第15話「共働きでござる」
そのあと鍛治ギルドでもう少し話を詰め、試しにこんな感じとフォジョンが簡単に作った試作品を一緒に見た。
なんか知らんがちょうど良いサイズの鉄の板切れが大量に余っておったらしい。
鍛治ギルドとしても在庫一斉処分と加工の手間が減る、渡りに船という事で金貨一枚で済んだらしいんじゃ。
「まずは鉄板の端部にジョイント用の切り欠きを設けて、さらに少しずらして二枚重ねて固定する。それを筒状に丸める。それだけだ」
ほう、これは凄いな。
最低限の手間で妾の注文に応えておる!
二枚重ねる、か。
妾も自分で描いててこんなん作れるんかと思っておったが、二枚重ねることで一気にシンプルんなったわ!
後はもうフォジョンに任せておけば良い。
三日後の昼にまた来ると言い置いて鍛治ギルドを後にした。
ほんの三日であれが仕上がると言う。
リッパの鍛治ギルドはやばい。優秀すぎる。
いや、相場が全く分からん妾の判断になるゆえもしかしたら普通なのかもしれん。
それでも予想より断然早い。これは妾も急がねばなるまいて。
その足で竜の瀬に行きあちこち歩き回る。
あいにく控えるものも何も持ってきておらんから全力で頭の中に留め置く。
日が傾いて西の空を赤く染め始めた頃、暗くなる前には戻ろうと領主屋敷を目指して竜の瀬を離れた。
ヤバい、もう忘れそうじゃ。復唱しながら帰るとしよう。
テラスモらの拠点となる仮小屋から助走を始めてマヤト川を跳び越えた先の地点。
仮小屋からちょろまかした木杭を差したところを『イの
そこから川に対して並行に移動して西へ五〇歩の地点に杭『ロの
さらに北へ三〇歩登り『ヘの
さらに北へ三〇登って…………
五〇なら五〇、三〇なら三〇とかで歩数を統一できればこんな苦労はせずに済んだのだが、なにぶん崩れた丘、露出した地面や残った木々がある。
屋敷に戻って濡れた頭を拭うでもなく叫ぶ。
「ネージュ! 筆と紙――なにか書くものをくれ!」
…………とりあえず妾が分かれば良いゆえイムの言葉でなくても良いか。
ネージュから紙と羽ペン、さらにインクを預かり机に向かう。腹が減った。結局昼メシ食うとりゃせんわ。
しかし忘れてしもうては元も子もない。書斎に篭ってとにかく書く。
「ヤヨイどん! メシはともかく頭と体だけでもオラが拭くど!」
タオルを持ったネージュが頭や体をがしがし拭くせいでペン先が震えるのを、筋肉と集中力で
「よし! 汚いがとりあえず出来た!」
がたんと椅子を膝裏で弾いて立つ。そして書斎を出て言う。
「メシだ! ネージュ頼む――……ん?」
「姫さま静かに。皆はもう寝たでござるが、ネージュが夜食を用意してくれてござるぞ」
なんと。妾はそんな長いこと書斎に篭っておったか。気付かなんだわ。
「そうか、悪いことしたな」
「気にしなくて良いでござる。さ、食べて
長月が引いてくれた椅子に腰掛けると、さらに籐籠に掛かった布を取り去ってくれる。
「ほう! 美味そうじゃ!」
「ネージュお手製のカスクートとか言う惣菜パンでござる」
縦に切れ目を入れた
「すまんでござるが飲み物は
「ならばミード一択じゃな」
「だと思ったでござる」
長月がミードを注いでくれている間に、早速カスクートをガブリと噛んで後悔した。
しもうた。亭主に酌して貰うてる間にメシを食う、こんな女房がどこに
そっとカスクートを籐籠に戻し、手は一旦膝の上。
「どうしたでござる? 食わんでござるか?」
「いや、その……亭主に給仕させといて、な、ちぃと
ことり、とミードを注いでくれたグラスをテーブルに置いた長月が笑い飛ばして言った。
「それがしらは
共働き……ふむ、まぁ確かに。
「どっちがどうとかそれがしは別に気にならんでござるし、さらに今夜の姫さまは
見よ世界中の者ども!
これが妾の旦那!
世界中に自慢したくなる妾の旦那さまよ!
「大体それがしは元々姫さまの従者でござる。ちっともおかしな事ではござらんよ」
むぅ、確かにそうじゃ。元々
でもだからこそ、晴れて妻となった妾が此奴の世話などしたいと思うんじゃが……なかなかそういう機会がないのが実情じゃ。
今度ネージュに料理でも教わってみるかな――ってまたネージュの師匠度が上がってしまうのぉ。
「長月すまん。ありがとうな。愛しとるぞ」
「――そ、それがしも愛してござるぞ、や、弥生」
照れとる長月はかわゆいのぉ。きっと妾の頬も染まっておるじゃろう。
すわ! この流れでいざ! 初夜!
と行きたいとこじゃがそう上手くは行かんかった。
昨夜の寝不足と
良い雰囲気から一転、ごとん、と妾はテーブルに突っ伏したらしいわ。
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