#3, 愛の手

◆作中の表記ルール等は、適宜、以下よりご確認ください

 →https://kakuyomu.jp/users/samgetan160/news/16817330661649374299



【3-1】———————————————————————————



◯屋内、オフィス(夕)



   花村、デスクで電話している


花村「ああ はい はい…

 でしたら それで はい──」

花村「ああ いえ こちらこそ

 …はい よろしくお願いします」


花村「はい 失礼いたします」



   机上にスマホを置いて

花村「っ…(一息吐いて)」


花村「──……」

   PC画面に見入る



男性社員「ああ それ──」

   先輩らしき男性社員

   後方からやって来て、PC画面を指しながら声を掛ける


花村「?」

   声の方に振り返って、男性社員を軽く見上げる


男性社員「来週にリスケんなったから」

男性社員「だから

 それまででいいよ」


花村「ああ…

 そうなんすね…」

   予想外の変更に、思わずぼんやりした返事になる


   ぱっと気持ちを切り替えたように、男性社員の顔を見て

花村「はい 分かりました」


男性社員「(軽く微笑んで)じゃあ お先

 お疲れ様」

   花村の椅子の背をポンと叩き、去っていく

花村「はい

 お疲れ様です」

   去っていく先輩の背中の方を振り返りながら



花村「っ…(大きくため息を吐いて)」

   緊張が解けたように、背もたれに軽く寄りかかる



花村「──……」

   スマホに表示された通知を見遣る


   スマホを手に取って

花村「(訝しそうに眉を顰めて)…DM?

 誰…」


  *   *   *



◯オフィスビル外の喫煙所


森谷(モリヤ)「あ──

 “DM”見てくれた?」

   スーツ姿の若い男、煙草を片手に電話で話している

森谷「…そうそう

 花村に渡すもんあってさ」


   以降、森谷と花村、話者のカットを交互に


◯駅構内


   花村、歩きながら電話で話している


花村「でも なんでDMなんか…」


森谷「いやあ 俺

 花村の番号消しちゃってたしさ」


花村「そんな…」


花村「…もうちょっと

 悪びれてくださいよ…」



森谷「悪い悪い」

   カラカラと明るく笑い飛ばして

森谷「だから 最近の若い子の

 マネしてみたっつうかさ」


森谷「ほら 今って DMが

 “ライン”の代わりとか言うじゃん」


花村「え…

 そうなんですか?」


森谷「おお そうよ

 知らない?」

森谷「お前んとこ

 “エンタメ系”なのにさ──」


森谷(電話)『そんぐらいのトレンド

 押さえとかないと』

   電話越しに聞こえてくる音声のみ

   以降、『』のセリフは同様


花村「ああ…

 まあ…」

   生返事をしながら、ICカードをタッチして改札を通り抜ける



森谷「…ああ で──」

森谷「そんな話は

 どうでもよくてさ」


花村「俺に “渡すもん”…

 ですか?」


森谷『おう そうそう』



森谷「いや こないださ──」

森谷「結構 久しぶりに

 “大学の練習室”行ったのよ」


花村「え…」

花村「まだ出入りしてるんですね…(軽い驚き)

 先輩」

   変わらず話しながら、乗り換え先に向かって駅構内を歩いて行く



森谷『いや なあんだよ

 その反応(少し不服そうに)』

森谷『いいだろーよ 別に

 OBだろ? OB』


花村「いや…

 非難してる訳じゃ…」


森谷「あ〜… ま いって

 また話 脱線してるから」


花村『ああ… はい』



森谷「あ〜… で…

 “渡すもん”な?」


花村『はい』


森谷「そうそう

 そんでさ──」

森谷「“花村らの代”が卒業して

 すぐの春頃かなあ…」


花村「──……」

   静かに話に耳を傾けている


   自嘲するように、軽く苦笑しながら

森谷『…まあ俺 その頃はもっと

 練習室 出入りしてたからさ』


花村「っ…(軽く笑って)

 そうなんすね」


森谷「っ…(笑って) おう

 で そん時にさあ──」


   下方に視線を落として

森谷「お前に会うことあったら

 渡してくれって──」

   手にしている封筒らしきものを眺めている

森谷「預かってたんだよ」



   花村側のカメラに切り替わって

   スマホを耳に当てている花村の横顔のアップ

森谷『──乙川から』


花村「…え?」

   時が止まったように、思わず静止する


   引きの画、忙しく行き交う人混みの中、立ち尽くしている花村の姿



花村「…おと──」


森谷「おう 乙川な」

森谷「え 何?(嘘だろという風に軽く笑って)

