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「こんにちは」

アオネが声をかけると男性は振り返った。白衣を着ているのは、その男性が医者であるからのようだった。

「ええ、こんにちは」

男性は答える。低い、落ち着いた声色だった。

「夏の間、こちらに?」

男性はアオネに聞いた。

「はい。この町は私の生まれ育った町なんです」

男性は少し微笑んだ。

「そうですか。私はよそから来まして。どうしてもこの墓に参りたかったものですから」

「普段はどちらに?」

「都会で医者をやらせてもらっていまして。この子は私の患者だったんです」

「ご愁傷様です」

男性が手で促したので、二人は並んで墓地を歩き始めた。

「ここがふるさと、ということですが、ここはいい町ですね。羨ましくなるほどだ」

「ええ、私も気に入っています」

「老後はここに住もうかと思えるほど気に入りましたよ。そう思えるからこそ、また後悔して、思い悩むのですけれどね」

「患者さんの事ですか?」

「そうです。死んだとき、彼はまだ17歳でした。心臓に重い病気を患っていて、田舎の医療施設では治療が難しくなったので私の病院に来たのです。死ぬ前の一年、彼は地元に戻らせてくれないかと私に相談してきました。かなり状態が悪かったので、私はその申し出を却下してしまいました。彼は夏が好きでした。この町の夏が好きだったんでしょうね。彼は結局、この町に戻ることなく旅立ちました。今でも後悔しています」

男性は落ち着いた声のまま言った。

墓地を出て分かれ道に出る。

「夏の幽霊にでもなって、彼がこの町の風景を見られたらいいのにと想像します」

「夏の幽霊ですか」

二人は軽く手を振って別れた。男性の白衣が見えなくなるまで見送ってから、アオネは神社までの道を引き返した。家に戻って夜祭の支度でもしよう、とアオネはぼんやりと考えた。


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