#8, にたものどうし

◆作中の表記ルール等は、適宜、以下よりご確認ください

 →https://kakuyomu.jp/users/samgetan160/news/16817330661649374299



【8-1】———————————————————————————



   ×   ×   ×

   (回想)

   乙川と喧嘩別れした場所で


乙川「だったら

 俺はどうしたらいい?」


花村「…だったら?」


花村「だったら…」


花村「もう二度と顔も見たくない」


乙川「──……」

   ×   ×   ×



◯駅のホーム(夕)


   ホームに人気はない

   花村と乙川、数席空けて横並びにベンチに座っている


乙川「え〜

 音楽系なんだ」


花村M「…先ず なんで──


 こんな非現実的な状況を

 すんなり受け容れてるのかとか…


 それは多分…

 俺が まだ──


 “乙川が死んだ”ってことを

 受け容れたくないからだろうけど」



乙川「すごいじゃん

 好きなもの仕事にしてて」


花村「まあ…

 …って言っても」

花村「全然 事務方っていうか──」


花村「自分が音楽してるわけ

 ではないけど…」


花村M「…そんなことは

 置いておいたとしても


 先ず なんで…」


   花村の方に振り向いて

乙川「それでも すごいじゃん」


乙川「ちゃんと自分の進みたい方

 進んだんでしょ?」


   不意に真っ直ぐ見つめられ、気圧される

花村「…あ──」


花村「…うん」


花村M「…なんで──」


   ×   ×   ×

   (回想)

   喧嘩別れのシーン


   乙川に対し、もう二度と顔も見たくないと言って

   見つめ合う花村と乙川

   ×   ×   ×


花村M「“あんな事”なんか

 何もなかったみたいに


 そんなに平然と喋れるんだろう」



花村「…乙川は?」


乙川「俺?」

乙川「…俺は特別 行きたい業界とかも

 なかったしさあ」


花村M「あんまりにも

 平然と喋るもんだから──」


乙川「まあIT系っていうか…」


乙川「(軽く苦笑しながら)…この髪色でお察しかもだけど」

乙川「いわゆる “ベンチャー企業”ってか…

 まあ そんな系」


花村M「危うく誤解しそうになる」



花村「…へえ そっか…」

花村「(緩く微笑んで)乙川っぽいね」


花村M「ひょっとしたら

 全部 俺の妄想だったんじゃないかって


 本当は あんな事なんかなくて

 3年の間が空いてるなんてのも嘘で


 … “今”が──」



花村「…乙川──」


花村「全然 変わんないね

 …あの頃から」


乙川「──……」

   花村の方を一瞥する


乙川「(軽く眉を顰めて)それって褒めてる?

 それとも貶してる?」


花村「え…

 なんで…(たじろぐ)」


花村「もちろん褒めてるけど…」


   花村から視線を外し、正面に向き直る

乙川「(あっけらかんと)あそ?」


花村M「あの頃と

 一続きみたいな気がしてくる」



   花村の方に向いて

乙川「花村は変わったね」


花村「え…(予想外の感想に驚く)

 どこが…?」


乙川「なんか垢抜けたってか…

 大人になった?」

乙川「って…(笑って)

 実際 大人んなってんだけどさ」


花村「…うん」

   複雑そうな表情


花村M「そっか…


 そうだよ

 やっぱり実際は “そう”なんだ


 “大人んなった”

 …お互いに」



乙川「スーツ似合うようになったね」


花村「うん…

 …ありがとう」



花村M「なのに なんで…?

 なんで──」


乙川「覚えてる?

 入学式ん時さ──」

乙川「花村と初めて会った時の」


花村「…え?

 ああ…」


花村M「何もなかったみたいに…


 喧嘩別れなんて

 まるで知らないことみたいに──」


乙川「あの頃は “着られてる感”

 満載だったもんなあ」


花村「…自分でも そう思ってた」


乙川「はは──」


花村M「そんな風に

 軽く笑ってられんだろう」



花村「全部…

 忘れてんのかな…」

   ひとりの世界に入り込み、独り言をぶつくさと唱える


花村「病気ってか…

 その影響っていうか…」



乙川「──……」

   ぶつくさ言っている花村を横目で見ている



乙川「花村?

