第4話

「今日は、遅かったですね」


「何が」


「わたしを呼ぶのが」


「色々あってな」


 無言。


「殺せって、言われました?」


 無言。


「そうなんだ。意外」


「意外か」


「ええ。この業界まだ慣れてなくて」


「じゃあ、心の準備はできてないな。今日はやめておこう」


「いえ」


 無言。


「どうぞ」


「いいのか」


「あなたに殺されるなら」


「俺を殺す、でもいいんだぞ」


「あなたを殺して何になるんですか」


「おまえが生き残れる」


「あなたがいないのに?」


 無言。


「意外だな。俺のことを想ってたのか」


「意外ですか。鈍い男ですね。世界のどこに、指を鳴らしただけで好きでもない男に駆け寄る女がいるっていうんですか」


「なぜ俺を」


 女どもの騒ぎ声。少しして、無音。


「うらやましいか?」


「なにが」


「ああいうのが。年相応に騒いで、若さを浪費するのが」


 無言。


「俺を殺して、すべて忘れろ。そうしたら、あの普通が得られるぞ」


「うそつき」


「まぁ、そうか。俺以外にも殺さないといけないものは多い。おまえならできるだろう」


 無言。


「無責任ですね」


 無言。


「コイントスで決めましょうか」


「そうだな」


 コイン。

 宵闇に向かって投げられる。綺麗な音が、一瞬だけ。バーの空間に響く。

 このコインが落ちたら。

 すべてが、終わる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る