魔力を提供し、治療を行う。
私、ユリア・バラスティは15歳の伯爵令嬢だ。と言っても、私の両親は私が8歳の時に事故で命を落とした。だから今は、お父様の代わりに伯爵家を継いだ、お父様の弟、私から見たら叔父様にお世話になっている。
この7年、私は叔父様や叔母様、従姉妹で同い年のカルディアの為に、命を削る魔法ともいわれる、治癒魔法を貴族や大富豪たちにかけ続けてきたのだ。
治癒魔法は自分の持つ魔力を他人に与えるため、非常に体に負担がかかるうえ、激痛が体中を襲う。最初は辛くて泣き叫んでいたが、今ではもう慣れた。そもそもどうして私が命を削ってまで、治癒魔法を貴族や平民たちにかけるのかと言うと…
「おい、ユリア。もうばてたのか?最近お前の治癒力が下がっているではないか?そもそもお前の父親、兄上が多額の借金を残して死んだせいで、我が伯爵家の家計は火の車なんだ。大体お前の様な誰にも必要にされていない女を残して兄上も逝くだなんて!とにかく死ぬまで働け!」
治癒魔法を終えたばかりの私を怒鳴りつけるのは、叔父様だ。どうやら私の両親は、多額の借金を残して逝ってしまったらしい。その為娘でもある私が、必死に借金を返しているのだ。
「申し訳…ございません…最近体が思う様に、動かなくて…」
命を削る魔法をもう何年も使っているのだ。体のあちこちが痛くてたまらない。桃色だった私の髪は、白くなってしまった。きっともう私は長くは生きられないだろう。もって半年ということろだろうか…
「本当にお前は役に立たない女だな!それでもお前をこの家に置いてやっているんだ。誰からも必要とされていないお前の面倒を見てやっているのだから、感謝しろよ。それから、来週から貴族学院に通う事が決まっている。お前の様な人間が貴族学院に通うだなんて、本来はあってはならない事なのだが…貴族は全員通わないといけないため、仕方なく行かせるんだ!いいか?我が家の評判を落とすような事だけはするなよ!それから、お前が治癒魔法を定期的に使っている事は誰にも言うな!」
「はい、分かっておりますわ。それでは…ゴホゴホ…」
「うわ、私の前で血を吐くな!気持ち悪い!とにかくもうお前は部屋に行け!」
「…はい…」
ついに吐血してしまった。いよいよ私の余命もあとわずかという事だろう。フラフラよろけながら、何とか自室へと向かう。私の部屋は屋敷の外の小さな小屋だ。私は居候の身。おいてもらえるだけで十分有難い事なのだ。
ただ私には使用人が付いていないため、食事は厨房で材料をもらってきて、自分で料理をするのだが、今日はちょっと魔力を使いすぎた様で、頭がフラフラしてもう動く事が出来ない。仕方ないので、今日の夕食はなしにする事にした。
「ゴホゴホゴホ…」
また吐血してしまった。
「私…もうすぐ死ぬのだわ…」
やっと…やっとお父様とお母様の元にいけるのね。そう思うと、死ぬのなんて怖くない。いつもの様に鏡の前で笑顔を作る。
“ユリア、あなたの笑顔は本当に素敵よ。どんなに辛い事があっても、いつも笑顔を忘れないで。そうすればきっと、あなたに幸せが訪れるわ”
亡きお母様がいつもおっしゃっていた言葉。お母様が私の為に残してくれた大切な言葉を守りたくて、この7年どんなに辛くても笑顔を作り続けて来た。家族からいつも笑っていて気色悪いと言われ殴られても、笑顔を絶やさなかった。
でも…
「お母様、私、ずっと笑顔でいましたわ。でも、幸せは訪れる事はありませんでした。あっ、でももうすぐお父様とお母様の元にいけるのですから、それが幸せという事ですのね。私、命の灯が消えるその瞬間まで、お母様がおっしゃってくださった言葉を忘れず、ずっと笑顔でおりますわ。だから天国で、私の事を目いっぱい褒めて下さいね」
そっと笑顔で呟いた。残り少ない余生を、精一杯笑顔で生きよう。それに来週からは貴族学院が始まる。
そう、あの方に会えるのだ。
公爵令息のブラック・サンディオ様。燃える様な真っ赤な髪に緑色の瞳をした素敵な殿方。私がまだ社交界に出ていた頃、と言ってももう6年近く前になる。その時に参加したお茶会で、従姉妹のカルディアにお母様の大事な形見のブローチを池に投げられてしまったのだ。
必死に池に入って探す私を見て笑いながら去って行ったカルディア。両親の形見は叔父様と叔母様に取られてしまったため、数少ないお母様の形見のブローチ。何が何でも見つけたくて、必死に探している時、ブラック様がやって来て一緒に探してくれた。
彼のお陰でブローチは見つかったのだ。両親が亡くなってから、唯一私に優しく接してくれたブラック様。あの日から私は彼の事が大好きになった。
と言っても、あれ以来一度も会っていないが。
彼も私と同じ歳、6年ぶりにブラック様に会えると思うと、嬉しくてたまらない。どうせ私はもうすぐ死ぬのだ。せめてブラック様と、楽しい思い出を作りたい。それが私の唯一の願いでもある。
~あとがき~
新連載始めました。
よろしくお願いしますm(__)m
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