 忘れたの?」


花村「は…

 …いや──」


花村M「いや──


 忘れる訳ないでしょう

 …忘れたくても──


 あの日から…」


   ×   ×   ×

   (回想)◯ビル近くの広場、喧嘩別れした日


   スローモーション

   去っていく乙川の背中と、それを見つめたまま動けずにいる花村

   ×   ×   ×


花村M「あの夜から」



   ×   ×   ×


花村M「もちろん

 “毎日 考えてました”なんて──」


   (回想)◯オフィスフロア

   電話片手にPCを操作するなど、忙しく働いている花村の様子


花村M「社会人失格なことを

 言うつもりはないけれど…」

   ×   ×   ×


花村M「でも それは──」


   ×   ×   ×

   (回想)◯花村の自宅

   洗面台前、スウェット姿で歯を磨いている花村


花村M「努めて思い出さないように

 していただけで…」


   ×   ×   ×


花村M「“あの日”から…

 …あの日より もっと──


 ──随分前だ」


   ×   ×   ×

   (回想)◯大学の練習室、入学式の日

   スーツに身を包み、こちらに振り向く乙川の姿

   ×   ×   ×


花村M「“出会った日”から ずっと」


   ×   ×   ×

   (回想)◯花村の自室(昼)

   花村、Tシャツ姿で布団袋を抱え、押入れに仕舞おうとしている


花村M「どんなに奥に仕舞い込もうと──」


   ふと、押入れ内に積まれているCDの山に目が留まる


   徐に山の一番上のCDを手に取って


花村M「何度か手放そうとしても」



花村M「乙川が この頭ん中から

 消えたことは──」


   それを眺めたまま、動かずにいる花村の背中


花村M「一回もなかったよ」

   ×   ×   ×



【3-2】———————————————————————————


◯練習室(昼)



森谷「お〜 久しぶりい」

   膝にギターを抱えて座ったまま、明るく挨拶を投げかける


花村「…どうも」

   おずおずと、遠慮がちに部屋に入って来る



近藤(コンドウ)「あー 花村さん!

 めっちゃ久しぶりっすね!」

   花村の姿を認めて

   森谷の後方から元気良く声を掛ける


   後方の近藤の方に振り向いて

森谷「おお

 そこ ギリ被ってんだ?」

近藤「ああ そうす そうす」



   そろそろと森谷の下までやって来て

花村「なんか…

 …凄いですね」


森谷「ん?」

   座ったまま花村を見上げる


花村「いや…

 世代的には 全然被ってないのに…」

花村「めちゃくちゃ

 馴染んでるっていうか…」


森谷「“我が物顔で

 居座ってんなあ”って?」


   森谷に背を向けるようにして、カバンを降ろしながら

花村「いや まあ…

 …そうすね」


   はっとして、勢い良く森谷の方に振り返り

花村「…いや!

 ってか…!」

花村「…その──

 …褒めてます」

   慌てて否定する


森谷「っ…(ニヤリと笑う)」



   膝の上のギターに視線を落とし、何気ないトーンで話す

森谷「いいよ 別に」

森谷「相変わらず 言葉足らずってか…

 口下手よなあ」


花村「…まあ

 はい…」

   バツが悪そうに

花村「自覚してます」


森谷「(軽く笑いながら)まあ別に俺なんかにゃ

 いいけどさあ──」


森谷「ここぞって時には

 ちゃんと気遣えよ?」

森谷「ちゃんとさあ…」


   ギターから顔を上げ、花村の顔を見て

森谷「自分の言葉で話さないと」


花村「──……」

   思わず森谷の顔を見つめる



   徐にふたりの下までやって来て

近藤「…お〜

 なんか めっちゃ深いじゃないすか」

近藤「“キンゴン”すか?」


森谷「そんなんじゃないわ

 てか “キンゲン”な」

森谷「(呆れたように)なんだよ “キンゴン”って

 キングコングかって…」


近藤「ええ?」

近藤「…あ〜

 キンゲン… “キンゲン”なんすね…」

   なるほどと言うように復唱する


花村「……

 っ…(軽く笑う)」


   ぱっと花村の方を見て

近藤「あ 笑った」


花村「っ…(気恥ずかしそうに、視線を泳がせる)」



花村M「実際 “キンゲン”だと思った

 少なくとも自分にとっては…


 言いたいこと 思うことがあっても

 口を噤んでばかりきたせいで…


 …いや──


 もっと酷いな

 …あんなこと──」


   ×   ×   ×

   (回想)

