#7, 秘密
◆作中の表記ルール等は、適宜、以下よりご確認ください
→https://kakuyomu.jp/users/samgetan160/news/16817330661649374299
【7-1】———————————————————————————
◯屋外、霊園前の道(夕)
花村、イヤホンを着けたまま、プレイリストを眺めながら歩いている
花村「…え──」
ふと、辺りの景色に気付き足を止めて
プレイリストから顔を上げる
花村「ここ 霊園なんてあったんだ…(軽い驚き)」
徐に、再びプレイリストに視線を落として
その1枚目をめくる
花村「…ん──
終わり…?」
花村「…何これ──」
2枚目の紙、下の方が幾重にも折り畳まれている
一段ずつ開きながら読んでいく
乙川(手紙)『思い出してくれた?
俺との思い出』
以降『』は、乙川の音声によるナレーション
花村「…これは全部──」
ぼそぼそと、手紙の文面を口に出しながら読んでいく
乙川『これは全部──
花村と一緒にいるとき
俺の頭ん中に流れてた曲だよ』
乙川『まるでドラマみたいに
BGMが心ん中に流れてた』
乙川『最後まで面倒くさくて ごめんね』
花村「──……」
手紙をじっと見つめたままでいる
花村「“最後”って…」
花村M「どんなつもりで書いてんの
… “最後”なんてさ」
花村「… “面倒くさい”とか──」
独り言をつぶやく
花村M「“面倒くさい”とか──
どうだっていいよ そんなの…
これから先
全部の言動が 100面倒くさいとしても
それでもいいよ
それで構わないから…」
花村M「今すぐ目の前に現れて
もっかい… 何度でも──
俺のこと 振り回してよ
もう二度と会えない “一生”なら──
ずっと忘れられない…
ずっと振り回されて生きてく
“一生”の方が──
どれだけ いいことか」
花村「……」
また一段、手紙を開く
乙川『こんな形でしか
素直になれなくて ごめん』
寄り、手紙の続きの文面のアップ
“ずっと”の文字
花村M「プレイリストの最後の一曲…
よりによって
やたら明るいアイドルソングが──
いやに虚しく耳の中で流れ続けてる」
花村「っ…(驚きから息を呑む)」
目を見開いて、思わず静止する
???「──花村…?」
不意に呼び掛ける声
視界の隅に立ち止まっている人影がある
花村「…え?」
呆然とした顔のまま、気配の方に向いて
花村の方に向いて、少し離れた場所に立っている乙川の姿
同じように黒スーツに身を包んでいる
花村「(呆然)…え?
なんで…」
言いながら、徐にイヤホンを外す
乙川「…え?
“なんで”って…」
少しばかり決まり悪そうに
乙川「だって…
“お盆”だから?」
花村「──……」
花村「…ああ だから…」
花村「“帰って来てる”…
みたいな…?」
必死に平静を装って、ぽつぽつと言葉を繋ぐ
花村「…でも どっちかって言うと──」
花村「今から “行く”って
タイミングなんじゃ…」
乙川「え?
…あ〜 まあ…(曖昧な返事)」
乙川「てか お前は?
なんで こんなとこいんの」
花村「…え?」
花村「俺… は──」
ふと現実に引き戻されたように
花村の下まで歩いてきて
乙川「何それ?
何持ってんの」
花村が手にしているプレイリストの紙を、手で軽くめくるようにして
花村「え ちょっ…!」
乙川「…お前 これさ──」
決まり悪そうに、軽く眉を顰めて
乙川「なんで 今さら
こんなもん持ってんの」
花村「──……」
徐に口を開いて
花村「…先輩が──(聞き取れないぐらいの小さな声で)」
乙川「…え?」
思わず聞き返す
花村「森谷さんが…
渡すの忘れてたって…」
ぽつりぽつりと続きを話す
花村「つい この間
貰ったばっかなんだよ」
眉を顰め苦笑して
乙川「なんだよ それ…
めっちゃ──」
花村「っ…(泣き)」
静かに涙が流れる
乙川「え…?(動揺)」
花村「(泣きながら話す)…だよな めっちゃ…
めちゃくちゃ今更だよな…」
プレイリストを持っている手で、目頭を押さえるようにして
脱力して、目頭を押さえていた手をぶらりと降ろす
花村「今更…
こんなん聴いてもさ…」
乙川「──……」
泣いている花村を見つめる
乙川「どした?
