春霞

松嶋豊弐

薄刃のに藤は散る。

狂える鳥居の向こうに永久とこしへが眠りゆく。

「糸切り鋏が紡ぐよう、傀儡が回るよう、

うなされる夜の夢は誰にも分かれしまへんよってに」

お歯黒の笑みを残し、巫女は消えた。


あゝ、我がよ。

生皮剥がされた我らはけだものでおまっしゃろうか。

おゝ、帝国の遠き星よ。見てはりくださりませ。

人の過ちにより、甘う腐りゆくが如く遂に西空の黄昏は潰えます。

息も耐えだえに、まことが燃やされ溶けていく。

この世すべては我らがかたき

愛おしみの心は、流した涙は……血よりも濃い。

怨みも憎しみも枯れ果て、ひじりに至った空蝉うつせみ

「春は死ぬによい折節をりふし。わいと心中いたしまひょう」


鏡向こうの星影はさやか。

麗しの常世で巡り会うことを誓い、

痛まぬようにと、せめてもの慈しみをかけん。

さいなら、さいなら……。

今生こんじょう暇乞いとまごい。

勾玉双つは嬰児みどりごの如く砕かれた。

天地あめつち滴る岩座いはくら八咫鴉やたがらす立ち、乱るる神風を示す。

豊葦とよあし黄金色こがねいろにざわめくばかり。

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春霞 松嶋豊弐 @MatsushimaToyo

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