第8話 差出磯大嶽山神社

 腹もくちくなったので、次の目的地である差出磯大嶽山神社サシデイソダイタケサンジンジャに向かう。


 笛吹川に面した断崖の上にある神社だ。祭神はオオヤマヅミ、オオイカヅチ、タカオカミ、コンピラ、クニノトコタチ、オオナムチ、スクナビコナ。オオヤマヅミは山の神で、富士山に祀られているコノハナサクヤの父神。オオイカヅチは黄泉の国で黄泉戸喫(よもつへぐい、あの世の国の食物を食べること)したイザナミの頭から生まれた神。タカオカミは京都貴船神社の祭神として有名な水の神。そのほかの神もクニノトコタチ、コンピラを除き国津神である。コンピラは後の勧業であろう。


 この神社は、その眺めが最大の魅力である。

 笛吹川を越して甲府盆地、大菩薩連嶺、富士山が一望できる。盆地で川が流れているため、冬などは盆地が霧に沈み、まるで雲海のように見えるのではなかろうか。

 この景色は古今和歌集にも歌われており、

   「しほの山差出の磯に住む千鳥君が御代をば八千代とぞ鳴く」

という和歌が残っている。

 差出の磯、の磯は笛吹川のほとりがまるで海の磯のように見えたから、だそうだが、現状そのような感想は抱けない。

 護岸等で地形が変わったのであろうか。古今集以降も芭蕉や与謝野晶子らが歌を残しているので、歌人には常人には感じられぬ何かがあったのかもしれない。


 境内には私のほかに初老の夫婦、バイカー、若い恋人らがいた。

 どうやらバイクの安全祈願で有名な神社であるようだ。


 授与所には「神様になった日」というアニメーションのポスター等が貼ってあった。この神社が舞台となったらしい。

 このような、アニメーション作品内に実際の地名や風景、建物が搭乗し、地元とタイアップする現象は2000年代中~後期からよく見られるようになったようだ。


 本殿はコンクリート造りであまり惹かれるところは無かったが、舞殿は武田八幡宮でも見られた天井の注連縄があり、それがこの地方の風習であることを伺わせた。

 本殿正面側の断崖では法面工事の真っ最中で、職人が数名命綱を頼りに作業をしていた。

 ご苦労様です、ご安全に!


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