#9, MINT
◆作中の表記ルール等は、適宜、以下よりご確認ください
→https://kakuyomu.jp/users/samgetan160/news/16817330661649374299
【9-1】———————————————————————————
* * *
◯屋外、公園沿いの路地(夕)
花村、乙川の少し後ろを付いていく形で歩いている
花村「乙川さ──」
花村「なんで 俺のこと
バンド誘ってくれたの」
少し先を歩く乙川の背に問いを投げる
乙川「え?」
僅かだけ、後方の花村の方に振り返る
正面を向いたまま、先を歩きながら話す
乙川「なんだよ そんな質問(軽く笑って)
…いきなり」
花村「…だって──」
花村「もう二度と会えないって思ったから
…本当に」
乙川「──……」
寄りの画、正面を向いたままの乙川の横顔
花村「だから
せっかくなら…」
花村「聞きたかったこと…
聞いとこうと思って」
花村M「乙川は “幽霊”じゃないし──
“サイコ”でもなければ…
超能力者でもない」
× × ×
(回想)
手持ち花火をした神社で
線香花火の閃光で照らし出される乙川の顔
× × ×
花村M「“テレパシー”なんかじゃ伝わらない」
花村M「伝えたいことが あるのなら──
伝えられるうちに…
伝えておかないと
…そんな当たり前のことに──
今になって気付いた」
乙川「(軽く苦笑しながら)…それが
聞きたかったことなのかよ」
聞こえないぐらいの声で零す
花村「え…?」
乙川「いや?
別に」
変わらず歩きながら話す
乙川「なんで そんなん聞きたいの」
花村「いや だって…」
花村「俺と乙川なんて
全然 接点なかったし…」
花村「そもそもグループから
全然 違ったから──」
花村「“なんで”って…
ずっと疑問だったんだよ」
乙川「──……」
後方を軽く振り返り、花村を一瞥する
乙川「“なんで”って…
そんなの──」
乙川「ただ なんとなく…
そん時 “隣にいたから”じゃん?」
花村「ああ…
だよね(やっぱりと笑う)」
乙川「──……(ムッとして)」
思わず足を止める
花村の方に振り向いて
乙川「とか言うと思った?」
花村「へ…?」
乙川「な訳ないっしょ」
花村の下に歩いていきながら
乙川「んな適当に決めないって」
花村の目の前までやって来て
乙川「……(微妙にむすっとした顔で)」
花村「え…(動揺)」
花村から視線を外して
公園を囲っている石垣を背に、もたれて立つ
乙川「っ…(息を吐いて)
…俺は最初っから──」
むすっとした感じは消えて、落ち着いたトーンで話す
正面を向いたまま話す
乙川「結構 お前のこと
気になってたんだよ」
花村「え…」
花村「(怪訝そうに)それこそ なんで…?」
乙川「っ…(横の花村に向いて、軽く笑う)」
花村から視線を外し、正面に向き直って
乙川「まあ お前がそれ言うかって
話ではあるけど…」
乙川「軽音サークルとか──」
乙川「どこも
ギラついてるっていうか…」
乙川「まあ 自己顕示欲の塊
みたいな奴が多いじゃん」
乙川「…だから──」
隣の花村の方に向いて
乙川「(軽く笑いながら)なんか逆に目立ってたんだよ」
乙川「全然 目立ちたそうじゃないし…」
乙川「それこそ 自己顕示欲なんか
一切なさそうなのに──」
乙川「なんで こんなとこ
いんだろーって…」
正面の虚空を見つめながら、ぼんやりと思い出すように話す
花村「──……」
乙川の横顔を見つめる
花村「それが…
…理由?」
乙川「──……」
花村の問いかけに隣を向いて
乙川M「“もう二度と会えないかも”って?
…なら俺も──」
隣の花村の顔を見つめたままで
乙川「なら 俺も…」
乙川「せっかくなら──」
乙川M「せめて “肝心なこと”だけは──
伝えておかないと」
乙川「お前に言いたかったこと…
言っとくわ」
花村「……」
乙川の顔を見つめる
乙川M「じゃなきゃ “その先の世界”を
ずっと恨んで生きてくことになる」
乙川「“なんで”って?
“なんでバンド誘ったか”って?」
花村「──……」
× × ×
(回想)
花村に「もう二度と顔も見たくない」と言われて
大人しく引き下がる、別れを受け容れる乙川
× × ×
乙川M「──あの時みたいに」
乙川「最初っから──」
乙川「好きだったからだよ
花村のこと」
花村「──……」
夕日と木影の中、見つめ合うふたり
【9-2】———————————————————————————
乙川「──……」
花村「──……」
互いに無言のまま見つめ合うふたり
花村「えっ…
…す──」
花村の言葉を遮るように
乙川「はい
じゃ 行こっか」
花村「えっ…?
てか…」
周囲を見回しながら、おずおずと尋ねる
花村「ここ…
って…?」
乙川「え?
葬儀会場 俺の爺ちゃんの」
花村「え!?(思わず大声になる)」
乙川「バっカ…!
