気の抜けた青い鳥
藤泉都理
気の抜けた青い鳥
連日、三十五度越えが続く。
もうエアコンなしでは生活していられない状態。
起きている時も寝ている時も。
今日も今日とて冷えた自室のベッドに横たわり、少し読書をして、うとうとしたところで、リモコンで自室の電灯を消そうとした。
のだが。
リモコンがない。
あおむけの状態のまま手を後ろに伸ばせば触れられるはずなのに。
倒れているのか。
しょうがない。
ごろんと半回転。
うつ伏せになり状況把握。
リモコン周辺にもなし。
これはどうゆうことだろうか。
いや簡単な話だ。
起き上がり、ベッドから離れて、少し離れたところに設置してある電灯のスイッチを切ればいいだけの話。
なのだが。
起き上がりたくない。
もう!起き上がりたくないの!
半回転で体力は使い果たしたの!
うつ伏せのまま、もういいやと思った。
電灯が点いたままでいいや。
眠れるよ眠れる。
この眠気の峠を逃してしまえば、眠れなくなる。
わかる。
小二時間は眠れなくなる。
また不眠で会社行きだ。
いやだ。
『いいかい、眠ろう眠ろうと意識するから眠れなくなるんだ。眠れない時は眠らなくていいんだよ。身体を動かすなり、本を読むなり、好きにお過ごし。あ。だけど、電化製品を扱っちゃだめだよ。余計に眠れなくなるから。え?身体が辛い?どうしても眠りたい?んー。じゃあ、師匠のとっておきの、青い鳥を貸してあげようねえ。ほら、このフェルトで作った青い鳥をよーく見てごらん。気の抜けた顔をして眠気を誘うだろう。え?この人形に見覚えがある?はは。そりゃあそうだ。これは、あんたからもらった青い鳥だからねえ。え?師匠にあげた物だから、効力がないって?そーんなことはないよ』
いつかの師匠の言葉が蘇る。
無事の帰還を祈って返した青い鳥は師匠の旅行バッグに入れてしまったので、もうない。
元気に旅立った師匠は今頃、あちらこちら飛び回っているのだろう。
寝ているなんてもったいないなんて言っているのだろう。
いやいや、師匠よ。
眠らないと身体がもたないよ。
え?
高齢になると眠れなくなるからいいんだって?
まじかあ。
ならやっぱり、若い内に眠れるだけ眠らないと。
うーん。
気の抜けた青い鳥が一匹、気の抜けた青い鳥が二匹、気の抜けた青い鳥が三匹。
うーんん。
ペンギンみたいによちよち歩いている。
よちよちよちよちよちよちよちよち。
よちよちよちよちよちよちよちよち。
よちよちよちよちよちよちよちよち。
みーんみんみんみーんみんみん。
じーじーじーじーじーじーじー。
うーんんんー。
青い鳥は新しい歩き方を獲得した。
「わけないでしょうが!」
「おはよう!今日も元気だ早朝の蝉の大合唱だ!」
「………師匠、無事のお帰り、おめでとうございます」
青い鳥のお面を身に着けた師匠を見た瞬間、一気に意識が遠のいた。
師匠、会社に遅刻すると連絡しておいてください。
(2023.8.8)
気の抜けた青い鳥 藤泉都理 @fujitori
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