第17話 なんで!?

【話しかける】 ←↙↓↘→←↘←→◯

慚愧黒竜猛襲秋霖波ざんきこくりゅうもうしゅうしゅうりんは】 ←↙↓↘→←↘←→□


 紛らわしいコマンドが悪い。わざとじゃないんだ。ごめん出前の人。あなたのことは忘れない。


 慚愧黒竜猛襲秋霖波ざんきこくりゅうもうしゅうしゅうりんは……この世界の僕の超必殺技。


 滑舌やら音質の問題でラッキーロール口臭シュリンプにしか聞こえなかったが、おそらく発動したのは慚愧黒竜猛襲秋霖波ざんきこくりゅうもうしゅうしゅうりんは


 話しかけるために位置は調整した。完全に出前の人に向かって超必殺を発動した。


 せめてもの抵抗で、視点をできる限り上に向ける。空中に向けて撃てば多少は被害が少ないはずだ。


 主人公が構える。そしてその両手に謎のエネルギーが充填されていく。キャンセルしようとボタンをガチャガチャ押すが、止まる様子は一切ない。


 実際に格闘ゲームでいきなり超必殺なんて撃っても当たらない。モーションはデカいし隙も大きい。


 とはいえ……


 日常生活で突然発動すれば話は別である。


 出前の女性は一瞬ポカンとした表情を浮かべて、


『なんで!?』


 至極真っ当なツッコミをしながら、全力で身をよじって回避を試みる。


 超必殺慚愧黒竜猛襲秋霖波ざんきこくりゅうもうしゅうしゅうりんはが放たれる。視点変更が功を奏したのか、若干空中に向けての射出だった。


 慚愧黒竜猛襲秋霖波ざんきこくりゅうもうしゅうしゅうりんははエネルギーというか波動というか……そういうものを飛ばす技だった。世界観をぶっ壊してしまった。


 視点変更で若干軌道がズレたとはいえ、それでも派出所の前にある家に当たるルートだった。


『……っ!』


 出前の少女が転びながら慚愧黒竜猛襲秋霖波ざんきこくりゅうもうしゅうしゅうりんはに蹴りを放つ。


 その蹴りの威力は絶大で、慚愧黒竜猛襲秋霖波ざんきこくりゅうもうしゅうしゅうりんはの軌道をさらにそらすことに成功した。


 前の家をスレスレで通過して、空に打ち上がっていく慚愧黒竜猛襲秋霖波ざんきこくりゅうもうしゅうしゅうりんは


 そして、空中でど派手に爆発した。まるで花火だった。心臓を揺らすような轟音とともに美しい大爆発が起こった。


 ……ギリギリで被害は出なかったようだった。出前の少女の蹴りに感謝だな……


『あっぶねぇ……』出前の少女は地面に倒れた状態で、『……容赦ねぇな……いくらなんでもど派手なごあいさつすぎるよ……』

 

 さて……土下座コマンドはどれかな……頼むから土下座させて。平然としてる主人公がムカつく。


『な……!』しばらく呆然としていたショコラが、『な……いったい、なにを……? なぜいきなり……今の技は……?』


 大混乱してるショコラだった。今まで完全に無表情だった少年すらも口をあんぐりと開いている。


 町も騒然としていた。ざわざわと民衆が集まり始めて、謎の爆発が起こった場所を指さしていた。


 ……


 ……これ、捕まるのでは……? どうする? 逃げるか? 謝るか?


 いろいろと考えていると、


『ちょっとキミのことを、侮ってたみたいやね』出前の少女の雰囲気が変わる。『ボクの変装を見破ったのは、キミが初めてや』


 ……


 変装?


 出前の少女は自分の顔に手をやって……そのまま顔を剥がした。


 いや……違う。マスクだ。変装を剥がしたのだ。


 その下から出てきた顔は……


『マイル……!』ショコラさんが驚愕の表情を浮かべて、『あなた……なんでここに……』

『別に大した用事ちゃうけど……』マイルは持ってきたラーメンを指して、『ともあれ、せっかくやしラーメン食べようや』

『……なぜ泥棒と一緒に……』

『一緒に食べてくれたら、おもしろい話をしてあげるよ』

『……おもしろい話……?』

『そう……聞いて損はないと思うよ?』

 

 おもしろい話か……


 正直僕は今、余裕がない。心臓がバクバクしている。


 ……


 相手がマイルで助かった……普通の人に超必殺撃ってたら、完全に大量殺人犯になっていた。それほどの威力だった。


 ……


 今度からはちゃんとコマンドミスに気をつけよう……シャレにならん……

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