第3話 ←↙↓↘→←↘←→◯
さてある程度の操作確認と主人公の評判が終わったところで、
「気になっていたことを聞いてもいい?」
「どうぞ?」
「この……【話しかける】って何?」
「【話しかける】は話しかけることだよ。人に話しかけるの」
「それはわかるけどさ……コマンド難しくない?」
【話しかける】のコマンドは←↙↓↘→←↘←→◯である。超必殺レベルの難しさである。途中にある斜め入力がクセモノになりそうだ。
「コマンドの難しさは、キミの生前の能力から決められてる」
「ああ……なるほど……道理で難しいのか……」
自他ともに認めるコミュ症の僕が人に話しかけるのなんて、超必殺レベルに難しいってことか。腹が立つ設定だけれど……事実なので仕方がない。
「気をつけなよ。最後のボタンを間違えたら、突然超必殺を放つ危険人物の完成だから」
言われてみれば確かに……【話しかける】と【慚愧黒竜猛襲秋霖波】のコマンドは1つ違いだな……
怖すぎる。会話しようと思って近づいたら突然超必殺……みたいなことになりかねない。
というか……
「慚愧黒竜猛襲秋霖波ってなに? なんて読むの?」
「ザンキコクリュウモウシュウシュウリンハ、だよ」
「なんて?」
「だから……
「なにその……小学生が考えたみたいな名前……」
「そりゃキミが小学生時代に考えた必殺技だからさ」
何やってんだ僕。そんなダサい必殺技の名前つけるな。
慚愧……カッコいいと思ってつけたんだろうな。そんな意味の言葉じゃないぞ。自分のことを恥じるって意味の言葉だぞ。今の僕の気持ちを考えると、逆に合ってるけど。
龍王鬼神乱舞拳2については……しばらく見なかったことにしよう。1がどこにあるのかなんて聞いてはいけない。どうせこれも僕が考えた名前なんだろう。
……龍王鬼神乱舞拳……初代はどんな技だったかな……思い出せない……
「とにかく動いてみなよ」
「動くって言われても……目的は?」
「人生の目的は自分で見つけるものさ。まぁ強いて言うなら……幸せになることかな」
「名言みたいに言われてもなぁ……」
ともあれ目的を自分で見つけるというのは同意だ。他人から与えられた目的なんて、どうせすぐ飽きる。
ならばとりあえずの目的は……
「よし……今度こそ彼女を作ろう」
「高い目標を掲げたもんだねぇ……」というかこの天使……いつまでいるんだよ……「人に話しかけるのすら超必殺レベルの難易度なんだよ?」
「これくらいのコマンドなら余裕だよ」
伊達にゲームの世界なら最強とか呼ばれてない。
「ちなみにコマンドミスったらどうなるの?」
「ミスの仕方にもよるけど……基本は【つかみ】が出るよ」
「なるほど……」◯コマンドが出るわけだ。「……いきなり目の前の人につかみかかるの?」
「えーっと……一応つかみのモーションが出るだけみたいだね。つかみの判定が出るのは戦闘中だけ」
モーションが出るのも戦闘中だけにしてほしいけれど。
ともあれいきなり相手の胸ぐらをつかんで変態になるのは避けられそうだ。
せっかく転生したのだ。女性に話しかけてみよう。ゲーム画面上の操作だから緊張感も少ない。
というわけで僕は近くにいたかわいらしい女性の前に歩いていく……いや、画面上の主人公を歩かせる。
『……?』画面上の女性は主人公に気づいて、『な、なんですか……?』
明らかに警戒している。そりゃこんなヤクザみたいなやつが近づいてきたら怖いよな。
ともあれ……コマンド入力。
←↙↓↘→←↘←→◯
主人公が動いた。いきなり女性から背を向けてグルっと回って、また背を向ける。そして斜めを向いたと思ったらまた背を向けて、最後に女性に向かって謎のつかみモーション。
『……?』
女性がドン引きしてる。コマンドをミスった。
ここで焦ってはいけない。冷静に冷静に……
もう一度。
←↙↓↘→←↘←→◯
また同じ動きをした。話しかけようとしてる相手から突然背を向けてクルクル回る謎の動きだった。最後には謎すぎるつかみモーション。
隣の天使さんが一言。
「何やってんの?」
「……」コマンドミスりました……「あの……天使さん……いつまでこの部屋に?」
「ずっといるよ?」なんだと……? 「だって暇だもん。しばらくはこの主人公の……おもしろ行動を見てる」
「おもしろ行動って……」
「ほら。目の前の女性が逃げた」
そりゃ逃げるだろう。僕だって逃げる。いきなりヤクザみたいな男が目の前に来たと思ったら、謎の儀式のような動きを無言でしていたのだ。
恐怖だっただろう。悪いことをしてしまった……
いや、これ……
この世界で生活するの、キツイのでは……?
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