010
「夏の色、といえばこれじゃないでしょうか」
アオネはカバンの中からラムネの瓶を取り出した。涼し気な水色がかった透明なガラス。女性ははっとしたように見つめた。
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「ラムネって、人それぞれに懐かしくなるような思い出を閉じ込めるわね」
女性はアオネからラムネ瓶を受け取って、光にかざした。瓶の中でビー玉がカランと音を立てた。
「入ってる飲み物はただのサイダーなはずなのに、この特徴的な瓶と、夏にしか売っていないという特別感がそうさせるんでしょうかね」
「あなたにもきっと、ラムネで思い出す懐かしさがあるんでしょう」
「そうですね」
女性はしばらくラムネの瓶をかざしてその瓶の透明を通り抜ける光の綾を楽しんだ。
「私はいつもラムネを見ると、ひとりの人を思い出すの。もういないけれど、どうしようもなく切ないような、懐かしい気持ちになる」
「亡くなってしまわれたのですか」
「ええ。高校生の頃だったかしらね。彼は心臓を患って入退院を繰り返していたわ。都会の病院に移動することになって出発の前日、二人で祭に行ったの。夜祭は暗くなってから始まるけれど、彼は病院を抜け出して私たちは昼頃から会ったわ。良く晴れた、そう、今日みたいな夏の正午だった。二人でラムネを買って飲んだ。この一日が私の一生だと思ったわ。よくわからないけど、悟ったの。それから私はあの日に、あの夏の空に憑りつかれている」
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