第19話「溶岩の層でござる」
ほぅ? この黒い石が冷えて固まった溶岩じゃと?
「間違いないのか長月?」
「間違いないのかと言われると断言はできんでござるが……恐らく、十中八九は合うておる、と、思う、でござる」
……やや自信無さげじゃな。
しかしこの場合、妾は長月を疑う事はほぼない。いや、十中八九どころか
「でかした長月! という事はだ、かつてこのリッパに火山があったという事じゃな?」
「お、恐らく。ここリッパ盆地と違って鬼ヶ島は中央が高い地形でござるが、何百年だか何千年だか前、かつてそこに火山があったと親方さまから聞いたでござるよ」
ん、さすがの妾も思い出してきた。
島の北側、一部の土地は不毛の地。この黒い石とよく似た岩盤に覆われた、
「な――!? ひ、姫さま!? む――むぐ!?」
ぐいっと奥エリを掴んで引き寄せ膝立ちにさせた長月を、がばちょと抱き締め妾の胸に一旦沈める。そして上向かせたその、品の良い色気を纏う唇を吸うてやった。
「あ――あふっ、んっ――ひ、姫さま――」
さらに長月めの舌を妾の舌が絡め取る。
この凛々しく賢い
妾の芯の部分が熱を帯びて湿り始める。しかしここは玄関じゃ。最後にもう一度深く吸い、ポンっ、と音をさせて解放してやった。
「長月。ヌシのおかげで妾の頭の中は完全にすっきり晴れた。今のく、口付けは、その、ほ――褒美じゃ」
なんか照れてしもうて言葉が出なかったんじゃ。呆れてくれるな長月よ――と、思ったんじゃがな。
「あ――ありがたき幸せにござる。精進するでござる」
長月めは満更でもなかった様子。可愛いヤツよの。
玄関からほど近いネージュの部屋。
そこのドアから顔を覗かす師匠、その上にレガン。
二人のひそひそ話が丸聞こえじゃ。
『なぁレガン。あげな
こらこら不埒な姉弟。大変興味深いがその話題は夜も更けてから二人っきりでせよ。レガンも鼻息荒く頷いとるんじゃないわ。
大体そんな訛った
「ネージュ! 腹が減った! 晩飯はなんじゃ!?」
腹も膨れて夜も更けた。
あとはもう、床に入って休むのみじゃ。
のみ、なんじゃが……。
「姫さま? まだ
「長月、ちと聞いて欲しいんじゃが……」
やはり早目に言うておくべきだとな、妾はついに判断したんじゃ。
ベッドに腰掛ける妾の言葉を聞いた、神妙な面持ちの長月が隣に腰掛けた。
「伺うでござる」
「妾ら二人は
「初夜の事でござるな」
おお、はっきり言うたな貴様。男らしいやつよ。
「そう、そのソレの事じゃ。誠にすまんが、もう
「分かってござるよ。それがしは姫さまを疑わんし、信じてござる。時が来たら教えてくれればようござるよ」
本当に
「そ、そうか! すまんな長月。分かってくれて嬉しいぞ!」
「では明日に備えてもう
ランプを消した長月と共にベッドへ潜り込む。
しかしさすがに悪いでな、師匠に教えて貰うたアレをやってみようぞ。
「長月、せめても――な。ちと腕を貸してくれ」
暗闇の中、頷いたらしい長月が伸ばした腕にコロンと頭を乗せる。
「腕枕とかいうらしい。聞いた話では幸せな眠りが訪れるそうだ」
「いや、しかしこれは――参ったでござるな」
「なんじゃ? 嫌な感じか? 妾はヌシに
妾はもう長月の体温やら匂いやらでもう幸せいっぱいじゃ。
「……バッチリでござるぞそれがしも。なんの問題もないでござる」
そうか、長月も幸せならば良かっ――……
「おはよう長月! よう寝たわ!」
「おはようでござる。今日も姫さまは元気いっぱいでござるな……」
「当たり前じゃ! 腕枕のおかげで元気もりもりじゃわ!」
どことなく長月が疲れておるようじゃが、領主名代の仕事も大変なんじゃろうな。
今夜は師匠に教えて貰うたマッサージとかいうので癒やしてやるとしようか。
ではいざ!
竜の瀬で鉄筒調査といくか!
…………ちと、飽きた。
昨日のイ六から等高線六に沿うて西へ移動しロ六、ハ六、ニ六と順に調べたがなんの変わり映えもない。
大体鉄筒八本で硬い層――冷えた溶岩らしい層にぶち当たるという事が分かっただけじゃ。
とは言ってもそれは想定内。
レガンに準備して貰うた木槌があるゆえ手も痛うないし、明日からは恐らく溶岩までが深くなるであろうイの五、イの四と攻めてみようぞ。
なんならそのままイ列を
よし。今日はもう最後にヴィヨレ地割れの様子だけ覗いて仕舞いとするか。
……ん?
気のせいかも知れんが……地割れの幅、ちと大きくなっとるような気がせんでもないが……。
どうじゃろ?
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