#10, ラブソングはいらない

◆作中の表記ルール等は、適宜、以下よりご確認ください

 →https://kakuyomu.jp/users/samgetan160/news/16817330661649374299



【10-1】———————————————————————————



◯駅、改札前(夜)


   乙川と花村、ふたり向き合って立っている


乙川「じゃあ…

 …帰ろっか」


乙川M「多少は素直に話せるように

 なったところで…」



乙川「付き合ってくれて

 ありがと」


花村「あ…

 うん」

    どことなく落ち着かない空気の中、ポツポツと話す


乙川M「“結論”には辿り着かない」


   ×   ×   ×

   (回想)

   葬儀会場前で

   過去の想いを伝えた後、自ら話題を変える乙川


花村「えっ…

 …す──」


乙川「はい

 じゃ 行こっか」

   ×   ×   ×


乙川M「決定的なことは聞きたくない

 いつだって そうだ」


   ×   ×   ×

   (回想)

   夜の公園、サークルのメンバーらで手持ち花火をした場所で


乙川「なら 花火じゃなくて

 何見てたんだよ」

花村「え…?」


花村「…俺──」

乙川「はい」


花村「…え?」

   ×   ×   ×

   (回想終わり)



乙川「こっからだと何線?」


花村「あー…

 … “東西線”? …かな」


乙川「…うん?(軽く顎を上げ、承知の意を示す)」


乙川M「肝心なことは

 自ら はぐらかす癖は──


 やっぱり あの頃から変わってない」


   ×   ×   ×

   (回想)

   駅のホームにて、3年前から変わらないと言う花村に対して


乙川「俺 あの頃と変わんないよ」

   ×   ×   ×


乙川「…俺 “山手”やまのてだから」


乙川「じゃ──」

   僅かだけ手を上げ、改札にタッチし入場する


乙川M「俺は…

 “俺たち”は──」



乙川M「やっぱり ずっと──」


乙川「──……(苦い表情)」

   改札を背に、歩き出そうとして



乙川「……(うつろな表情になる)」

   思わず一寸立ち止まる


乙川M「…変わんないままなのかな」



花村「え──

 待って!」

   改札越しに乙川の腕を掴む


乙川「…え?」

   呼び掛けに我に返り、花村の方に振り返る



花村「…あ

 ごめん…」

   掴んでいた乙川の腕を放す


乙川「(動揺)いや…

 …どした?」


花村「その…」



花村「…また連絡してもいい?

 その…」

花村「“前”みたいに」


乙川「──……(驚き)」

   予想外の問いに、僅かに目を見張る



乙川M「3年の時が経って──


 どうやら俺は赦されたらしい」


乙川「(俯きがちになって)俺は…

 …別に 全然…」


   顔を上げて   

乙川「…そもそも “ブロック”とかも

 してないし」


乙川M「俺の犯した “罪”なら

 よく知っている


 何度も何度も…」


   ×   ×   ×

   (回想)

   居酒屋、サークルの飲み会にて

   花村と女子との間に割って入る乙川

   ×   ×   ×


乙川M「子供みたいに馬鹿な真似をして──」


   ×   ×   ×

   (回想)

   飲み会後、ビル近くの広場にて

   ひとり帰っていく花村の背中を見つめている乙川

   ×   ×   ×


花村「──……」

   乙川を見つめる


乙川M「お前を振り回して

 傷付けた」


乙川「……」

   言葉が出てこない、再び俯き閉口する



   沈黙に溜まりかねたように、おずおずと口を開く

花村「あ…

 …嫌なら──」


   慌てて、言葉尻を遮るように

乙川「──嫌じゃないよ」


乙川「…嫌じゃないから」



乙川M「──今度は俺の番だった」


   ×   ×   ×

   (回想)

   サークルの花見にて、唐突に花村をバンドに誘う乙川


乙川「ごめん 嫌?

 嫌だったら──」

花村「あ 嫌じゃない…!」

   ×   ×   ×


乙川M「例え 単なる気分からの

 情けだったとしても


 今 もう一度

 繋がり始めているのなら


 “イエス”以外の選択肢なんてない」



乙川「お前が それでいいなら──」

乙川「…俺は全然いいよ」


花村「…あ(はっと我に返って)

 …うん うん…」


乙川「っ…(軽く苦笑して)

 なんだよ」


   照れたように俯きがちになって

花村「うん うん…

 …また──」


花村「連絡するから」


乙川「──……」

   俯いている花村を見つめている



乙川M「“二度と顔も見たくないんじゃ

 なかったのかよ?”


