⑥ お腹の中の検査 初めての胃カメラ編

 食事も七分粥になり、歩くことも苦にならなくなったころ、「病室を移ってほしい」と看護師さんからお願いされました。そのとき僕がいた病室は、個室でトイレ付の場所。そこを術後の患者さんが使いたいとのことで、個室は個室でもトイレなしのところに移ってもらえないか、とのこと。

 僕はお風呂にも入りに行きますし、共用トイレまで全然歩けるくらいに回復していたので、全然構わないですよと快く承諾しました。

 手術後にいろいろ苦しい思いをしたことを考えると、次なる人も同じく苦しい思いをしているだろうし、しかも僕はまだまだ若いのでそういうところで甘えちゃいかんだろ、と思っての承諾です。


 そういえばトイレで思い出したのですが、これめっちゃシモの汚い話になるので読んでいただいてる方には申し訳ないんですけど、経験なので話しますね。

 手術後、真っ先に僕に課された使命は「腸を動かすこと」でした。どういうことかというと、おならを出して、便を出せ、ということです。

 ICUにいたときから看護師さんに定期的に「ガスは出てますか?」という質問を受けます。ガスってのはおならですね。その質問をひたすら受け続けます。腸が動いているかの確認に躍起になるのは、もちろん手術で小腸を切っているので、切除した影響でお腹が動かなくなってたら困る、みたいな話しなのでしょう。

 術後いつガスが出たかってのはまったく覚えてませんが、術後初めて便が出たのは覚えています。初めて歩く練習をした次の日の朝です。一応手術前は下剤を飲んでできる限りお腹の中を空にしているのですが、術後食事が再開する前に便意を催して病室内のトイレに座りました。

 なんか黒に近い焦げ茶色の泥が出てきました。なんだこれ、と絶句し、そしてその臭いに悶絶しました。

 やばいですよあれ。たぶん小腸とか大腸の腸壁にこびりついていたのが剥がれ落ちて出てきたのでしょうが、長期間お腹の中に滞在し続けた便の臭いはマジでやばいです。想像を絶します。二度と経験したくない、そんなレベルのやつでした。

 すみません汚い話でした。


 さて、検査の話ですが、最初にやったのは胃カメラでした。たしか病室を移って数日経った11月27日金曜日だったと思います。


 胃カメラをやるときには、まず口からやるか鼻からやるか選べます。

 鼻から? 絶対無理だろ。

 そう思った僕は迷わず口からを選びました。

 次に鎮静剤を使うかどうか。鎮静剤ってのは麻酔とは違うんですが、胃カメラをやってるときに眠らせてくれる薬です。これを使うかどうか。

 なんかドラマとかで観たことあるのは、鎮静剤なしのやつだったよなー、という朧気な記憶がありました。僕はぶっちゃけということで、「ありとなしどっちがいいですか?」と訊きました。

 看護師さん曰く、その日自分の運転で検査に来た人は鎮静剤なしでやりますよ、とのこと。鎮静剤を使うと運転ができなく、というか運転しちゃいけなくなるらしい。「そんな人いるんですか?」と聞くと「人間ドックとかで仕事の合間に来た人は鎮静剤なしですよ」って言われました。

 ということは、僕は入院中で運転することなんてないから、鎮静剤使ってもええやん。僕は鎮静剤ありでお願いしました。

 ちなみにこのときの看護師さんは忠告もしてくれました。


「胃カメラをやるときに一度鎮静剤を使ってしまうと、二度と鎮静剤なしでできなくなるよ。楽すぎるから」


 まあそれはそれでいいでしょう。楽なのを選んでずっと楽なままでいられるならそれで。


 胃カメラ、大腸カメラ、小腸バリウムの同意書(何の同意書だったかはよく覚えてません。何度もやってるのに)は事前にすべて書いていました。

 大腸カメラの同意書はなんかポリープ見つけたら切っちゃっていいですか、みたいなやつだったと思うんですけど、マジで覚えてないです。これを書いてる1ヶ月前にもやってるというのに。それ本当に同意してんのかよ、って話しですが。


 胃カメラは特に食事制限があるわけではなかったと思います。直前数時間何も食べない、くらいだった気が。ただ、その次の日に大腸カメラも控えていたので、朝から絶食しましょうとのことで、僕の身体には再び点滴がつながれました。


 鎮静剤は点滴の管を通して入れられました。喉はなんか飲むタイプの麻酔でピリピリと痺れさせられました。

 鎮静剤を入れられる前にマウスピースみたいなやつを咥えさせられます。真ん中に穴が空いていて、そこからカメラを突っ込む、みたいな。マウスピースって表現が正しいのかどうかはわかりません。

 だんだん眠くなってきて、「カメラいれまーす」みたいなので先生が口の中に突っ込んできました。

 鎮静剤がよく効いてくれたおかげか、初めての胃カメラはあんまり記憶がありません。気づいたら終わってました。なんかおえってなったような記憶もおぼろげながらにあるのですが、あんまりきつくなかった気がします。


 なんだ、こんなもんか。

 これは鎮静剤有りを選択しててよかったわ。


 拍子抜けでした。もっときついものかと思っていたのに。

 検査結果はすべての検査が終わってから報告をもらうとのこと。

 さて、次の日は大腸カメラ。

 胃カメラはみんなやってるイメージがあるけど、大腸カメラって……

 食事が止められてる中で、胃カメラを乗り切った僕は、大腸カメラが不安で不安で仕方がありませんでした。

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