第12話 あんたは何者だ?

 シーちゃんは地元の人間らしく、迷うことなく病院までたどり着いた。


 そして医者に少年を診てもらう。


『ふむ……』医者は一通りの診察を終えて、『極度の空腹と脱水症状……しばらく何も食べてなかったんだろう。放っておいたら危なかったな』

『そうですか……』

『あんたら、この子の親か?』

『いえ……道に倒れていた少年を発見しただけです』

『そうか……』医者はシーちゃんの服装を見て、『職業は警官か?』


 シーちゃんはうなずく。


 それを見て、医者が続けた。


『ならちょうどよかった。この子の保護を頼む』

『保護……ですか?』

『ああ。小さな子供がここまで衰弱するときは、大抵の場合親に問題がある。亡くなったか虐待をしているのか……その辺はわからんがな』


 親が適切に食料を与えられないから、子供が衰弱した。


『少しの間、点滴をしておく。しばらくしたら迎えに来てくれ』

『わかりました……』


 というわけなので、僕たちは病院を出た。


 そして病院を出るなり、シーちゃんが主人公に頭を下げる。


『重ね重ね……ご協力ありがとうございました。あなたがいなければ、あの少年は助けられなかったかもしれません』


 そんなことはないだろうけど。僕がいなくてもマイルとシーちゃんだけで十分だっただろうけど。


 ともあれ、ここで選択肢。


 ◆



選択肢A 「あんたは何者だ?」

選択肢B 「マイルってのは何者だ?」

選択肢C 「そんなことよりデートしようぜ」

選択肢D 「助けられたのはこっちだ」

選択肢E 「ここはどこだ?」

選択肢F 「俺は誰だ?」

選択肢G 質問をやめる。



 ◆


 すごい量の選択肢が出てきた。ツッコミどころがいくつかあるが……ここは無難に行こう。


『助けられたのはこっちだ』

『そんなことは……あなたほど強ければ、1人で十分だったでしょう?』

『それはこっちのセリフだがな』


 だから勝手に喋るな。


 さて次の選択肢は……


 ◆



選択肢A 「あんたは何者だ?」

選択肢B 「マイルってのは何者だ?」

選択肢C 「そんなことよりデートしようぜ」

選択肢D 「助けられたのはこっちだ」

選択肢E 「ここはどこだ?」

選択肢F 「俺は誰だ?」

選択肢G 質問をやめる。



 ◆


 ……あれ? 同じ選択肢……? 


 ……ああ、なるほど。この選択肢の内容をすべて聴けるタイプの選択肢か。質問パートであるらしい。


 じゃあ次は……


『あんたは何者だ?』

『ショコラ、と申します。この度、町に配属された新人警察官です』


 新人か……道理で青いはずだ。若くて不器用で真っ直ぐで……上司も本人も苦労しそうだ。


 さて、次。


『マイルってのは何者だ?』

『泥棒ですよ。ただ、それだけです』ちょっと含みのある言い方だった。『愉快犯というか……世間で言われているような人物ではありません』

『世間で言われている……?』

『……義賊なんかではない、ということですよ。盗んだ芸術品や現金が気に入らなかった、あるいは重かった、邪魔だった等の理由で捨ててるだけです。貧しい人に分け与えるなんて、考えていない』


 盗んだものを捨てるのか……それを拾った人が義賊だと勘違いしているわけだ。

 まぁ勘違いかどうかはわからんが。


 さて、次。


『ここはどこだ?』

『ここ、ですか……?』あまりに抽象的な質問に驚いたようだったが、『王都ビブリア、と呼ばれている場所です』


 聞くんじゃなかった。どうせ覚えられない。


 さて、次……


『あんたは何者だ?』


 間違えた。ボタン連打してたら最初の選択肢を選んでしまった。


 ゲームだったらまったく同じ文面を返してくれるけれど、


『わ、私、ですか……?』当然、二度答えるのは現実では不自然だ。『……えっと……名前はショコラで職業は警察官……趣味はラーメンの食べ歩き、です』


 ラーメンの食べ歩きが趣味なのか……意外だ。


 それはさておき、


『あんたは何者だ?』

『……ま、まだ情報が必要ですか……?』ドン引きされたが答えてくれる。律儀な人だ。『とんこつラーメンが好きなのですが……最近スープが胃もたれするようになってしまって……若いうちにもっと食べておけばよかったな、と思っています』


 かなり若いように見えるけれど……いくつなのだろう。


 それはさておき、


『あんたは何者だ?』

『なん……え……?』めちゃくちゃ困ってる。それでも答えてくれる。『ね、年齢は22で……スリーサイ……って、なんでもないです……』


 22だったのか……16とかに見える。かなり若々しいと言うか幼いというか……


 それはさておき、


『あんたは何者だ?』

『……いい加減にしてください……』


 怒られた。調子に乗りすぎた。反省しよう。


 それはさておき、


『あんたは何者だ?』

『……』もはや怯えているショコラさんだった。『え……? あの……なにかの、暗号ですか?』


 さすがに怯えさせるのはマズい。完全にドン引きされている。


 そろそろ次の質問に移ろう。


『俺は誰だ?』


 軽い気持ちで聞いてから、後悔した。


 ……あんたは何者だ、を連続で聞いてから、俺は誰だ……?


 ……

 

 とんでもなく記憶が曖昧な人間にならないか。記憶喪失とか疑われないか?


 案の定……


『え……?』不意にショコラさんが真剣な表情になって、『き、記憶喪失、ですか……?』


 記憶喪失……


 ……


 そういうことにしておいたほうが、今後のためかもしれない。


 現状僕は名前もない。住所もない。職業もない。知り合いもない。家族もない。


 そんな人間はかなり怪しまれる。ならば……記憶喪失ということにしてしまえばいい。


 というわけでR2を押してうなずく。


『な、なるほど……それはさぞや不安でしょう』もっと人を疑ったほうがいいぞ。『どこか……宿のアテはありますか? ないのなら……しばらく派出所で寝泊まりしてもらっても大丈夫ですよ』


 というわけなので……なんと宿が決定してしまった。派出所というのがちょっと居心地悪いが……まぁ仕方があるまい。

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