第11話 礼のかわりに

 その女性は拳銃を構えて、こちらに鋭い目線を送ってきていた。


 背は低め。髪型はポニーテール。幼い顔立ち。警察の制服らしきものを着ていなければ子供にも見えるほどだった。


『ゲゲ……』マイルが心底面倒くさそうに、『シーちゃん……今キミの相手してる暇はないんやけど……』

『シーちゃんって呼ばないでください』お似合いのあだ名だと思うが。『……この状況は……?』

『ああ……』先輩警官らしき人が説明をする。『あのガキをマイルは守ろうとしてるんだ。だからあの倒れてるガキを利用してるんだよ』

『なるほど』シーちゃんは拳銃をしまって、『では人命救助が最優先です』

『はぁ? あんなガキなんてほっとけよ。そんなことよりマイルを捕まえたら賞金が――』


 先輩景観の言葉を無視して、シーちゃんは少年のところまで歩いてきた。

 そして少年の顔色を見るなり、


『……こんな苦しそうな少年を見捨てて……それが警察官のやることですか?』


 おや……この人……だいぶ正義感の強い警察官らしい。


『ガキが1人死んでも誰も気づかねぇよ。それよりマイルが――』

『マイルさんは私が捕まえます。しかし……まずはこの少年を助けてからです』

『……なんだお前……』そこで男性警官はなにかに気づいて、『お前……ショコラか?』


 ショコラ……だからシーちゃんなのか。


『はい』ショコラ……じゃなくてシーちゃんが肯定する。『私がショコラですが……それがどうかしましたか?』

『相当な問題児って聞いてるぞ』……僕を取り調べた警察官が言っていた問題児も、シーちゃんだろうか。『命令無視して上司に反抗する……そんな奴だって聞いてたが、どうやら噂通りみたいだな』

『失礼ながら……上司に従うために警察官になったのではありません』なにやら目的があったらしい。『私は私の正義を執行する。そのために警察官になりました』


 正義の執行のために警察官になった。


 それを上司らしき人の前で言ってしまうあたり、なんとも不器用で真っ直ぐな人物らしい。


『とにかく……』シーちゃんは構えて、『邪魔をするなら、しばらく寝ていてもらいます』

『……俺たちに逆らうってことか?』

『結果的にそうなりそうですね』


 つまり……


『シーちゃん……』マイルが言う。『味方してくれるってこと?』

『勘違いしないでください』こっちもツンデレか。『少年を助けるための最善の手段、というだけです』

『そうかい。じゃあ、期待してるよ』

『悪党の期待はいりません』

『つれないねぇ……』


 この2人……結構仲が良さそうだな。友達じゃないのだろうけど……ライバルって感じだろうか。


 そのまま戦闘開始。対戦相手は警官5人。


 決着は一瞬だった。


 まずマイルが相手を1人蹴り倒し、シーちゃんが絞め技で1人を落とす。その間に主人公が投げ技で1人を吹き飛ばす。


 あっという間に3人消えた。


 そして残った2人が、怯えたような表情を浮かべて逃げ出した。


 警官が弱かった、というわけではないのだろう。マイルの見立て通り、かなりの手練だったはずだ。


 勝因はたった1つ。というだけ。


 マイルが強いのは知っていたが……このシーちゃんという警官もかなり強いようだ。


『ご協力感謝します』シーちゃんは僕とマイルに敬礼して、『こちらの少年は……お知り合いですか?』


 ボタンを押して首を横に振らせる。ここで倒れていた少年のことなんて僕は知らない。そもそも……今日この世界に来たばかりだ。


『じゃあシーちゃん。その子、任せたよ』いつの間にやら、マイルが屋根の上に登っていた。『そっちのお強い人も……またね』


 笑顔絵で手を振って、マイルは今度こそ消えていった。追いかけたいけれど……今は少年を助けるほうが優先だろう。


 その後、シーちゃんと協力して少年を介抱する。


 少しだけだが水分を補給してくれた。だが、自力での食事は困難な状態であるようだ。


『近くの病院に連れていきましょう』シーちゃんが少年を担いで、僕に言う。『ご協力ありがとうございました。このお礼は後日……』


 また選択肢が出る。


 ◆



選択肢A 「礼はいらん」

選択肢B 「ああ。気をつけろ」

選択肢C 「礼のかわりにデートしてくれ」



 ◆



 ふむ……正直言ってお礼をもらえるのならもらいたい。今は無一文だから、どんなお礼でももらいたい。


 ここは選択肢B……を選んだつもりだった。


『礼のかわりにデートしてくれ』


 なんか主人公が言い始めた。度肝を抜かれたが、なんてことはない。僕が選択肢を選び間違えたのだ。Bを選んだつもりがCにカーソルが合っていたのだ。


『デ、デートですか……?』さすがに想定外の返答だったらしい。『なんですか……その、そんな社交辞令は……』

『社交辞令じゃないさ。あんたとデートできたら楽しいだろうな、と思ったんだ』


 勝手に喋るな主人公。ちょっと落ち着け。その口説く速度はちょっと引く。


『……』シーちゃんも困ってるよ。『と、とりあえず……少年を病院に連れていきましょう』


 そりゃそうだ。ナンパしてる場合じゃない。


 途中で襲われたりしたら危ないだろうから、ボディーガードはしてあげよう。

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