第10話 ただの悪党だ
酒場はすぐに見つかった。そこで水と適当な食料をもらって、マイルから受け取った札束をそのまま代金として渡した。反応を見る限り結構な大金のようだったが、おつりは貰わなかった。マイルがいらないって言っていたからな。
少年のところに戻る。
すると、戦闘音が聞こえた。誰かがあの場所で戦っているようだった。
路地裏に到着して、
『男の子が倒れとるけど?』マイルが警官5人と戦っているようだった。『ボクを捕まえるより先にやることがあるんちゃう? 正義の味方さん』
『ガキなんか知らねぇよ』なんともガラの悪そうな警官だった。『お前を捕まえれば、俺は一気に有名人だ。ガキにかまってる暇はねぇ』
……
なるほど。マイルを追ってきた警官に少年の救護を任せようとしたら失敗したわけだ。そして戦闘になった。
マイルが言う。
『目の前に悪党と、助けを求めている少年がいた。どっちを優先すべきか……それはまぁ各自の正義に委ねられるところなんやろうね』
たしかにそうかもしれない。
目の前の少年を1人助けることは、当然素晴らしいことだ。
だが同時に悪党を捕まえることも素晴らしいことなのだ。これから先の未来で悪党の被害にあう人を助けられるのなら、それは英断かもしれない。
まぁお互いの正義が対立したら、最後は力で決めるしかない。正義を押し通したいのなら力をつけるしかない。
僕は主人公を操作して少年のもとに駆け寄る。
『なんだお前……』警官は主人公に気づいて、『お前もマイルの仲間か?』
ここで選択肢。
◆
選択肢A 「そうだ」
選択肢B 「違う」
選択肢C 「正義の味方だ」
選択肢D 「ただの悪党だ」
選択肢E 「マイルの恋人だ」
◆
なぜ頑なに恋人になろうとする選択肢がある? 僕がこの世界での目標を恋人づくりにしたからか?
ともあれここは……
『ただの悪党だ』
正義の味方なんかじゃない。僕は正義じゃなくてもいい。
僕は少年に【話しかける】
一度コマンドをミスって投げが出たが、なかったことにしよう。
『飲めるか?』主人公は少年に水を差し出す。『ゆっくり飲め。ここに危険はない』
『邪魔だ!』
警官は叫んで僕に拳を振りかざした。
明らかに相手が違うだろう。僕を殴っている暇はないだろうに……
ここで回避したら少年が殴られてしまう。
えーっと防御のボタンは何ボタンだったかな、なんて思っているうちに主人公の顔面に拳が叩きつけられた。
その瞬間、死後の世界の僕が後ろに吹っ飛ぶ。顔面に強い痛みが走って、意識が遠のきかけた。
……主人公が殴られると僕にダメージが来るのか……そういえばそうだった。
「痛い……」
死後の世界の僕は情けないが、画面上の主人公はノーダメージ。顔面で拳を受け止めたような格好だった。
『おい、マイル』警官の一人が少年に銃口を向けて、『お前が逃げたら、そこのガキを撃ってやる』
『なんか勘違いしとるようやけど……』マイルは頭をかいて、『なんでボクが、その少年を助けると思ってんの? 見捨て逃げりゃええやん』
『逃げるのか?』
『逃げはせんけど……それはキミらがムカつくから殴りたいってだけ。少年を助けようって気持ちはないよ』
ツンデレか。巫女服で泥棒でボクっ娘でツンデレ。属性過多だな。
ともあれ、この警官を倒さないと少年を救護することはできないようだ。
『そっちのお強いキミ』マイルが主人公に向かって、『ちょっくら手伝ってくれると嬉しいな。性格はともかく……こいつら結構やるぜ』
同意しよう。殴り飛ばされて結構なダメージが僕自身に入っている。コントローラーを手放さなかっただけ褒めてほしい。
さて……また戦闘開始。相手は警官5人。仲間は泥棒マイル。
と、思っていると……
『待ちなさい!』
女性の声が聞こえた。
……どうやら乱入者がいるらしい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。