   ビル近くの広場、乙川と喧嘩別れした場所

   乙川に向かって、別れの言葉をぶつける花村

   ×   ×   ×


花村M「言いたかった訳じゃないのに」



花村M「あんな言葉が

 “最後の一言”になるなんて…


 説明しようとも…

 言い訳しようとすらしなかった


 それで善しとして

 飲み込んできたせいで──


 後悔ばかりの “今日”がある」



【3-3】———————————————————————————



森谷「…で──」

   スコアブックなどが並んでいる棚を探っている

森谷「…そう これこれ…」

   本の間から封筒を取り出し、机の上に置く


花村「……」

   緊張した表情で封筒を目で追う



   机の脇の椅子に腰掛け、側のギターを膝の上に抱える

森谷「悪いな」

   軽く眉尻を下げて、軽いトーンで謝る

森谷「こないだ ひっさしぶりに

 ここ来るまで すっかり忘れててさ──」



   膝上のギターに視線を落とし、適当に触りながら話し続ける

森谷「3年越し? ってか…

 めちゃくちゃ今更だけど…」


   ぱっと顔を上げ、花村を見て

森谷「まあ アレっしょ?

 お前ら仲良かったし…」

森谷「今も連絡は取ってんだろ?

 乙川と」


花村「…え?(動揺)」



花村「…仲良くなんか──」

花村「…ないですよ

 別に…」


   再び顔を上げて花村を見る

森谷「はあ?(軽く呆れたように笑って)

 なワケないだろ」


   あっという間に、再びギターに視線を戻して

森谷「何言ってんだよ…」

   ギターを触りながら、何でもない風に話す

森谷「お前いっつも 乙川のことばっか

 追っかけてたじゃん」


花村「っ…(動揺)」



   ひょいと近寄ってきて、話に入る

近藤「ええ(楽しげに笑いながら)

 なんか犬みたいっすね」


森谷「はあ?

 そういうんじゃないわ」

森谷「ほんと お前は…」

   理解できないという風に、首を捻る


近藤「ええ〜?(不服そうに)

 じゃあ どういうのなんすか」


花村「……!(焦り)」



森谷「それはお前 ほら…」

森谷「…あ〜

 “ソウルなんちゃら”… みたいな…」


花村「……(安堵、僅かに脱力する)」


近藤「(楽しげに笑って)なんすか?

 スピリチュアル系っすか?」



花村「そんなんじゃ──(不意に声を張る)」


   我に返ったように、語気が弱まる

花村「…ないですよ

 本当に…」


森谷「──……」

近藤「──……」

   不意に珍しく声を張る花村に驚き、共に花村の方に振り返る



花村M「恥ずかしかったし…

 申し訳なかった


 本当は乙川は

 全部 見透かしてんじゃないかって


 そう思うことは何度かあったけれど…

 …でも──


 乙川だけじゃなくて──」


   ×   ×   ×

   (回想)

   ライブハウスのフロア

   離れた場所から乙川を目で追う花村の姿


花村M「もしかしたら

 周りの人間にも

 筒抜けだったんじゃないかって…


 だとしたら…」


   サークルメンバーらと笑い合っている乙川の姿


花村M「乙川は どういう気持ち

 だったんだろう」


   ×   ×   ×


花村M「…こんな──」


   机上の封筒に視線を落として、じっと見つめている花村


花村M「似ても似つかない人間に

 追っ掛けられてた気分は…」



花村M「…会わなくなって

 3年も経ったのに──


 未だに “仲が良い”なんて

 不名誉な勘違いまでされて」


花村M「…ごめん 乙川


 いい加減さっさと

 手放さなきゃならないのに

 でも…


 俺だって努力したんだよ

 何度も手放そうって

 忘れようって


 でも──」



森谷「…花村?