 独り言いってんの?」


花村「ていうか…

 “生身”じゃないから…?」

   乙川の呼び掛けも耳に入らない、変わらず独り言を唱えている



乙川「花村」


花村「…でも

 全部 分かってて…」


乙川「──……」

   完全にひとりの世界に入り込んでしまっていることを悟る



乙川「──花村」

   花村の目の前にしゃがみ、真っ直ぐに目を見つめて呼び掛ける

花村「え…!?」

   不意に目の前に現れた乙川に驚く


乙川「何考えてんの」


花村「えっ…

 …いや──(気圧される)」



花村「…乙川って──」

   気圧された勢いのまま言葉を零す

花村「サイコパスなのかもって…」


乙川「…は?

 “サイコ”?」

   予想外の返答に思わずポカンとする



乙川「っ…(鼻で笑って)

 どんな文脈だよ」


花村「“どんな文脈”ってか…

 …だって──」


乙川「──……」

   花村を見つめている



花村「…めちゃくちゃ

 久しぶりってか──」


   唐突に、弾かれたように口火を切る

花村「…だってさ!」

花村「3年だよ…!?

 3年も会ってなかったのにさ──」


花村「(俯いて)…なのに──」

   徐々に元の弱気な語気に戻っていく

花村「乙川 何も変わってない

 みたいに話すから…」


乙川「……」

   俯いている花村を見つめている



乙川「…だって

 花村が言ったんじゃん」

花村「…え?」


乙川「“全然変わんない”って

 3年前と同じなんでしょ?」


花村「そりゃあ…

 そうだけど…」



乙川「実際そうだよ」


花村「…え?」


乙川M「花村と会わなくなって3年…」


   ×   ×   ×

   (回想)

   喧嘩別れのシーン

   見つめ合う花村と乙川

   ×   ×   ×


乙川M「“あの日”から ずっと──」



   しゃがんだまま花村を見上げる、その目を見つめたまま

乙川「俺 あの頃と変わんないよ」


乙川M「…まるで──」



花村「──……」

   見つめ合うふたり

乙川「──……」


乙川M「時が止まったみたいだ」




【8-2】———————————————————————————



乙川「──……」


花村「──……」

   ふたり、見つめ合ったままでいる



花村「…!」

   ポケットのスマホの着信に気付く


乙川「…電話?」


   胸ポケットからスマホを取り出して

花村「…あ

 うん…」


   乙川にスマホ画面を見せる

花村「あ…

 先輩…?」

   画面には“森谷さん”の表示


乙川「…ああ(生返事)」



花村「ちょっと… ごめん」

   乙川に一言断り、電話に出る

乙川「うん」

   言って、花村からひとつ空いた席に腰掛ける



花村「あ…

 もしもし はい──」


花村「え… ああ…」

花村「っていうか…

 …なんていうか──」

   横目でチラと乙川の方を見ながら

   要領を得ない返答を続ける


花村「いや… まあ…

 通夜は…」

花村「そうなんですけど…

 はい…」


花村「…え?(軽い驚き)

 あ… はい」


乙川「──……」

   その声音に、何事だろうかと、花村の方へ軽く目を遣る



森谷(電話)『…そう だからさ

 …マジで言いづらいんだけどさ──』

   電話音声のみ、以降の『』のセリフも同様


花村「はい…」

   話が飲み込めない様子


森谷『その…

 今日の通夜? あれさ…』


森谷『“乙川”じゃなくて──』


森谷『“乙川の爺ちゃん”のなんだって』



花村「…は?」

   思わず静止する



花村「… “おと”──」

花村「“爺ちゃん”…?

 って… なんすか…?」



◯会社の資料室(森谷側の画)


森谷「…あ〜 だから…

 マジで申し訳ないんだけど…!」

   書類のファイルを繰りながら、電話で話している


森谷「(言いづらそうに)… “乙川が亡くなった”って話?

