012

「蛍を見せてよ」

アオネが言うと、青年は微笑んだ。

「こっち」

青年は境内の奥へと歩いて行った。アオネもその後について歩いていく。青年は神社の中心の建物である御社殿ごしゃでんの裏手へ入って行った。アオネも子供の頃、神社によく遊びに来ていたので、その先に何があるのかは知っていた。神社の裏にはきれいに澄んだ小さな池がある。夜に来たことが今までなかったのでわからなかったが、あの池には蛍がいたのか、と盲点を突かれたような気になった。

少し背の高い青草を踏み分けながら進むと、池が見えてきた。

「あ、蛍だ」

アオネの目の前を蛍光色に光るものが、空中に光の軌跡を残しながら飛んでいった。池の周りには何匹か蛍が飛び違っていた。

「綺麗だね」

「もっと綺麗に見えるところがあるんだ」

青年は立ち止ったアオネに言って、まだ先に進んでいく。

それから数分歩いたところに洞窟の入り口があった。入口の前には神社でよく見るひらひらした白い紙、紙垂しでが下がっていた。

「ここに入るの?ずいぶん暗いけど」

「大丈夫だよ」

青年は洞窟に半分足を踏み入れたような恰好でアオネに手を差し出してきた。なんだかそのしぐさが、冒険にしり込みする友達を勇気づけて誘う子供のようで、自分の子供時代を思い出させた。アオネは青年の手を取って洞窟に入った。

洞窟は少し頭を下げないと頭が天井にぶつかるくらいの大きさで、まっすぐ続いていた。時折ピチョンという水滴が天井から落ちる音がしていた。青年の靴と、アオネの下駄の音が反響した。十数メートルほど進んだとき、分かれ道が現れた。右は緑がかった光がちらちらと曲がった先から漏れているのが見える。左もまた光が漏れているのだが、こちらは緑ではなく、どちらかと言えば青白い色の光源があるようだった。


①右の道へ行く 021へ

②左の道へ行く 032へ

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る