第13話 重要ですからね

 さて夜の街を歩いて時間を潰して、少年を迎えに病院に戻る。

 

 その道中、町並みを見ていると、やたら高い高い建物が目に入った。


 高いだけじゃない……美しい建物だった。遠目からでもわかるほど存在感のある建造物だった。月をバックにしたその姿は、ゲームの一枚絵として使いたいくらいだった。


『グリムアール美術館』主人公の視線を察して、ショコラさんが説明してくれた。『この国で最大級の美術館です。世界的にも人気の観光スポットですよ』


 世界的な美術館か……道理でやたらデカい建物なはずだ。


 ともあれ僕は芸術品なんか興味ない。右スティックで目線をそらそうとした瞬間……


「……?」


 月が一瞬、欠けたように見えた。黒い影が月の一部を隠したように見えた。


 風が吹く。そして、


『……これは……』


 ショコラさんも異変に気がついたようだった。


 空から、なにかが降ってきていた。フワフワとゆっくり、なにかが降り注いできていた。

 

 紙……細長い紙だ。無数の紙切れが空中を舞っていた。


『……』ショコラさんはそのうち1枚をキャッチして、『……お金……』


 そう……空を舞っていたのはお金だった。現金が……紙幣が無数に空からばらまかれていた。


 金の雨。それがこの町に降っていた。


 すぐに町中が大騒ぎになる。今まで寝静まっていた人々が大慌てで家から飛び出し、降り注ぐ金を夢中で拾っていた。


 その中には警官すらも混ざっていた。


 まるでお祭り騒ぎ。突然の恵みの雨。降り注ぐ金。


『……マイル……』


 ショコラさんが美術館の屋上を睨みつけて、そうつぶやいた。


 屋上に目線を向ける。


 そこには人影があった。月明かりに照らされたマイルが……袋の中身を美術館の屋上からバラまいて……


 いや、捨てているのだろう。盗んだまでは良かったが邪魔になったから捨てたのだろう。ただ、それだけなのだろう。


 ……あの人は……本当に何者なのだろう。正義の味方じゃないことは確実だけれど……


 ……


 この金、僕も拾おうかな……今現在は無一文だし、少しくらい拾ってもバチは当たらないだろう……

 

 しかし……隣にいるショコラさんが許してくれるとは思えない。泥棒がバラまいた金を拾うことを許してくれるとは思えない。だって真面目そうだし……


 そう思っていると、


『拾いたいのなら、いくらでもどうぞ』

『……いいのか?』

『はい。どれだけキレイ事を言っても、金は重要ですからね』


 それはそうだ。世の中は金が全て、ではないが……とても大きな影響力を持っている。あればあるだけ選択肢が多くなる。


 だけれど……異世界に来てまで金を追い求めたくはない。もっと……他の何かを追い求めたい。


 というわけで、拾わない。宿は確保できているのだ……なんとかなるだろう。


 それにしても……異世界生活初日に変な人達と出会ってしまった。ショコラとマイル……タイプは違えど強烈な人物だ。

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