第2話 逃げる

「まぁ教えるよりは実際にプレイしたほうが飲み込みが早いよね」僕もそう思う。説明書読むより先にプレイしたいタイプだ。「適当に動かしてみな。操作方法は、さっき渡した紙にある」


 これか。



☆ ☆



☆基本操作



話しかける       ←↙↓↘→←↘←→◯

パンチ         □

キック         △

つかみ         ◯

防御          L1

回避          ✕

うなずく        R2

首を横に振る      L2

移動          左スティックor十字キー

視点移動        右スティック

 


☆必殺技



ブラックダイナマイト  ↓↘↘→◯

ウルトラチョップキック ↓↓□△  

すごい投げ技      左スティック一回転◯



☆超必殺技



慚愧黒竜猛襲秋霖波   ←↙↓↘→←↘←→□

龍王鬼神乱舞拳2     →□←△→□↓◯□



☆ ☆



 ……


 いろいろとツッコみたいところがあるが……とにかく操作してみよう。


 画面に目を向ける。そこには屈強な男が立っていた。


 背はとても高い。180後半はあるだろう。ガタイもよく顔も迫力がある。仏頂面でとても怖い。街でこの人が歩いていたら僕は逃げる。


 こいつが僕の転生先の姿なのか……まったく実感がないな。


 ともあれ左スティックを倒してみると、


「あ、動いた」そのキャラクターがスティックの方向に走り出した。だが、「なんか……カクカクしてない……?」


 PS2くらいの動きをしてる。


「そりゃゲームだもん」だもん、と言われても……「あんまりグラフィックは重視しないタイプでしょ?」

「……そうだけど……」気がついたらタメ口になっているが……まぁいいだろう。どうせ死んでるし。「グラフィックよりはゲーム性重視かな……」


 グラフィックが悪くてもゲームとして面白ければ問題ない。


 要はそのゲームに合っているかどうかなのだ。グラフィックがキレイなほうが楽しめるゲームもあるし、荒いドット絵だからこそ面白いゲームもある。


 重要なのはグラフィックに合ったゲーム性と操作性だ。


 それを確かめるために、僕は左スティックをグルグル回す。


「あ……結構、機敏に動いてくれる」


 僕のスティック操作に合わせて画面上のキャラクターがクルクル回っている。ラグや細かい操作性にまったく問題はないようだった。


 次に右スティック。すると視点がクルクルと回る。画面端に行ってもバグることはなくきっちりと追従してくれた。


「ねぇ」熱中しているところに、天使様が言ってくる。「その世界さ……一応現実世界なんだよ?」

「……そういえば、そうみたいだね」

「つまりね……その主人公の行動は、実際の人々に見られてるんだ」


 言われた瞬間、背筋が凍った。


 ……そういえば画面上の通行人が、怪訝な目で主人公を眺めているような……


「つまり……さっきの僕の操作確認……急にクルクル回ったり壁に向かって走ってカメラ確認したりしてたの……」

「もしキミが……現実世界でそんな人を見たらどうする?」

「逃げる」


 だって怖い。ゲームキャラだから許されるだけの動きだ。


「もしかして今の僕は……ドン引きされてる?」

「そうだね」


 ……これからは不用意な行動は控えよう。

 ゲームっぽいのはあくまでも画面上の表記のみで、これが現実世界らしい。


 ヘタな行動をすると評判に関わる……って、もう手遅れか? なにもないところでクルクル回ってたりしたもんな……壁にめり込もうと走ってたもんな……完全に不審者だよな……


 ……


 主人公って……実際にいると挙動不審なんだな……

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