第16話 ラッキーロール口臭シュリンプ!

 この少年の両親には問題がある。

 そう医者は言っていた。それは少年を診察したときの推測なのだが……どうやら精度の高い推測だったようだ。


 というかこの少年……シャワーを浴びてだいぶキレイになったな。髪の毛もサラサラで……成長すればとんでもない美少年になるだろう。服がブカブカなのは、子供用の服がなかったからだろうな。


――帰りたくない――


 小さな声だったが、少年はたしかにそう言った。


 所長はショコラさんと目線を意思疎通をしてから、


『……なるほど……なにか、あったのかな?』

『……』


 少年は無言で服の裾を握りしめる。目には薄っすらと涙が浮かんでいて……家のことを思い出したくない、というのが伝わってきた。


『ごめんね。無理に話さなくていいよ』優しい所長の言葉だが、それじゃ解決しない。『じゃあ、キミもしばらくここにいるかい?』


 少年はうなずく。派出所にいるほうが、家にいるより心地良いらしい。


 とはいえ……警察官としては少年の親を探さない訳にはいかない。虐待等が行われているのなら、なおさらだ。


 だが手がかりが何もない。少年から情報を引き出せないとなると、本当に手がかりがない。


 ……


 いったいこの少年は、なんで1人で路地裏で倒れていたのだろう。食料がまともに与えられていなかったのはわかるが……


 ともあれ、少年の両親を探すのなら協力しよう。どうせ暇だし、ここまで首を突っ込んでしまったのなら結末が気になるし。


 なんてことを考えていると、


『失礼しまーす』元気の良い声が派出所に響いた。『こちらご注文のラーメン5つです』


 そう言って現れたのは、元気良さそうな女の子だった。サンバイザーをつけてスポーティな服装の少女。


 出前か……朝から出前……しかもラーメン? 5つも?


『ラーメン……?』所長が首を傾げて、『頼んでないけど……』

『え……? 連絡があったんですけど……』

『ああ……』なにか心当たりがあるようだ。『ごめんね……それはイタズラみたいだ』

『イタズラ……ですか?』

『うん。たまにあるんだよね……頼んでもない出前を勝手に派出所に届けさせる嫌がらせが』


 面倒な嫌がらせだ。意味がない嫌がらせだ。そもそも嫌がらせに意味なんてないのかもしれない。


 それにしてもラーメン5つの嫌がらせ出前か……嫌がらせならもっと送ればよいのに。


『そ、そうでしたか……』出前のお姉さんも気まずそうだ。『困ったな……このラーメン、どうしよう……』


 みんなしてラーメンに困ってしまった。さっきまでシリアスな空気になっていたのに……


 ともあれ……食べてしまえば良いのでは? 偶然にもちょうど5人いるし……せっかくだし頂いてしまえば良いのでは? 出前の人にも食べてもらえば良いのでは?


 そう提案したいが……話しかけるのはコマンドが必要だ。


 しかし前日に数回練習した【話しかける】コマンドだ。そろそろ成功確率も上がっているだろう。


 それに失敗したところで謎の投げモーションが出るだけだ。不審者なのは今さらだし、話しかけてみよう。


 誰に話しかけようか……ここはラーメンを持ってきてくれた人だろうか。所長でも良いけれど、今一番困っているのは出前の人だろうからな。


 そう思って出前の女性の前に移動する。ちゃんと視点を回して出前の女性を画面の右に誘導する。


 そして【話しかける】コマンドを入力――


 したつもりだった。


『ラッキーロール口臭シュリンプ!』

 

 いきなり主人公が叫んで、謎の動きをし始める。


 ラッキーロール口臭シュリンプ……? 


 ……


 ……


 あ……


 慚愧黒竜猛襲秋霖波ざんきこくりゅうもうしゅうしゅうりんは? 


 ……


 ヤッベ……


 コマンドミスった。

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