第3話 愛執。

 今日の仕事は16:30開始なので、移動距離も考え、15:00に相方の家に集合する。。相方の家まで自転車で15分掛かるので、余裕を持って14:30に家を出る。

 着替えの服を何着かリュックに詰め、カメラを持ち歩く為の大きめのショルダーバッグもリュックに押し込み、家を出る。

 季節は夏中盤。

 蝉たちが一生懸命に飛び回り、オシッコ爆弾を投下する。ミンミンと泣いている。


 一年前、僕には恋人が居た。

 岡山の高校を卒業後、兵庫に引越し、木工作家になる為、一生懸命に努力していた。だが自分の才能の無さに気づいて、引きこもりになった。

 その後、地元に帰り、自分の無能さに毎日震えていた頃運命の人と出逢った。彼女のお陰で自信を取り戻し、地元の工場に就職した。

 その半年後、車の逆走事故に巻き込まれ、脚を怪我して、春に入院そして退職。その後夏に退院し、友人の誘いで地元の酒蔵でバイトをしていた。


 わんぱくな彼女は散歩が好きで、僕もリハビリついでに良く付いて回った。

 ある日の散歩中に彼女が立ち止まって。

「蝉は泣いてるんだよ何年も土の中に居て、友達同士で数年後、外の世界で共に飛び回ろうぜって約束して、でも土から出た途端に外の世界に怯えるの、想像よりも眩しくて、暑くて、仲間がどんどん食べられて、死んでいって、次は僕かもしれない。怖い、寂しいって、それで、ああやって恋人を見つける為に必死になって、飛んでるの、絶対に恋人は居なくならないって信じてるの。辛いだろうな。」

 珍しく、寂しい事を言う彼女が少し知的に見えた。大好きだった。


 14:50 相方の家に着いた。駐輪場に自転車を駐車し、プリウスの鍵を開けて運転席に乗車する。

 同後、リュックを後部座席に投げエンジンを始動し、クーラーの温度を一番下にし、暑いのが苦手な相方の為に、車内の温度をガンガン下げる。


 15:00 相方が目を擦りながら、助手席に乗車する。

「発進します。」

「おう。」

「なんでそんなに眠そうなんですか?」

 話を聞くと、どうやら一緒に暮らしている彼女と朝までイチャイチャしていたそうだ。イチャイチャ。

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