第7話 僕は仕事人間。

 遠くからクラクションが聴こえる。遠くから怒鳴り声が聴こえる。近くで悲鳴が聴こえる。

 顔を上げると20代前半の男女が窓越しに叫んでいる。おそらく、僕の駐車していた場所が悪く、トラブルが起きている。クラクションで邪魔だと合図を送るが反応がない為、車内から降車し、近くで男が怒鳴るが吐瀉物だらけの車内と泡を吹いている自分を見た女が悲鳴を上げる。

 妙に頭が冴えて、推理も完璧だ。ここでトラブルを起こすと、1.2対及び近隣の人に不審がられ張り込みが次回から困難な状況になってしまう。得意な演技で申し訳なさそうに車を発進させる。

「すみません!発作が起きてたみたいで、すぐに病院に行きます!ご迷惑おかけしました。」

 早急に立ち去る。バックミラーで唖然とした男女を観て、自分の演技の旨さに鼻が高くなる。

 近くのコンビニに駐車後、時刻を確認して2時間気絶していた事を知って直ぐに車内に設置したカメラを確認する。2対の姿はバッチし捉えている。2対と彼女は別人だ顔を違うし背も違う、胸を撫で下ろしゆっくりと胃酸臭がする車内の空気を吸った。

目標は達成だ。

 電話で相方に今までの状況を報告する。本当は、正直に伝えようか迷ったが、僕は彼女に、任された事はしっかりとやり遂げなさいと教えて貰った。全てを伝えると相方は妙に落ち着いた様子で、

「2日間仕事を休め、有給にしておくよ、休みが足りない様なら言ってくれ、お疲れ様。」

相方は本当は冷静沈着な男だ、僕とは違ってイケメンだ。

 猫が住んでいそうな家に帰り、車内を掃除し、シャワーを浴びて今日の報告書を作成し、カメラの映像を写真に切り取る。やはり2対は何かが彼女に似ている気がする。

納品が終わり、やっと青ざめた顔に血が巡る。顔が熱くなって冷えピタを顔中に貼って、溶ける様にベッドに寝転び、頭の隅で考える。

何故2対を彼女と思ってしまうんだろう。


Instagramの仕事様アカウントではない、プライベートアカウントであのアカウントをフォローして眠りにつく。




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