 アレ──」


森谷「全部 俺の勘違いってか…

 伝達ミスっつーか…」

森谷「とにかく──」



森谷「乙川は死んでないから」


   花村側のカットに切り替え

   以降、話者のカットを交互に

花村「──……」

   スマホを耳に当てたまま呆然としている


森谷「“乙川 本人”は全然 元気だから

 フツーに」



花村「……(呆然としたまま)」


森谷『おーい

 …花村? 花村?』

   電話口から漏れ聞こえてくる音声



森谷「花村? 聞こえてる?」


花村「…!(はっと我に返る)」



花村「…えっ でも…

 じゃあ… その──」


森谷「…え? なんて?」


花村「その だから…!

 あの──」

   徐に乙川の方を見て

花村「今 目の前にいるんですよ

 乙川…」


乙川「…?」

   自分の名前が出てきたことで、軽く怪訝そうに花村の方を見上げる



森谷「…へ?」

森谷「なんだよ

 じゃあ 話早いじゃんか」


花村「…じゃあ この乙川って──」

   幽霊でも見たように、ゆっくりと再び乙川の方を見遣る


森谷『え?』

森谷『そーだよ 今 一緒にいんだろ?

 乙川』


森谷『だから──』



   電話口の森谷の音声にフォーカス

森谷『乙川は生きてるから

 フツーに』


花村「──……」

   未だ事態が飲み込み切れない、呆然としたまま立ち尽くす



花村M「… “あの時”──」


   ×   ×   ×

   (回想)

   乙川の訃報を電話で受けて

   地面に膝から崩れ落ちる花村


花村M「地面に思い切り

 膝を打ち付けた瞬間


 …何かが弾けるみたいに──


 不意に 過去の自分が

 考えていたことを思い出した」

   ×   ×   ×

   (回想終わり)



乙川「俺が?

 何だって?」

   立ち上がり、花村の下まで歩いて来る

乙川「アレだったら

 俺 電話代わるけど」



花村「──……」

   泣きそうに顔を歪めて、寄って来た乙川を見る


花村M「…浅はかで ずるくて…

 情けなくて」



乙川「…え?

 花村 なんで…」

   花村の様子に狼狽える

乙川「…そんな変な顔してんの?」



花村「(苦笑して)… “変な”…

 “顔”って…」

   言いながら泣けてくる


   ×   ×   ×

   (回想)

   練習室からの帰り道、夕暮れの大通りで


   その内心を乙川に問われるも、何も言えない花村

   道の先を歩いていく乙川の背を、ただ見つめることしか出来ず、

   その場に立ち尽くしている


花村M「今 見えてる

 この “世界”を変えるより

 壊してしまうより──


 “独りで抱えて

 生きていく方がいい”って?


 そんなの ただ

 体のいい言い訳でしかない」

   ×   ×   ×

   (回想終わり)



花村M「そうやって…

 ただの “逃げ”だって──


 あの頃の自分だって

 分かってた癖に…」


花村「っ…(泣き)」

   四つ這いになる形で、地面に崩れ落ちる


乙川「は…!?

 花む──」

   思わず花村の目線までしゃがみ込む


花村「っ…」

   目の前にしゃがみ込んだ乙川を抱き寄せる

乙川「…!(驚き)」



   乙川を抱きしめたままで

花村「…よかった マジで…

 …本当に(涙声)」


乙川「──……」

   花村の肩越しの虚空を見つめている


花村M「今の俺はどうだよ?


 …3年越しに

 乙川を目の前にして


 実は “乙川が亡くなった”

 なんてのは──


 全部 悪い夢みたいな

 間違いだったって分かって…


 …それこそ

 情けなくなるくらい──


 ただ ぼろぼろと

 泣き続けるしか出来ないでいる」



花村M「“こんな気持ち”を

 一生 知らせることもなく

 生きてくよりも──


 この “世界”を壊す方が…

 その方が後悔が大きいだなんて──


 …誰が言ったんだよ」


花村M「ただ 独りだけのものとして

 抱えて生きていくには…


 あまりに大きすぎる」



花村M「そもそも 乙川が──


 この地球上の

 何処にも居ないだなんて…

 …居なくなるなんて」



乙川「(ふっと微笑む)…なんか

 全然よく分かんないけど──」



   花村の背に腕を回して

乙川「…俺もよかった」

   釣られるように、思わず自身も涙声になる



   引きの画、無人のホーム、

   地面にしゃがみ込んだまま抱き合っているふたりの姿


花村M「その時点で

 俺の “世界”なんて──


 …とっくの昔に ぶっ壊れてるよ」




【8-3】———————————————————————————



乙川「…花村?

