第4話 僕かよ
異世界で自分の体をコントローラーで操作し始めて30分。
「いや……ムズい……」
操作が難しい。というより、話しかけるのが難しい。パンチとかキックは簡単に出るが、戦闘中でもない町中で突然パンチとキックは不審者だ。
というより……
「この街はどこ? 主人公の名前は?」
「自分で調べなよ」途中から飽きたのか漫画を読んでいる天使様だった。「それに名前なんて自分で決めればいいよ」
「そうなの?」
「別に誰も困らんでしょ。その主人公は孤立無援だから。家族も友達も誰もいないから」
「僕かよ」
悲しいツッコミをしてしまった。孤立無援で家族も友達もいない……まさに僕だった。
僕はともかく主人公の見た目はカッコいいのに……
ともあれ、名前は考えておこう。いつまでも主人公呼びだと面倒だからな。
「そういえばこの主人公、家とかあるの?」
「あると思う?」
宿も自分で探せってことか……もはや聞くまでもなく無一文だろうし……
なにからやるべきか……最悪今日は野宿でも良いが……
「戦闘してみたいな……」
せっかく異世界に来て、自分の得意分野であるゲームっぽく戦えるのだ。このまま戦ってみたい。
「じゃあ、1つだけ忠告だ」
「なに?」
「わかってると思うけど、主人公が死ねばキミも死ぬ。主人公がキミ自身だからね」推測はしていたけど……「この世界にはセーブもリスタートもリセットもないよ。それだけは把握しておいて」
セーブもリスタートもリセットもない、か……
怖いけれど、それでこそ人生かもしれない。
とはいえゲーム感覚で主人公が操作できるのなら、そう簡単には負けない自信がある。
ここらで美少女の1人でも助けて、その後ムフフな展開に……
『おい。そこのお前』突然画面上の主人公に声をかける人がいた。『動くな』
画面上の主人公は目線だけをそちらに向ける。
そこで僕は聞く。
「あれ……? そういえばこの主人公、どうやってしゃべるの?」
「しゃべれないよ?」衝撃の事実。「【うなずく】か【首を横に振る】しかできないよ。たまに選択肢は出るけど……稀だね」
僕の異世界生活は大丈夫だろうか……
しかしうなずくことと首を横に振ることしかできない……
また「僕かよ」ってツッコみかけた。悲しすぎるからやめた。
とりあえず……ここでこうして天使様と会話している声は画面上のキャラクターには聞こえていないらしい。
『手を上げろ』男たちが3人ほど、主人公を取り囲んだ。『抵抗しなければケガはさせない』
「お……」こっちの世界で天使様が言う。「戦闘チャンス?」
「……いや……これは……」だって相手の服装は見るからに……「警官だよね……」
「ブチのめせばいいじゃん」
「そんなこと言われても……」
警官がここに来た理由は簡単だ。
『お前が通報された挙動不審な男か……たしかに挙動不審だな』僕もそう思う。『誰にも危害は加えていないらしいが……怯えている人がいるんだ。署まで来てもらおう』
……どうしよう……抵抗して戦闘したいけれど、完全に警官側の言い分が正しい。
ここで暴れたら……即座に指名手配とかされそうだ。突然現れた謎の男が謎の行動をして、いきなり警官をブチのめす……
……
うん……ここは大人しく署まで同行しよう。暴れる場面は、まだここじゃない。
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