あなたと私はきっと想い合ってる
涼
笑顔の二人
「もう、寒いね……。十一月って、なんか急に寒くなる……」
「うん。寒いな」
「ね」
「……ん」
「……うん」
翔月は、そっと、自分のコートの右ポケットに、花鈴の左手を入れた。これ以上ない、手を繋ぐ理由だ。
最後の理由だ。
二人は、冬以外、手を繋がない。それは、この決め事が始まってから、ずーっと、変わらなかった。
初めて、二人が、こうしたのは、中三の二月。前期試験で、高校への進学が決まり、しかも、二人は同じ高校に進学する。春休み前、少し、学校をさぼって、翔月の家の近くの公園の新雪の絨毯に、花鈴が、目を止めて、言った。
「ねぇ、あそこ、マッシロな絨毯みたい!なんか、足跡つけたい!!」
「バーカ! お前、ロングブーツじゃねーじゃん!!」
「いいの!! かっちゃん!! 早く!!」
「うわっ!!」
花鈴は、翔月の手を強引に引っ張って、新雪に二人の足跡を刻んだ。
「冷たーい!!」
「俺まで巻き込むなよ」
はしゃぐ花鈴に、抑えようとしても、抑えきれない笑みが、翔月の顔にも浮かぶ。
「ねぇ! かっちゃん!! 見てー!! スノースマイル!!」
「は?」
「ここ!! 『スマイル』の絵、描いた!! 雪の上だから、『スノースマイル』!!」
「お前、後二ヶ月で高校生だぞ? 子供ー……」
翔月が、そっぽを向く。
「かっちゃん……」
(あ……言い過ぎた?)
心配した翔月が、振り向く。
「えい!!」
ボフッ!!
「うわ!!」
「あはははは!! 冷たい!?」
「お前なー……」
花鈴は、雪合戦を、一人で始めた。付き合いきれない、みたいな顔をして、花鈴が投げてくる、雪のボールを、ひょいひょい避けるだけの翔月。自然と、顔がほころぶ。
「お前、馬鹿にもほどがある。俺、野球部!! 投げたら、お前、顔真っ赤になるぞ?」
「はーい!! じゃあ、ん!!」
「え?」
「雪で、手が冷たいでーす!」
「だから?」
「そのコートのポケットは、なんのためにあるのですかぁ?」
「…………ん」
「え…………」
「え!?」
翔月は、自分で言いだして、しかも、手を差し出しておいて、いきなり照れた花鈴に、思わず、すんごい、恥ずかしい事をしたのでは……、と、自分の顔にボールを当てたみたいに、赤くなった。しかし――……、
「……ん」
「……うん。ありがと、かっちゃん」
(こうやって……毎年、冬になれば、寒いって理由で、手を繋ぐ理由になるかも……)
翔月は、真っ赤な顔をして、真っ赤な顔をした、花鈴の頬に、そっとキスをした。
それも、遠い昔の出来事。
二人は、大学で遠距離恋愛になるのに、自信が持てなかった。最初は、頑張ろう、って言い合った。大丈夫、って言い合った。全然平気、って言い合った。
それを、言えば言うほど、どんどん、遠くなる気がした。頑張ろう、と思えば思うほど、苦しくなった。
―卒業式―
「かっちゃん、ありがとうね……」
「花鈴も、元気でな」
季節外れの、雪が降り始めた――……。
二人は、最後に、ポケットで手を繋いで、駅まで歩いた。
花鈴は、泣かなかった。
翔月は、思わず、手を握る力が、強くなった。
「「会えてよかった――……」」
「「!!」」
一緒になった言葉。一緒に驚いた顔。
二人は、最後、笑顔で別れる事が出来た――……。
あなたと私はきっと想い合ってる 涼 @m-amiya
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