 大丈夫?」

   花村に抱きしめられたまま問い掛ける

花村「…え?」


乙川「…いつまで こうやってんの」


花村「──!(はっと我に返って)」



花村「ごめん…!

 ごめん! ごめっ…」

   弾かれたように、慌てて乙川を放し立ち上がる



花村「俺っ…

 …どうかしてる」

花村「どうかしてた…

 こんな…」

   額に手を当てるなどして、狼狽える


花村「…こんっなこと するなんて──」


乙川「──……」

   しゃがみ込んだままで、軽く不服そうな表情で花村を見つめている



花村M「…何やってんだ

 本当に…


 “棲む世界”が違うとか…

 一生 知ってくれなくていいとか──


 この世界を壊したくないとか」


花村M「…散々 色々言ってた癖に


 いとも容易く境界線を越えてしまう

 …あの頃──」


   ×   ×   ×

   (回想)

   練習室にて、雑誌を眺めている乙川の横顔

   ×   ×   ×

   花村を後ろに乗せて自転車を漕ぐ、乙川の斜め後ろ姿

   ×   ×   ×

   喧嘩別れした広場で

   花村に対し、落胆したような瞳を向ける乙川の顔

   ×   ×   ×

   不意に広がった線香花火の光で、照らし出される乙川の顔

   ×   ×   ×


   寄りの画

   不服そうな、何とも言い難い複雑そうな表情で花村を見つめている、現在の乙川の顔


花村M「絶対 越えられなかった線を」



花村M「…もう二度と

 会えないと思ったから?

 そして 今もう一度…


 手を伸ばせば 触れられる程の

 距離にいる君を前にして──


 とても冷静じゃ居られなくなってる


 …ちょっと

 いや 大分──


 可笑しくなってるのかもしれない」



乙川「っ…(呆れたように鼻で笑って)

 …どんだけ慌ててんだよ」

乙川「キスしたわけでも

 あるまいし(事もなげに)」


花村「… “キ”──!?(動揺)」


花村「キ…」


乙川「(苦笑して)…え?」



花村「え… 俺──」

花村「…さっきまで

 森谷さんと電話してて…」


乙川「…花村?

 花村?」

   ひとりの世界に入ってしまった花村に呼び掛ける


花村「え もしかして…

 全部 夢だったりする…?」


乙川「…は?」

   呆れから思わず顔を顰める



花村「あ──

 いや でも…」

   ポケットからスマホを取り出して

花村「(スマホ画面を見ながら)いや うん…

 履歴は残ってるし…」


乙川「花村?

 花む…」

   呼び掛けても意味がないことを察して、自ら言葉を止める



花村「…だから

 そこまでは夢じゃなくて…」

花村「…えっと でも──」


乙川「っ…(ため息)

 …どんだけデカい独り言なんだよ」

   呆れから吐き捨てるように言って

   諦めて、ひとりベンチに戻り腰掛ける



花村「え… 乙川──」

   不意に乙川の方に振り向いて

乙川「…?(怪訝そうに)」

   座ったまま花村を見上げる



花村「…生きてる?

 生きてるよね? 本当に」

   ぱっと乙川の前に腰を屈めて、ペタペタとその顔に触れる

乙川「…はあ?(怪訝そうに)

