第22話「プレゼンでござる」


 ぞろぞろとやって来おったわ。

 場所はこないだ腕相撲大会を行なった食堂。ここが領主屋敷で最も広い部屋だし都合が良いからじゃ。


 四人のギルド長に加えて土木ギルドからテラスモ、さらにジャンヴィエ領主殿。

 さらにさらに領主夫人にその娘、息子。


ジャンヴィエちちうえ殿? なぜ奥方ははうえや子供らも連れてきたのじゃ?」

「いやぁそれがさ、三人ともナガツキくんとヤヨイに会いたいって言うもんだから」


 物見遊山でリッパ旅行か。ん、まぁ悪くない。家族サービスも必要じゃ。妾も皆に会えて嬉しいしな。


 とりあえずはこの者どもにイヴェルを加えた面々を口説き落とせば良い訳じゃ。ノヴァンブラ長月の義弟は未来の領主となるかも知れぬし、未来も見据えて尚良いとしよう。


 そしてこちら側からは妾、長月。加えてヴィヨレ。

 たった三人ぽっちじゃが負ける気はせぬぞ。


「ね、ねぇヤヨイちゃん? どうしてヴィヨレも呼ばれてるの? 偉い人ばっかり……」

「地割れ発見の功労者じゃからな。まぁ、ヴィヨレは座っとるだけで良い。昼メシも用意しとるゆえ、楽しんでってくりゃれ」


 呼んだ甲斐はもうあった。ヴィヨレを呼んだ効果がすでに出とる。

 見てみぃ長月の義弟ノヴァンブラを。頬染めてちらりちらりとヴィヨレを盗み見とるわ。

 可愛かろう、うちのヴィヨレは。



「集まって貰うたのは他でもない。竜の瀬の土砂崩れについて報告したいんじゃ」


「待ってくれヤヨイさま――いやヤヨイ。それについては俺の土木ギルドも調べたが、もう崩れる土砂はえ」


 早速じゃなテラスモめ。相変わらず旨そうな猪っぷりじゃの。


「あぁ、そうかも知れん。しかし妾の調べた限りをまず聞いてくれ」


 立ち上がり――股にピリっと痛みが走ったが気にせず壁に地図を貼る。


「これは妾が描いた竜の瀬の絵図面じゃ」


 わ、上手――とヴィヨレら女性陣から声が上がって満更でもない。ニヤける。


「ここの印の地点。この全ての地点で地面の下を調べた。フォジョンに作って貰うたこの鉄筒を使うてな」


 首を捻る面々に、使い方から何から丁寧に説明する。その上でコイツじゃ。


「その全てでこの、冷えて固まった溶岩があることが分かったんじゃ」


 コロンコロンとテーブルに転がした黒い石たち。

 長月が無駄に掘り出しよった長い溶岩は見せぬ。ややこしいからな。


「その黒い石はあん時の――!」


 テラスモがそう言うがとりあえず無視。


「恐らく相当に昔、このリッパには火山があったのじゃろう。そして火山から流れてたであろう溶岩。その名残りがこの石じゃ」


 ほぅ、とか、へぇ、とか呟いたフォジョンらが興味深そうに石を摘みあげる。アルにいたっては齧って硬さを調べとる。妾でさえ貫けん、歯が折れるぞ。


「なるほど。自信満々に言うヤヨイの様子からしてそれは確かなんだろう。けれどそれと土砂崩れとどう関係がある?」

「そう、さすがはジャンヴィエちちうえ殿じゃ。これからその説明をしたい」


 さぁ、ここからが本番じゃぞ。


「ネージュ! 皆に昼メシを!」

「ガッテン! かしこまりー!」


 ぽかんと皆が一様に不思議顔。

 幸先良いぞ。プレゼンには驚きが必要じゃからな。


「料理上手のネージュお手製じゃからな。味は保証するぞ」


 レガンも手伝いネージュと二人で皆のもとへとサーブする。妾は股が痛いゆえ手伝いは控える。すまん。


 皆の前にはなんの捻りもない麦粥。

 そう、あの麦粥じゃ。少し煮詰まってしまったあの麦粥。

 なにか意味があるのかと、みな恐る恐る食べてはいるが、案外と旨いさすがネージュとパクパク食う。


「なんだ、ヤヨイとナガツキ殿は食わんのか?」

「食うぞ。ただし特製のでな。持って来てくれたかフォジョン?」


「あぁ、このタイミングで使うのか」


 合点がいったらしいフォジョン。自ら持参の木箱からゴソゴソと取り出したのは歪な形の馬鹿デカい皿。


「昨日の今日で作って持って来いってのはもう勘弁してくれ」

「すまん、感謝しとる。ネージュ、これに麦粥を盛ってくれ。大盛りでな」


 妾の前に置かれたのは、高低差がある

 妾が調べた溶岩層をそのまま表現して貰ったんじゃ。


 最も高い部分はヴィヨレが見つけた地割れ辺り。

 最も深い部分はマヤト川と街道を含む辺り、そして街道南に立ち上がる岩壁。


 その高い部分と低い部分とを結ぶように、川の少し北でぐっと盛り上がり、そこからなだらかに登っていく斜面。

 そこ目掛けて麦粥をよそって貰う。


 そしてここからはチマチマと手作業じゃ。

 スプーンの背を使ってあの日と同じ様に、マヤト川を、街道を、崩れる前の丘を表現していく。


「どうじゃ。竜の瀬に見えんかテラスモ?」


「…………見える。竜の瀬そのものだ」

「さすがは土木ギルド長じゃ。よう分かっとるわ」


 もう一日でもプレゼンまでに日があれば練習できたんじゃが……。


「この溶岩層は水を吸わん。この麦粥――地面を通った雨水は溶岩層のすぐ上を流れる訳じゃ」


 ま、言うても始まらん。こういうのは勢いが大事よ。


「さぁ皆の者。この間の竜の瀬で起こったを再現する。よう見とれよ」


 ヴィヨレ地割れの辺りにスプーンを入れる。

 そのスプーンの背でもって、ゆっくりと押し付ける様に押してやる。


 滑れ――! 麦粥!


 妾の期待に応える様に、ずすずと滑り落ちた麦粥は川底に溜まる様に押し、そのまま街道を押し上げよった。


 ……ニヤけるな。ニヤけてはいかんぞ弥生。


 さも当然の様に言え。言うんじゃ。


「どうじゃ。これがこの間の竜の瀬地すべりの全貌じゃ」


 自信ありげな顔に見えておる――


 ――はず、じゃろ?

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