007
神社の裏手の道を少し行くと、池が見えてきた。少し背の高い草がサンダル越しの素足にこすれる。青い草の匂いがする。
池は小さな天然のもので、良く澄んでいて赤や白の鯉が泳いでいた。池の上にかかっていた赤い欄干の橋は老朽化のために立ち入り禁止になっていて、渡れなかった。
アオネは鯉を観察しながらゆっくりと池の周りを歩いた。普段あまり人は来ないようで、池の周りの草に人が踏み歩いた跡は見当たらなかった。
「あれ、なんだろ……?」
アオネは泳ぎ回る鯉の間に、妙なものを見つけた気がして立ち止った。池のそう深くない底に何か白いものが見える。それは、四角くて、カードのような形をしている。アオネは日傘を杖のようにして地面に立てると、それに手を伸ばした。突然水面を乱されて鯉たちはすばやく散っていった。
拾い上げたそれは、テレホンカードのようだった。そこまで古くなく、きれいに拭けばまだ使えそうだった。
今時、テレホンカードなど、すっかり見なくなった。スマートフォンの利用が広まり、今の子供たちはテレホンカードや電話ボックスの使い方も知らないんじゃないだろうか、とアオネは思った。そういえば、山道の来る途中に電話ボックスがあった。あれはまだ使えるのかな、とぼんやり考えた。
『テレホンカード』を取得しました。Gの欄に『テレホンカード』と記入してください。
神社の境内に戻ると、屋台に明かりが灯り、発電機がうなりを上げ始めたところだった。そろそろ家に戻って浴衣に着替え、夜祭の準備をしよう、とアオネは決めて、家へと歩きだした。
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