お前 なんで泣いてんだよ」
眉根を寄せて、困ったような顔で
涙に触れるように徐に手を伸ばす
花村「……」
心配そうな顔の乙川を見つめる
花村M「…ああ──
そうだった
だから…
何度 傷付こうと
離れられなかったんだ
時々こうして──
本当に心配しているような顔で
どうしようもなく優しい
俺のことを見つめてくれたから」
乙川(手紙)『ずっと──』
続きの文面、乙川の音声で
引きの画、夕日に照らされながら、見つめ合うふたりの姿
乙川『──お前のことが好きだった』
寄り、花村の手に握られている手紙のアップ
涙が落ちて滲んでいる、“好きだった”の文字
【7-2】———————————————————————————
花村M「時々そうして──
本当に心配してくれた
優しくしてくれた
気に掛けてくれていた
いつだって隅にいて…
何か… 何も──
伝えようとすらしなかった 俺のことを」
◯(回想)練習室(昼)
花村、床に胡座を掻いて座っている
ベースを膝に抱えて椅子に座っている早川(バンドメンバー)
乙川は、ふたりから少し離れた棚の上に腰掛け、ギターを触っている
手にしているCDを眺めながら
早川「えー “fews”?」
椅子の上の早川を、遠慮がちに見上げながら
花村「あ… うん(自信なさげ)」
早川「まー fewsは
俺も聴くけどさあ」
言いながら、花村にCDを返す
花村「…うん」
乙川「──……」
横目でチラと、ふたりの様子を窺う
膝に抱えたベースを適当に弾きながら話す
早川「でも 次回のライブっしょ?
コータたちのバンドもさあ──」
乙川の言葉によって遮られる
乙川「──いんじゃない?」
ふたりの話に割って入る
早川「え?」
花村「……」
ふたり共に、不意に口を開いた乙川の方を見る
乙川「コータたちも
fewsやるっつってたけどさ──」
乙川「別に “オンリー”とかじゃないし…」
乙川「1曲 被るぐらい
別にいんじゃん?」
立ち上がり、花村の下まで歩いて行って
乙川「いいね」
花村が手にしているCDを手に取る
乙川「俺もこれ好き」
座っている花村を見下ろし、微笑みかける
花村「──……」
所在なさげな表情、目線だけで乙川を見上げる
早川「…まあ〜
“ボーカル”がそう言うなら?」
早川「俺は別にいいけど…」
早川「律が気持ち良く歌えるの
やるのが一番いいと思うし」
乙川「はは 何それ
(軽く笑いながら)“俺”贔屓?」
早川「(冗談ぽく笑いながら)まあ
言ってフロントマンだし?」
乙川「ふふ ありがと」
乙川「な──
じゃあ 次」
言いながら、花村の手元にCDを返す
乙川「グループの
セトリのノートに追加しといて」
花村「…あ
うん…(おずおずと)」
乙川「なあ これ食べた?」
カバンから取り出したパンの袋を見せながら
早川「え?
何それ」
乙川「購買の新商品」
早川「(笑いながら)はあ?
何それ──……」
花村「──……」
早川と談笑する乙川を見つめている
花村M「いつも こうだった」
* * *
◯キャンパス内、駐輪場
乙川、自転車の鍵を外している
花村、少し離れて、後方に立っている
花村M「…いつも──」
花村「あの…」
乙川「えー?」
自転車の鍵を弄りながら返事をする
花村M「いつまで経っても
ほかのメンバーに気後れしてる中で
時たま珍しく
自分が提案した曲は──
いつだって必ず拾ってくれた」
花村「…ありがとう
さっき…」
乙川「… “さっき”って?」
花村「その…
次のライブのセトリ?」
乙川「あ〜…」
自転車を駐輪の列から出しながら
乙川「別に?」
乙川「礼 言われるようなこと
してないけど?」
花村「…あー …うん
まあ…」
気恥ずかしさを誤魔化すように、徐にうなじを掻く
花村「(僅かに苦笑して)…だよね」
花村M「本心なんて
ちょっとも見えてこない
意識して聴いていなければ
流してしまいそうな──
喋ってるんだか
喋ってないんだか…
分からないぐらい
小さな俺の声を──」
乙川「──……」
不意に後方の花村を振り返って見つめる
花村「……」
気圧されるように、自身も乙川を見つめる
一寸見つめ合うふたり
花村M「──必ず聞き漏らさずに
拾ってくれた」
乙川「乗ってく?
後ろ」
花村「へ…?」
不意打ちの問いかけに動揺して
乙川「ん──
荷物 乗せれば?」
花村「え… あ…
…うん」
言って、おずおずと乙川の自転車の下に近づいていく
乙川「乗った?」
正面を向いたまま、後ろに乗せた花村に問いかける
花村「うん」
乙川「おっしゃ
じゃあ出発」
言って、ゆっくりと自転車を漕ぎ出す
* * *
◯並木道
樹木の葉の影が落ちる道を走る、穏やかな風に吹かれているふたり
前後で自転車に乗ったまま話す
乙川「別に──」
花村「……」
乙川の言葉に静かに耳を傾ける
乙川「俺も好きだからだよ」
花村の目線の画、正面を向いたまま話す乙川の後頭部
僅かに顔の輪郭が見えている
花村「うん──」
花村M「本当は気付いていたのに…
どうして言えなかったんだろう?」
寄りの画、自転車に乗っているふたり
花村M「いつも…
“俺が提案した曲
採用してくれてありがとう”って
“いつも拾ってくれてること
俺も気付いてるよ”って
その半分でも…
伝えられてたら──
あの頃の何かが 変わってたのかな」
引きの画、木漏れ日の中、自転車で走っていくふたりの姿
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