第2話 三分一湧水

 蔦木宿を出た後、少し東へ道を外れて三分一湧水へ向かう。

 三分一湧水館へ到着したのは6時20分で、当然施設は開館していない。目当ての湧水は公園内にあり自由に出入りできるため、駐車場に車を停めさせてもらい湧水へと歩く。

 木道が整備された公園内を進む。途中モミジの大木が見事に赤く色づいていたが、落葉も多く数日で見納めとなるだろう。


 数分で湧水池に到着する。

 溶岩に縁どられ低くなった場所から、水が湧いていた。目視では2か所から噴出しているようである。

 幅広の水路に導水された湧水は、正方形に近い枡形池に流れ込む。この桝形池の各辺には1本ずつ水路がある。1本は流入、3本は流出だ。

 流入側と対面の流出側水路は、辺の中央で桝形池に繋がっているが、他の2本の流出側水路は辺の下流側、流入側の対辺に接する位置にある。より流出量を3等分するための工夫であろう。

 そして一番の工夫は、枡形池の中央付近、やや上流側に据えられた正三角形の分水石だ。大きさ、角度、位置の要素が揃って、3本の流出水路の水量がほぼ等しくなっているのだろう。一度で上手くいったとは思えず、何度も位置や形状を試したのではないだろうか。

 現代では水は蛇口を捻れば出てくるものだが、水道が普及していない近代以前、特に農民にとって農業用水の確保は何よりも重要なことであった。

 事実、水利をめぐって村同士での紛争があったことは、数々の記録に残されている。それを平等に解決したであろう本湧水地の工夫は、先人の英知を今に伝える生きた史跡である。

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