 …喉元まで出掛かったけれど──」



乙川「うん」

   花村の顔を見つめて、僅かに頷く


乙川M「差し出された手を

 横から叩くはたくようなことが出来るほど


 俺は馬鹿じゃないし──」



   引きの画、改札を隔てて立っているふたりの姿


乙川M「今ここで

 本心を聴くような勇気もない」




【10-2】———————————————————————————


◯電車内



乙川「──……」

   イヤホンをして、ドア脇に立っている


乙川「……」

   スマホのバイブに気付いて

   パンツのポケットからスマホを取り出す


   寄り、乙川のスマホ、ラインのトーク画面

花村(ライン)『俺もブロックしたことないよ』


乙川「…あっそ」

   画面に視線を落としたまま、ぼそりと呟く


乙川「……」

   次のメッセージも送られて来たのに気付いて

   引き続き画面に視線を落としたまま



花村『ずっと連絡したかったから』

花村『今日会えて本当によかった』


乙川「──……」

   メッセージを見つめたままでいる



乙川「だから なんで…」

   ぽつりと独り言を呟く

乙川「…やっぱ どうかしてる」


乙川M「俺が “堂々としてる”って?

 “自信があって羨ましい”なんて…


 そんなの誰が言ったんだよ」


   ×   ×   ×

   (回想)

◯練習室(昼)


   ギターを抱えたまま話す

花村「乙川は自信あって羨ましいよ

 堂々としてるっていうか…」


乙川「──……」

   花村の横顔を見つめている



花村「あ──

 でも その…」


花村「自信家とか

 そういうことが言いたいんじゃなくて…」

   慌てたように否定する


花村「その… 正しい自信っていうか…

 健全な自己肯定感っていうか──」


乙川「いいよ 分かってるって

 花村の言いたいこと(宥めるように)」


花村「…あ

 うん…」



   抱えているギターに視線を落とし、適当に弾き始める

花村「…そう

 俺はさ──」


花村「乙川のそういうとこが

 好きだから」

   ギターを弾く手元に目線を落としたまま、何気ないトーンで話す


乙川「──……」

   花村の横顔を見つめる



乙川「…どこで慌ててんだよ」

   ぼそっと呟く


   乙川の方に顔を上げて

花村「…え?」


乙川「…いや

 別に… いいけど」


乙川M「もっと違うとこで慌てとけよ


 すごいナルシストだと

 思われてんじゃないかとか──


 そんなん どうでもいいから…


 ──好き


 ただ その一言の方が

 よっぽど心に引っ掛かって…」


   ×   ×   ×

   (回想終わり)


乙川M「今も取れないまま

 ここに居る」


   寄り、スマホ画面を見つめたままの乙川の顔



乙川M「昔も今も

 ずっと…


 お前の方が よっぽど勇気があるよ」


乙川「──……」

  テキスト入力欄に文字を打ち込む


乙川M「俺は──


 いつだって答えを知るのが怖くて

 逃げ回ってばかりいる」


乙川(ライン)『ならよかっ』


乙川「……」

   一寸考えた後、打った文字を消す


乙川M「…だけどさ──」



   再び文を打ち込んで送信する

乙川『俺も』

乙川『会えて嬉しかった』



   スマホを持った手を下ろし、窓の外の景色に目を遣る

乙川「──……」


乙川M「今度… 会った時──


 “もう二度と会いたくない”と言った意味も

 それでもブロックしなかった理由も


 “ずっと連絡したかった”なんて言う真意も


 全部 聞けるだろうか?」



乙川M「俺も思ったよ

 もう二度と会えないくらいなら


 “好きじゃない”でも

 “嫌い”でも “ごめん 無理”でも


 …もう何でもいいから──」



乙川「──……」

   流れていく外の景色を見つめている


乙川M「素直な気持ちを聴きたいと思った」



   寄り、乙川のスマホ画面

   画面には聴いている曲のタイトルと、ラインの通知が表示されている

花村(ライン)『じゃあ今度…』


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