 だいじょぶ?」

   椅子に腰掛けたまま、花村の顔を覗き込むようにして


   呼び掛けに我に返って

花村「あ…

 …すいません …はい」


森谷「…うん」

   なら良いという風に頷く


森谷「ん──

 これ」

   脇の机上から封筒を手に取り、花村に差し出す


花村「……」

   封筒を注視したまま、徐に無言で受け取る



森谷「(軽く苦笑しながら)…いや 大丈夫かよ

 お前 “アル中”?」


花村「…え?(動揺)

 なん──」


森谷「だって 手震えてるから」

   変わらず苦笑しながら、本気で言っている訳ではない


花村「……!(自分の手元に視線を落とす)」

   言われて初めて、自分の手が震えていることに気付く



花村「…違いますよ」

   動揺を隠すように、軽く笑いながら

   自分の手を押さえるようにして


森谷「じゃ “ニコチン”?(あっけらかんと)」


花村「…だから 違いますって」

花村「どっちも そんな…

 …やんないですから」


森谷「ははは──」



花村「──……」

   封筒を握る自分の手を見つめる


花村M「でも──


 まだ手放せずにいる」



【3-4】———————————————————————————



花村M「もう二度と会わないのなら…


 …自分で──


 もう二度と顔も見たくないと

 言ったんだから


 本当はこの封筒も──


 中身なんか見ないまま

 今すぐ破り捨てても

 いいのかもしれないけど…」


花村M「…というか──


 乙川だって…

 3年越しに──


 今更こんなもの

 見て欲しくなんか

 ないんじゃないかと思うけど…」



◯大学校舎前の広場(夕)



   花村、夕日を受けながら、ひとり柵の上で腕を組んで立っている


花村「──……(思い耽る)」



森谷「花村」

   後方から声を掛け、花村の隣にやって来る


   タバコを取り出して

森谷「あ 平気?」


花村「ああ…

 全然… はい」


森谷「悪い」

   断ってタバコに火を点け、吸い始める



   身を返し、柵を背もたれにする

森谷「お前と乙川って

 仲良かったんじゃないの?」


花村「え…」


森谷「いや…」

森谷「はたから見てる分には

 全然そんな感じしなかったからさ」


森谷「(軽く苦笑して)…さっき 結構な勢いで

 否定してたから」

森谷「なんか気になって」


花村「──……」

   無言のまま森谷の方を一瞥する



花村「…仲悪いとかじゃないですよ?

 嫌いとかじゃ…」


森谷「──……」

   タバコをふかしながら、話す花村の横顔を見ている



花村「……」

花村(…もちろん──)


花村M「乙川がどう思ってたのかは

 分からないけど…」



花村「…でも──」


   軽く苦笑しながら

花村「乙川と俺とじゃ

 全然タイプが違うじゃないですか」


花村「… “棲む世界”が違うっていうか──」


森谷「っ…(軽く鼻で笑う)

 一緒にバンドやってたのに?」


   隣の森谷の方を一瞥して

花村「…それは──」



花村「…バンドっていう

 共通項っていうか──」

花村「同じ目的があったからで…」


花村M「…その “点”すらなかったら──」


花村「本当なら関わることなんて

 なかったと思います」


花村「…それ以外に共通点とか──」

   自嘲するように苦笑しながら

花村「一個もないと思うんで」


森谷「──……」

   話す花村の横顔を見ている



森谷「なら 俺とお前は?」

花村「…え?」


森谷「俺と花村の関係は何なのよ」


花村「… “何”って──」


花村「…先輩と後輩ですか?」


森谷「バっカ…!」

森谷「そんなのは 外っ側から見た

 ただのラベルじゃねえかよ」


花村「…え──

 って… 言われても…」



花村「じゃあ…

 何なんですか? …俺たちの関係って」


   花村の方に向いて

森谷「“友達”じゃねえの

 少なくとも──」

森谷「俺はそう思ってんだけど」


花村「──……」

  森谷の顔を見つめる



森谷「…つまり そういうこと」


森谷「俺とお前だってさあ──」

   苦笑してみせながら

森谷「共通点なんか一個もないじゃんよ」


花村「……」

   話す森谷の横顔を見ている


森谷「俺は “陽キャ”? だし──」

   花村の方に向いて

森谷「お前は “陰キャ”だろ?」


花村「っ…(軽く笑って)

 そんな…」

花村「決め付けないでくださいよ」


森谷「ははは──」



森谷「…まあ──」

森谷「少なくとも同じタイプじゃないじゃん

 俺らだってさ」


花村「──……」


森谷「だから 別に…

 そんなん関係ないんじゃない? ってこと」


森谷「仲良いとか…

 そうじゃないとか…」

森谷「友達とか友達じゃないとか?」


森谷「…むしろさ──」

森谷「タイプが違うから…

 正反対の相手だから──」


森谷「惹かれるもんなんじゃないか

 とか思うし」


花村「……」



森谷「まあ 少なくとも──」

森谷「俺はお前と友達だと

 思ってたみたいに?」


森谷「俺から見ればさ──」

   花村の方に向き、緩く微笑んで

森谷「お前と乙川

 ほんとに “いいコンビ”だったと思うよ」


花村「──……」

   思わず森谷の顔を見つめる



森谷「…ああ

 今 こういうの古いんだっけ?」

花村「…?」


森谷「“ニコイチ”とか?