 なに──」


花村「実体ないとか…

 触れないとか…」

花村「ないよね? 本当に…」


乙川「…もう

 なんなんだよ…」

   うざったそうに花村の手を払うようにして


   我に返ったように、その手を離して

花村「…ああ ごめん

 また こんなことして…」


花村「俺…

 どうかしてんのかな…」

   屈めていた腰を戻して、再びその場に立つ


乙川「… “かな”じゃなくて──」

   呆れたように、くたびれたようなトーンで

乙川「ちゃんと “どうかしてる”よ

 …お前──」

乙川M「…昔っから──」



花村「やっぱ そう…

 …俺──」

   両手で顔を覆って

花村「…また変な夢でも見てんのかな」


乙川「…夢?」



花村M「“乙川が死んだ”なんて…

 信じたくなさ過ぎて──


 ──もう一度 君に会いた過ぎて」


花村M「とことん自分に都合のいい

 夢でも見てんじゃないかって…


 …さっきの電話も

 今 目の前に居る君の存在も…

 何もかも


 全部 ちゃんと夢じゃないって──


 確実に確かめないことには

 安心出来ないことには…


 今日も明日も

 この先 ずっと眠れない


 本当の “夢”なんて

 到底 見られそうもない」



   自分の頬をつねる花村

花村「…いったい

 気もする…」


乙川「…何やってんだよ」

   座ったまま呆れた目線を花村に向ける



花村「あの 乙川…

 …ちょっとさ──」


乙川「…え?」


花村「ちょっと つねってみてくんない…?

 俺の顔」


乙川「は…?(驚きと引く気持ち)」



乙川「(呆れたように)…お前──」

   乙川の言葉を遮るように

花村「いいから お願い…!」


乙川「…お前 Mかよ」

   しょうがなしという感じで、徐に手を伸ばす



   座ったまま、上方の花村の頬に触れて

乙川「…はい

 これでい?」


花村「いや もっと…!」

花村「こんなんじゃ

 全然 足りないから!」


花村「もっと思っ切し やって!」


乙川「は…!?(怪訝、引いている)」


花村「お願い…!」



乙川「…どんなお願いだよ」

   ほとほと呆れたように、一寸俯いて

乙川「急に喋り出したと思ったら…」


   再び顔を上げ、花村の顔を見る

乙川「…本当にいいの?

 マジで思っ切し つねるよ?」


花村「…うん(真剣な顔で)」


乙川「…っ(ため息)」



乙川「っ…(眉を顰めて力む)」


花村「…!(驚愕、目を見開いて)

 いっ──」



   引きの画、駅の外観

   音声のみで花村の絶叫

花村「──てええええええ!!」



【8-4】———————————————————————————



   乙川と花村、それぞれ別のベンチの端に、その隙間を挟むようにして座っている


   レジ袋の中を探りながら

乙川「じゃあ 何 お前──」

乙川「ずっと俺のこと

 幽霊だと思ってたってこと?」


花村「…うん」

   先ほどつねられた頬に手を当てたまま、気まずそうな顔で頷く


乙川「(呆れたように鼻で笑って)嘘じゃん」

乙川「…そっちの方が

 よっぽど “サイコ”だろ」


乙川「(呆れ顔で)それで

 あんな平然と喋ってたとかさ」


花村「いや…

 …それは だって──」

乙川「え?」



   正面を向いたまま、独り言のように話す

花村「乙川の幽霊なら怖くないよ

 …幽霊だって──」


花村「会えた方が

 全然 嬉しいよ」


乙川「──……」

   花村の横顔を見つめている



乙川「…やっぱ お前

 どうかしてるわ」

   聞こえるか聞こえないぐらいの声で、ぽつりと呟いて

   手当てをするべく、花村の方に身体を向ける


花村「…え?」

   乙川の方に振り向いて


乙川「別に

 …何も言ってない」


乙川M「…だって そうじゃん


 いつもは “うん”とか “すん”しか

 言わないくせに…


 なんで そんなことばっかり

 平然とした顔で言えるんだよ


 …こっちは──」


乙川「──……」

   視線を落として、思い耽るように



   再び顔を上げる

乙川「ほら

 こっち向いて」


花村「ああ… うん」

   乙川の方に身体を向ける


乙川M「こっちは──


 あの頃も──」


   ×   ×   ×

   (回想)

   サークルの飲み会後、ビル近くの広場にて


乙川「──……」

   ひとりその場から去っていく、花村の背中を見つめている

   ×   ×   ×


乙川M「今も──」


乙川「──……」

   花村の横顔を見つめる


乙川M「いつだって──」



乙川「痛そ…

 ごめん」

   花村の顔の傷の手当てをしながら

花村「いや…

 俺が どうしてもって頼んだんだし…」


乙川「まあ そっか…(ぼんやりと)」

花村「うん…」



乙川M「肝心なことばっかり

 言えないでいるのに」


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