③ 入院命令、帰郷

「膀胱あたりが何かおかしいかもしれない」


 映画いったり、ゲームしたり。日常生活を送りながら、同じクリニックへの通院は続けていました。

 その中で、エコー検査をしたときに、先生がそう話してくれました。

 膀胱あたりがおかしい、と。

 まともな食事ができなくなったころの話です。食事をしようとしても、身体が受けつけません。血液検査で鉄分が足りないとか言われたけれども、そもそも食事ができないので、鉄分のサプリを買って飲んだりしていました。無理やりご飯を食べると、お腹が痛くなります。ただ、それまで漠然とお腹が痛かったのが、下腹部、それこそ膀胱あたりが痛いと明確にわかってきたため、先生もそこを重点的に検査してくれました。


 あの日の日付は覚えています。それは2015年11月6日、金曜日のことでした。

 膀胱のエコーをはっきりと撮りたいから、おしっこを我慢してきてくれ、と言われ、言われるがままにおしっこを我慢した状態で診察しました。

「膀胱あたりに腫瘍のような何かがある」

 その診察で得られた結果が、そんな感じのものだったと思います。

「もううちじゃこれ以上見ることができない。紹介状を書くから今すぐ大病院に行ったほうがいい」

 今すぐ、と言われました。

 そんな救急なことなのか? お腹の痛みを訴えながら、僕はそう思いました。


 まあ言われたからにはとりあえず足を運ぼう。鴨川沿いの病院を紹介してもらい、僕はクリニックを出たあと、そのまま自転車でその病院へ向かいました。


 紹介状を見せ、エコー検査をして、CT造影までしました。昼の2時頃、検査結果が出て、先生に呼ばれ、最初にこう言われました。


「今日から入院できる?」


 はい?


 突然そんなことを言われ、僕は頭が真っ白になりました。


「入院ってのは、なんでですか」

 そう尋ねると、次に返ってきた言葉も衝撃的でした。


「よくこれで普通に生活できてたね。お腹、めちゃくちゃ痛かったでしょ」

 普通に生活できるのが困難なくらいやばい状況だったらしいです。


 僕の造影結果を見せてもらいました。先生は僕に画像を見せながら言いました。


「小腸に穴が開いている。おそらくだけど」


 小腸? 僕は膀胱がおかしいって聞いたんですけど。

 そう返したけれども、先生からは今やった検査でははっきりと断言できないことが多い、と返されました。


 入院して、検査をして、手術しなければならない。先生は立て続けにそう言いました。

 それって今すぐ?と尋ねると、今すぐと返事が返ってきました。


 でも僕は今、ひとりです。助けてくれる人がいません。これは今すぐに実家に戻らなければならない。本能的にそう思いました。

 だから先生に向かって、「紹介状を書いてくれ」と言いました。

 明日地元に戻って、地元で入院する。入院するなら実家のサポートがあったほうがいいんじゃないか、と先生に訴えました。

 すると、先生はめちゃくちゃ難しそうな顔をしました。

「本当に大丈夫?」

 僕としては、全然動けるし、何ならここまで自分の足で来たし、問題ないと思っていました。地元に戻ったほうがメリットがある。そう信じていました。

「じゃあ、点滴だけしていきなさい。脱水症状が出てるから」

 その病院では、二時間ばかし点滴を受けました。食事はしないように指示も受けました。したくてもできないから大丈夫なんてへらへらしていました。


 なんかお腹空いたな。そう思った僕は、先生の指示を無視して、その病院からの帰り際にコンビニで弁当を買いました。一口食べて、吐きそうになったので、弁当は捨てました。


 ずっと熱が出ていてろくに片づけもできない状態で一ヶ月過ぎた部屋は、まるで空き巣に入られたような様相を呈していました。でも明日の朝一の新幹線で実家に帰らなければなりません。片づけは京都に戻ってきてからでいいや。そう結論づけ、キャリーケースに適当に着替えだの何だのを詰め込みました。入院だったら本もいるな、と思い、ジェフリー・ディーヴァーの未読本を全部詰め込みました。あとゴッドイーターリザレクションも。パソコンも持ってこう。入院は未経験。どこまで時間つぶしのものを用意すればいいのかわからなかったので、とにかく大量に。なんだかんだ大荷物になりました。

 どうせ入院するなら熱は下げなくていいや。でも汗はかく。部屋を開けるからこれ以上ベッドの布団は汚したくない。しかも明日は朝が早いから絶対に寝過ごすわけにはいかない。そう思った僕は、その日、フローリングの床の上で寝ました。


 次の日、朝6時に部屋を出て、7時の新幹線に飛び乗りました。

 11月7日土曜日。僕は熱と腹痛にうなされながら、帰郷しました。

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