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アオネはカバンに入れていた手を出す。幼少期のころの自分も、わけもなくポケットやカバンに手を突っ込んでしまう癖があった。
「そういえば、昔もここは変わらずひまわり畑で、今市民プールがあるところには少しさびれた公園があったんだよ。自転車で友達とこの道を競争しながら走って、日が暮れるまで一日中遊んだ」
「面白そう」
少年は言った。
最近は地球温暖化の傾向も手伝ってか、外出して遊ぶことはあまり推奨されなくなってきた。公園も、怪我をする危険が少しでもある遊具は撤去され、ボール遊びも事故のもとになるので禁止され、公園はただサラリーマンやホームレスがベンチに座っていられる場所と変化してきているというニュースを聞いたことがある。最近の小学生は家でゲームやネットをするようになってしまったのだろうか、と思うとなんだか寂しくなった。
「僕は一日中プールで泳いでる」
「学校のプールには行かないの?」
「一人で練習して泳げるようになりたいんだ」
少年はバス停のベンチから立ち上がると、クロールの真似をして手足を動かした。夕焼けのひまわり畑をバックに空中を泳ぐ少年は、まるで夏の肖像だった。
やがてバスが来る。少年は商店街近くのバス停で降りて行った。降り際に少年はアオネに手を振った。
バスの車窓から見える空はオレンジ色に混じって藍が差し始めていた。家に戻って夜祭の支度をするとしよう。浴衣や髪飾りは旅行鞄に詰めて古民家まで持ってきている。祭は浴衣で楽しむというのは、アオネがいつも決めていることだった。
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