一応 静かにしとけって…!」
花村「…いや
“一応”でいいの…?」
乙川「…そこ拾うなよ」
花村「いや てか…!」
花村「…待ってよ
そんな…」
乙川「え? なんで」
乙川「ちょうど礼服だって着てんだからさ
寄って来なよ」
花村「“寄って来な”って…
…喫茶店じゃないんだから」
乙川「はは いいね
いい例えじゃん」
花村「いや いい例えっていうか…」
乙川「ほら 入ろ」
花村「いや 待って 待って 待って…!」
慌てて乙川の腕を掴む
乙川「何?(焦ったそうに)」
花村「…だって 俺…
全然 知らないのに…」
花村「(コクンと頷いて)…ここで待ってるから」
乙川「いいって」
乙川「だって 再婚した方の
父さんの爺ちゃんだよ?」
乙川「俺だって
全然 会ったことないって」
花村「…そうなの?」
乙川「そう
だって アメリカ住んでんだから」
花村「…ああ──」
花村「え…」
花村「でも それなのに
日本でやんだね お葬式…」
乙川「だから
そこ拾わなくていいから」
花村「ああ…
ごめん」
乙川「もういいから
行くよ」
言って先に歩き出す
花村「え──」
花村の先を歩きながら、正面を向いたまま話す
乙川「だってさ
良くない? その方が」
花村「?」
未だ躊躇いがちに、乙川の後ろを付いていく
乙川「俺だったら そうだよ?」
乙川「(思い付いたように)そうだよ
“俺が死んだら”さ──」
花村「…え(戸惑い)」
乙川「辛気臭い顔して
参列するんじゃなくてさ」
乙川「…もっと──」
乙川「俺のこと知ってる人も──」
緩く微笑みながら喋る
乙川「俺のこと知んない人にも
参列してもらってさ」
乙川「そうやって賑やかに
送り出してもらいたいもん」
花村「──……」
斜め後ろから僅かに見える、乙川の横顔を見つめている
花村の方に振り返って
乙川「(微笑んで)ほら 行こ」
花村「……」
無言で、乙川の方へ足を踏み出す
* * *
◯葬儀会場内
焼香をあげる乙川と花村
花村「──……」
先に焼香をあげ、手を合わせる乙川の方を一瞥する
花村M「ごめん
それは ちょっと…
大分 無理なお願いかもしれない」
乙川に続いて焼香をあげ、手を合わせる花村
手を合わせながら、一寸思い耽る
花村M「… “乙川のお祖父さん”──
…初めまして」
控えている人らに礼をして、焼香の場から離れていく花村
花村M「正に故人を目の前にして──
こんなことを思うのは
失礼極まりないかもしれないけれど…
…これが “乙川 本人”の葬式じゃなくて──
どれだけホッとしただろう
それはそう 正しく…
あの時と同じように──」
× × ×
(回想)
森谷からの電話で乙川の訃報を知り、膝から崩れ落ちる花村
× × ×
花村M「二度目も また──
膝から崩れ落ちてしまうくらいに」
寄り、花村の膝頭のアップ
ホームの地面の土汚れの痕が残っている
【9-3】———————————————————————————
◯葬儀会場付近の道
軽く伸びをしながら、晴々としたような表情で
乙川「つーか 先輩らも
来てくれりゃ良かったのに」
乙川「どうせ礼服
着てたんだろうし」
乙川「久しぶりに会いたかったなー」
ふたり並んで徐に歩き出す
花村「…ああ」
花村「…そのまま飲み会
行ったってね」
乙川「(軽く笑いながら)なあ?
めっちゃ薄情じゃない?」
乙川「人のこと
勝手に死なせといてさ」
花村「っ…(軽く苦笑して)
…確かに」
乙川「爺ちゃんに
花村のこと紹介できたな〜」
乙川「つっても 俺の顔すら
覚えてるか分かんないけど」
花村「──……」
話す乙川の横顔を見つめている
徐にその場に立ち止まって
花村「…じゃあさ──」
乙川「え?」
足を止め、少し後ろで立ち止まっている花村の方を振り返る
花村「俺が死んだら?」
花村「俺が死んだら…
その時は乙川──」
花村「明るく参列してくれる?」
花村「(軽く笑いながら)1曲 歌ってくれたりする?」
乙川「…え?」
予想外の問いに軽く動揺する
乙川「──……(じっと考えているような表情で)」
閉口する
乙川「ごめん それは無理
てか──」
言いながら、花村の下まで歩いてくる
花村の目の前まで歩いてきて
乙川「想像したくない」
真剣な表情で花村の目を見つめる
乙川「花村の葬式とか」
花村「──……」
乙川を見つめる
花村「…うん 俺も
俺も──」
花村「“乙川の”は無理だよ」
乙川「──……」
花村を見つめる
乙川「…うん
ごめん」
花村「…え?」
乙川「(静かに)心配させて…
ごめんね」
花村「うん…」
見つめ合うふたり
花村「…まあ(軽く笑って)
先輩のせいだけど…」
乙川「っ…(笑って)
うん」
乙川M「なんでだろう
お互い大人になったから?
あの頃からは
ちょっと考えられないくらい…
不思議なくらい
素直に話せている気がして…
もしも これが
“大人になる”ってことなら…
…それこそ あの頃は──」
× × ×
(回想)
練習室にて
夕日に照らされながら、ギターを弾く花村と、そのギターに合わせて口ずさむ乙川
僅かにリズムを刻む、スニーカーを履いたふたりの足元のカット
× × ×
乙川M「この時間が永遠に続けばいいのにと
思ったけれど
大人になるのも悪くないと──」
引きの画、静かに笑い合うふたり
その後、寄りの画、革靴を履いているふたりの足元
乙川M「素直にそう思えた」
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