 “ズッ友”… とかってヤツ?」


花村「(軽く苦笑して)…それも なんか

 古い気しますけどね…」


森谷「(笑いながら)おおい お前な」



森谷「分かったか?」


森谷「じゃあ 俺

 そろそろ帰っから」

   言いながら、手にしていた空き缶に吸い殻を棄てる


   隣の花村の肩をポンポンと叩いて

森谷「バイバイな “友達”」

   軽く片手を上げ、その場から離れていく


花村「ああ…

 お疲れ様です…」

   軽く慌てて、去り際の森谷に挨拶を投げ掛ける



   ×   ×   ×

   (回想)

森谷「だから 別に…

 そんなん関係ないんじゃない? ってこと」


森谷「仲良いとか…

 そうじゃないとか…」

森谷「友達とか友達じゃないとか?」

   ×   ×   ×


花村「──……」

   ひとり柵の上で腕を組み、先ほどの言葉に思いを馳せている



花村「…え?(はたと思い出したように)

 いや… ってか──」



   去っていく森谷の背に向かって

花村「“友達だろ”って…!」


森谷「…?(怪訝そうに)」

   声の方に振り返って


森谷「…ええ!?(面倒くさそうに)」

   距離のある花村に向かって、声を張り上げ問い掛ける



花村「番号消してたのに…!?」

   森谷に届くだけの声を張る


森谷「っ…」

   バツが悪そうに、眉を顰める



森谷「うるせー!」


花村「“うるせー”って…」

   身も蓋もない返答に当惑して



   距離のあるまま、声を張って話を続ける

森谷「そういうんじゃないんだよ!

 …ずっと連絡してなくても──」

森谷「何年も会ってなくても──」


花村「──……」

   離れた場所にいる森谷をじっと見つめたまま、言葉に耳を傾ける



森谷「…あ〜

 あと…」

   言葉を引っ張り出すように、顰め面を手で覆いながら


花村「…?」


森谷「── “番号消してても”!」

   思い出したように付け足す


花村「っ…(思わず苦笑する)」



森谷「それでも “親友”とか…

 … “大事な人”とか──」

   真面目な顔になって

森谷「そういうのもあるだろ

 …そういう関係もさ」


花村「──……」


森谷「“大人”んなれば…」


森谷「そんなこともあるだろ」


花村「……」

   思い耽るように、森谷を見つめたままでいる



  *   *   *


   ×   ×   ×

   (回想)

森谷「…ずっと連絡してなくても

 何年も会ってなくても──」


森谷「それでも “親友”とか…

 … “大事な人”とか──」

森谷「そういうのもあるだろ

 …そういう関係もさ」

   ×   ×   ×


◯電車内(夜)


花村「──……」

   ドア脇に立ち、外の景色を眺めながら、電車に揺られている



花村M「そうだよ

 未だに乙川は…


 俺にとって “大事な人”だよ


 何年も会ってなくても…

 あれから一度も連絡してなくても


 だったら…

 そんな関係もあるというのなら──」


   寄り、森谷から受け取った封筒を握っている花村の手


花村M「まだ手放さなくても

 赦されるだろうか」



花村「……!」

   スマホの通知(バイブ)に気付いて


   寄り、花村のスマホ、ラインのトーク画面

森谷(ライン)『番号ちゃんと登録しました』

   文末にふざけた表情の絵文字が付けられている


花村「っ…(笑って)」



花村「──……(真面目な顔に戻って)」

   ラインのトーク一覧に戻り、スクロールして下の方に遡っていく


花村M「…まだ怖いけど


 “3年越しに

 預かり物 受け取ったよ”なんて──


 送る気はさらさらないけれど…


 3年越しに…」


   花村の手に握られている封筒のカット


花村M「今 この “タイムカプセル”を

 開くみたいに


 今 此処から

 もっかい何かが始まるのなら…


 もう一度 君に会えたなら


 何を話そう?

 俺は君に──」



花村「──……」

   寄り、再び窓の外の景色を見つめている花村の横顔


花村M「何を伝えたいだろうか」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る