第2話 嬉しすぎて死んでしまいそうです
「来ました、正田君。用件は?」
目を閉じて静かに小さく深呼吸して、気持ちを落ち着ける。噛んだりしたら台無しだからな。
目を開けたらしっかり言葉さんを見つめて。
「俺……あーだこーだ言うの苦手だからさ、単刀直入に言うよ。俺……言葉さんのことが好きです。俺と付き合ってもらえませんか?」
だめでもともと。当たって砕けろだ。いや、砕けたくはないけどさ。
永遠とも思える沈黙。もしかしたら、聞き逃した?
言葉さんの声は小さいからな……
心配がピークに達した頃、ようやく言葉さんが口を開いた。
「えぇ、いいですよ」
──以上。
もう少し何か言ってくれるかと思ったけど、それっきり黙ってしまった。理由とか聞かれる覚悟で色々準備してたんだけど……
「俺とお付き合いしてくれるってことでいいんだよね……?」
「はい」
やはり俺の聞き間違いではないようで安心した。
「じゃあこれからよろしくね?」
「よろしくお願いします」
「とりあえず今日は遅いから帰ろうか。途中まで一緒してもいい?」
もう言葉は返ってこなくて頷きだけ。
うーん……淡白だ。これくらいでめげる気はサラサラないけど、どうしたら笑ってくれるようになるか悩んじゃうよな。まぁでも今は告白が成功した喜びを噛み締めよう。その後のことはこれからゆっくり考えるさ。
教室を出ると、言葉さんは2歩程後をついてくる。
そしてその時、初めて言葉さん心の声を聞いたと思う。本当に小さな声だったけど。
「嬉しすぎて死んでしまいそうです……」
心臓が跳ねた。だってあの言葉さんがこんなこと言うなんて思ってなかったからさ。
振り返って言葉さんを見ると、何事かと首を傾げられてしまう。
あ、あれ……?聞き間違い……?
**********
どうしましょう、どうしましょう……
ついに来てしまいました。後はこのドアを開けるだけです。約束の時間は……丁度今じゃないですか!
ええい、女は度胸よ!あれ、愛嬌でしたっけ?
……そんなの今はどうでもいいですね。
──ガラッ
「来ました、正田君。用件は?」
あぁ、なんて可愛げのないことでしょう。なんですかこの事務的な感じ。他に言いようがあるでしょうに……
「俺……あーだこーだ言うの苦手だからさ、単刀直入に言うよ」
ちょ、ちょ、ちょっと待ってください!いきなり本題ですか?私、まだ心の準備できてませんよ?
「俺……言葉さんのことが好きです。俺と付き合ってもらえませんか?」
きゃー!やっぱり告白でした!
嬉しいです!私も好きです!
えっと、えっと、どうすれば……?
そ、そう!お返事ですね。
なんと言えばいいんでしょう?
はい、喜んで……居酒屋みたいですね?
しょうがないわね……ツンデレさんでしょうか?
考えさせてください……今を逃したら私から話しかけられる気がしません。
申し訳ありません……いやいや、断りませんからね?
私も好きです……これですよ、これ!これでいきましょう!
「えぇ、いいですよ」
なんなんですか!予定と違います!なんでこんなにお高くとまってるんですか!
本当に私はどうしようもないです……自己嫌悪です……
彼はこんな私のどこを好きになったんでしょう?
見た目でしょうか?
寡黙なところでしょうか?
わかりません……私、自己評価低いので……
「俺とお付き合いしてくれるってことでいいんだよね……?」
「はい」
私がこんなだから再確認されてしまったじゃないですか……
「じゃあこれからよろしくね?」
「よろしくお願いします」
よろしくって言ってはみましたけど、どうよろしくしたらいいんでしょう?お付き合いするって何をしたらいいのですか?
「とりあえず今日は遅いから帰ろうか。途中まで一緒してもいい?」
い、いきなり一緒に帰るのですか?!
積極的すぎませんか?!
でもでもお付き合いしてるなら普通のことなんですかね?
基準がわかりません。なにせ初めてのことですからね。
と、とりあえず頷いておきましょうか。
あぁでも、こんな私のことを好きと言ってくれるなんて。
私も本当に好きなのですよ。
私は知ってますよ、あなただけは私を『つぐむちゃん』と呼ばないこと。
ニコリともしない、返事もほとんどしない私に話しかけ続けてくれたのはあなただけなんです。最初は鬱陶しいと思ったこともありましたけどね。最初だけですよ?
それに、あなたの言葉はとても真っ直ぐで、心の内をそんなにも曝け出せるあなたに憧れたのです。
だから、そんなあなたに好きと言ってもらえて
「嬉しすぎて死んでしまいそうです……」
いや、死にませんけどね?
折角お付き合いできるのですから、せめて振られるまでは死にませんよ?
あら?正田君、いきなり振り返ってどうしたのでしょうか?
……そんなに見つめられたら恥ずかしいじゃないですか。
ドキドキします……この気持ち、どうしたらあなたに伝えられるのでしょうか……
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